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2021年9月の記事

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過去記事は有料です。9月の記事を格納しています。 ①【文芸時評・9月】『文學界』から干されたオレがなぜかまた文芸時評をやっている件について(第三回) 荒木優太 ②【時評・書評を…
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#小説

些細な目

【書評】第四回阿波しらさぎ文学賞受賞作 なかむらあゆみ『空気』 評者:川村のどか  自分にとっては些細なことではないが、取り立てて大騒ぎするほどでもない事柄というのが、人生の中には意外に多くある。劇的なものよりも妙に記憶に残ってしまうそういう事柄が、普段の生活で意識されることは稀であり、ほとんどの時間、忘れたまま過ごすのだが、かといって無意識というほど、深く埋没しているわけでもない。  具体例を挙げれば、なんとなくポジティブなものとして捉えていたモンシロチョウが、実は野菜や花

「さみしさ」を分有することと「恥じ」を感じること

文芸批評時評・9月 中沢忠之 文学界隈では、先ごろ刊行された小川公代の『ケアの倫理とエンパワメント』が話題である。『群像』に短期連載されたもので、「ケア」の観点から文学作品を読み直すという方法に依拠した評論だ。この評論を紹介し、同じように「ケア」の観点から複数の小説を評した文芸時評から一つの論争が起こった。論争のプレイヤーは鴻巣友季子と桜庭一樹である。  事の発端は、桜庭の自伝的小説「少女を埋める」(『文學界』9月号)を評した鴻巣友季子の文芸時評(『朝日新聞』8月25日「ケア

振動する純文学──非平衡開放系現象としての文学

時評・書評を考える(第二回) 大滝瓶太 非平衡な文学 まずはこれらの動画を観てもらいたい。  これはベロウソフ-ジャボチンスキー(Belousov-Zhabotinsky:BZ)反応という。手短に説明すると、系のパターン(視覚的には色や模様)が時間周期性を持ち、系の状態が振動しながら化学平衡へ収束するという、熱力学や複雑系で「非平衡開放系」の例としてよく取り上げられる現象だ。  いきなり見せられたところで、ビーカーのなかの「ちょっと不思議な現象」程度にしか思えないかもしれ