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ポエムはみんな生きている(第四回)

物語・表現・芸術の本懐

―国際ロマンス詐欺事件考 ni_ka

最近気になった物書き関連のニュースがある。『朽ちぬ愛を抱き続けて』を連載中で、ファンの方々や漫画業界では、「レディコミの女王」なる、めちゃくちゃかっこよい通り名もあるという漫画家の井出智香恵先生が被害者となった、いわゆる国際ロマンス詐欺事件だ。

これは、このリンク先(https://www.jprime.jp/articles/-/23022)の「週刊女性PRIME」による、井出智香恵先生へのインタビュー記事を読むと、事件の経緯をきちんと理解ができるので、こちらをまず読むことをおすすめしたい。

私なりに事件をざっと要約してみる。井出先生は、以前から、ハリウッド映画で中堅俳優として活躍しているマーク・ラファロの大ファンなのだそうだ。ラファロといえば、名作『エターナル・サンシャイン』や、名監督のマーティン・スコセッシ監督やデヴィッド・フィンチャー監督の作品にも出演しているとても存在感のある良い俳優だ。
そんな名俳優のマーク・ラファロとは無関係であろう詐欺師たちは、井出先生をターゲットにしてラファロを騙り、あたかもラファロが井出先生に直接話しているような巧妙な偽造映像や、様々な偽造画像などを駆使し、ラファロの虚像を井出先生の心に登場させ、ラファロと井出先生が恋愛関係にあるという、現実には無い物語を井出先生に提示し信じ込ませた。そして、詐欺師たちは、ラファロの虚像によるコミュニケーションと世界観=物語を紡ぎ続けることにより、井出先生から金銭を容赦なく騙し取っていった。被害総額はなんと7000万円以上なのだそうで、井出先生が生命をかけて描いてきた作品などの報酬を詐取したのだから、いけ図々しいドがつくドクズな詐欺師たちにふつふつと怒りがわいてくる。

恥ずかしながら、私は漫画に関して極めて無教養なため、事件の記事を読むまで井出先生のお名前を存じなかった。けれど、事件の記事を読み、井出先生のTwitterのアカウントを拝見し、そこで先生の作品の絵を観て、「あ!GUCCIの超話題になったコラボ作品の作者の方だ!」とすぐに気づいた。井出先生とGUCCIのコラボレーションのセーターやバッグは、お値段的に手がでなかったのだけど、一度は着てみたい無二の作品だった。ご存じない方は、「井出智香恵 GUCCI」で検索してみてね。若干の狂気すら覚える“可愛い”がてんこ盛りで、“邪”と“純”が絶妙なバランスで混在した作品なのだ。井出先生&GUCCIワールドは、“懐かしさ”のようなものをまとっているのだけれど、“キラキラ”の過剰さもあり、相反する感覚の混乱が、世界のファッショニスタたちを魅了した。最近のGUCCIのデザインのラインの中でも、傑作のひとつだったように思う。 

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