書き出し自選・私の5作品(インターネットウミウシ)

 どうも、インターネットウミウシ(いんたあねっとうみうし)と申します。
 文芸ヌーさま、そして義ん母さまからお声がけいただき、今回初めて書き出し自選をやることになりました。
 2年ほど前から投稿を始めたばかりの若輩者ではございますが、よろしくお願いいたします。
 
 なんとなくでインターネットウミウシを名乗りはじめ、果たしてこの名前のままでいいのか、と思いながら2年の歳月が経ちました。
 ちなみに、インターネットウミウシはオキナワヒオドシウミウシの異名で、柄がインターネットの構成図のように見えることから、インターネットウミウシと名付けられたそうです。 
 一時期狂ったようにウミウシの名前を見続ける日々があり、その時に出会ったのがインターネットウミウシでした。
 ネコジタウミウシ、オシャレコンペイトウウミウシ、スケスケフリルウミウシも実在するそうです。
 なんでもありだな、ウミウシ界。 
 
 さて、今回5本の書き出し小説を自選いたしました。
 まず1本目。
 
 女は笑いながら砂になっていき、銀歯だけが残った。(171回 規程部門『不条理』)

 ちょうどこの投稿を考えている時に親知らずの治療をしておりました。
 夫婦でやってる歯医者さんだったのですが、治療中にしょっちゅうモメるので、口をあんぐり開けながら夫婦喧嘩を聞かされるという、本当に不条理な体験をしておりました。
 もう絶対知らねえ夫婦の喧嘩なんか聞きたくないと思い、それ以降歯をすごく大切にしています。
 では、2本目。
 
 ていねいなくらし、誰も傷つかない笑い、臓器ごと吐き出すカエル。(182回 規程部門『スリーワード』)
 
 3つの単語を並べてその味わいを楽しむ『スリーワード』。
 この回の規程部門は普段とは趣向が違うお題だったので楽しかったです。
 この時期に、よく目にしたり耳にしたりする言葉がなぜか「ていねいなくらし」と「誰も傷つかない笑い」でした。ほんとうにすてきなことばですね。
 とりあえずこの2つの単語を並べた時にふと浮かんだのが、ハチを飲み込んだあとに胃袋まるごと「オウェッ」って吐き出すカエルの姿でした。
 天久聖一さんから「オチが最高。」というコメントもいただき、とてもうれしかったです。
 続いて3本目。
 
 キャスター付きの椅子に乗って、深夜の社内を探検する。(184回 自由部門)

 「だいぼうけんにしゅっぱつだ!」みたいなワクワク感と、深夜になっても帰れないくだびれた大人を合わせてみました。
 書き出し小説を考える時は、文字より先に画を浮かべるようにしております。
 頭に浮かんだ珍奇な画を、なるべくそっくりそのままお伝えできるようにすったもんだを繰り返しております。
 全然関係ないですが、「すったもんだ」の語源を勝手に「吸った揉んだ」だと思っており、「まぁなんてお下品な言葉なの!卑猥!」と心の中の風紀委員がしかめっ面をしておりました。
 実際は「擦った揉んだ」だと知り、自分のドスケベ変態野郎っぷりにげんなりしました。
 さぁ、そんなドスケベ変態野郎の4本目。 


 サソリみたいな馬の糞にびっくりして、思わず目の前のサボテンに抱きつく。(187回 規程部門『バカ(2020)』)
 
 お題が出た時にコロナが流行り、さらにショックな事も重なった時期だったので、ひたすら「バカ」に没頭して書き出しを作っておりました。
 その中でもこれは頭の中で浮かんだ時に、あまりにもくだらなすぎて1人で「ヘヘッ」と笑ってしまいました。
 もしかしたらくだらなすぎて怒られるんじゃないか、思いつつ投稿してみたところ、天久さんから「バカとして一切無駄のない流れ。」、「バカをどう捉えるか、というより、書き手自身がバカになる手法で書かれた作品。」との嬉しいお言葉をいただきました。バカになれてよかった。
 一緒に挙げられていた昼行灯さんの書き出しもバカを通り越してホラーにすら感じられる凄まじい内容だったのでそちらも書き出し小説のサイトからぜひともご覧くださいませ。
 それでは最後〜THE・LAST〜。


 昂る感情を抑えられず、ルールも分からないまま魚市場の競りに飛び込んだ。(192回 規程部門『エモい』)

 「エモい」、という言葉をぼんやりとしか知らなかったのでこのお題が出た時に初めて「エモい」と真正面から向き合いました。
 そして「エモい」でまず最初に浮かんだのが、なぜか魚市場の競りでした。
 独特の空気と喧騒、プロとプロがぶつかる場です。
 あの買い手が出すハンドサインも静かにエモいし、そして何より競りを仕切る人のダミ声がエモい。
 その様子を見て、居ても立ってもいられず飛び込む人がいたらそれはもうエモ迷惑だろうなと思いました。


 書き出し小説の規程部門は、普段の暮らしの中では素通りしてしまうような、今までロクに考えたこともなかった言葉や事象が題材になることがあり、その題材についてを考えている時間が大好きです。
 人生でこんなにも魚市場の闖入者のことやサソリみたいな馬糞に思いを馳せ、文章にすることは多分この先もないと思います。
 でもなぜだかわからないけど思い浮かんでしまう風景や感情を、書き出し小説の中であれば閉じ込められるのです。
 
 長々と失礼いたしました。
 以上、書き出し小説自選5本でした。


 さて、次回の「書き出し小説自選」は、もんぜんさんです(2年ぶり2回目)。
 もんぜんさんは、私を書き出し小説の世界に誘ってくださったマジパねえ恩人でございます。
 ちょっと風変わりな場所で出会ったのですが、その話はまたどこかで。
 
 はたして、落ちてたピーナッツをめぐってマンドリルと殴り合いをした話は出てくるのでしょうか?
 乞うご期待です!

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