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2021年7・8月の記事

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過去記事は有料です。 7・8月の記事を格納しています。 ①【文芸時評・7月】『文學界』から干されたオレがなぜかまた文芸時評をやっている件について(第一回) 荒木優太 ②【文芸批…
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#書評

「風景」と「生活」を失った文芸批評

時評・書評を考える(第一回) 仲俣暁生 同時代の小説や文芸作品を読むことで見える「風景」を言葉にしてみたいとはっきり意識したのは1997年のことだった。この年の9月に再創刊された「COMPOSITE」という雑誌で書評の連載を任され、ゼロ年代の半ばにこの雑誌がなくなるまで続けた。その懐かしい記事をインターネット・アーカイブに残っていた自分の過去サイトで掘り返してみると、初回で取り上げたのは4冊(片岡義男『日本語の外へ』/デイヴィッド・ハルバースタム『ザ・フィフティーズ』/宮台真

十年後への不協和音 2021年太宰治賞最終候補作『三月の子供たち』評

【書評】川村のどか 危険を承知であえて書かなければならない。  私が東日本大震災を考えたときに真っ先に思い出すのは、テレビによってくり返し放映された宮古市の港町へ押し寄せる津波の映像である。被害の壮絶さを象徴的に物語っていたその映像では、溢れ出した海水が漁船と思われる船を運び、住宅街という本来ならあり得ない場所を突き切るようにして押し流していく光景があった。人の姿こそ映っていなかったものの、濁流の下には確かに悲鳴や苦痛がこだましていた。テレビから流れるスペクタクルに唖然とした