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小説冒頭試し読み

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文學界noteに掲載されている、小説の冒頭試し読み記事をまとめました。
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2023年5月の記事一覧

【創作】九段理江「しをかくうま」

 誰かいるのか?  ヒは問う。返事はない。ヒの問いがヒの体の中でこだまする。誰かいるのか? 誰かいるのか? 誰かいるのか?  声はたしかに聞こえる。どこから聞こえてくるのかわからない。聞こえ始めたころはとくに気にしていなかった声だった。だが次第に音が大きくなるにつれ、自分の頭がつくりだした声なのか、それとも頭の外からの声なのか、出所を知らなくてはならなくなった。それを突き止めないことには、どれほど頭の中に言葉を増やそうと、いくら急いで歩みを進めようと、どこへも行けないのだとふ

【創作】乗代雄介「それは誠」

 修学旅行から帰った翌日のしかも土曜日に学校があるのはどうかと思うけど、僕だって特別な事情がなければ風邪で寝込んでるなんて言い訳せず、ちゃんと登校したはずだ。でも今日だけじゃないんだな。僕は明日も明後日も寝込んでて、あと何十日か、事情次第じゃ何百日でもおかしくない。事情っていうのは、今始まったこれ――高校二年の東京修学旅行の思い出――をいつ書き終えるのかということだ。  例の居心地悪い自然な導入ってやつになる前に、僕の作業環境を書いておく必要がある。築五十年弱、リフォーム済み