十年後への不協和音 2021年太宰治賞最終候補作『三月の子供たち』評
【書評】川村のどか 危険を承知であえて書かなければならない。
私が東日本大震災を考えたときに真っ先に思い出すのは、テレビによってくり返し放映された宮古市の港町へ押し寄せる津波の映像である。被害の壮絶さを象徴的に物語っていたその映像では、溢れ出した海水が漁船と思われる船を運び、住宅街という本来ならあり得ない場所を突き切るようにして押し流していく光景があった。人の姿こそ映っていなかったものの、濁流の下には確かに悲鳴や苦痛がこだましていた。テレビから流れるスペクタクルに唖然とした