『SNS少女たちの10日間』を観た(日記)

日本公開が決まり話題となった本作を好奇心丸出しで観に行きました、という感想日記。
大阪は緊急事態宣言が継続されたものの映画館は平日のみ開館となり、観たかった映画の消化に追われる日々ですが(嬉しいことですね)4月公開の本作もようやく観ることが叶いました。

SNS世代の人間が――とくに女が―――ネット上で知らない男性から何かしらの被害を受けたということは本当に少なくない。
かくいう私も20代前半、バリバリのネット世代で、中学生のときにネットを介しておぢさん(40代コンビニバイト)からメッセージを貰い、好奇心からやりとりをしていたら下着姿の写真の要求があったりちんこ(今思えば中の下くらい)の画像が送られてきたり、まあストレートに会ってセックスしようと言われたりした。
私は「あーやっぱこういう人いるんだな」という感情のみで終わったので、男性やネットにトラウマもなにもなく、今でも悲しいくらいにネットに依存した人生を送っています。キャッ。
とはいえもちろんそういった体験で男性への認知やネットとのかかわり方が歪んでしまう子どもも少なくないわけで、親が全てを監視するとそれはそれで毒親になってしまうし、難しい世の中でこういった問題は増えている。
どうして大人が子供を加害してしまうのか、子どもを性のはけ口にしてしまうのか、ネットなくして立ち行かないこの社会で大人はどう子供を守ってゆくのか、そういった問いにこのドキュメンタリー映画は答えてくれる――

なんてことは一切ない。
答えてくれないし、この映画にあるのはすがすがしいまでの「露悪」

本作はドキュメンタリーとして制作されているけれど、真摯に社会問題を問うのではなく、「こいつらは人間のクズだから何をしたっていい」という好奇にも似た制作側の心理があり、接触してくる男性たちを露骨なほどに醜悪に描き出す。

男の顔にかけるモザイクも、警察24時にあるようなものではなく、目と口元だけがぽっかりと空いているなんだかすごく気持ち悪いエフェクト。
「目は口程に物を言う」とはまさにこのことか、と思わされるほど、男たちの感情が唯一読み取れる部位となった「目」が非常に気味悪く、特に女ならば分かる「男のあの目」がずっとそこにある。この感覚を男性にも伝わるように言語化するのは非常に難しいのだが、女が日常的に生活の中でも晒される「あの目」。私たちの背中がぞわぞわと粟立って1日が一気に嫌な日になる、「あの目」なのだ。私は何度この映画を観ながら「きもちわるい」と言いたくなったか分からない。映像の中で男たちは少女(役)に自慰を見せつけたりするが、ストレートな加害である自慰よりも、「あの目」の方がよほど気持ち悪く思える。
それほどまでに、「目」だけを際立たせ他の部位を曖昧にぼかしたようなモザイクエフェクトは、非常に生々しく、あえて一般的なモザイクではなくそのエフェクトをかけることを選んだことが分かる。

そうやって男たちの撮り方がすでに「こいつらはクズ」という前提があって撮られているから物凄く気持ち悪く見えて(実際に行動は気持ち悪いし犯罪なのだけど)、まずもって「社会への啓蒙」というのはおまけ程度にしかない。

いうなれば種類の違う人間同士の醜さがバトルしているような映像がずっと続く。男たちの性加害と、スタッフたちの露骨なまでの好奇だ。

実際にこういったネット上での児童虐待や性被害を撲滅したいのであれば、どうあっても「加害者の理解」というのは無くして成り立たない。
日本では加害者が守られすぎだという声がよく上がるが、「こいつは人間のクズ」「どうしようもない人間」と切り捨ててしまうのは非常に感情的であり無意味なことで、加害者の行動心理を分析し場合によっては医学的アプローチを試みていくことが結果的に犯罪の撲滅に繋がり被害者が生まれることを防げるのだと思うが、本作ではそういった意図は一切見えない。
むしろこの映画をドキュメンタリーとして鑑賞した人には「あーやっぱりこういうヤツって自分たちには理解できない異常者なんだな。うちの子供のスマホにはチャイルドロックをかけよう」という表面的切り捨てが生まれるだろうし、それは本作が表向きに掲げる「児童虐待の真実を見せる」「社会に啓蒙する」といった看板には相反する効果となる。

監督が果たして無知ゆえにそれをしているのかと言われたら、そうは思わない。

本作は「『ドキュメンタリー調のモキュメンタリ―』調のドキュメンタリー」という入れ子構造になっているのではないかと感じる。
真摯なドキュメンタリーを期待して観た人間には嫌悪され、愉快なエンタメ映画を期待して観た人間には楽しまれる、そういった作品だ。
それは先述したような、社会への啓蒙からは程遠い露骨な醜悪さ――いっそ露悪的(男たちも制作側も)な作りがそうさせるのだが、未熟さゆえにそうなっているとは思わない。
実際に本作は明らかに「モキュメンタリ―」として提示されていたら、みんなゲラゲラと手を叩いて笑い、12歳の少女相手にシコる男たちをヤジって見るだろう。それは「これは架空ですよ、お芝居ですよ、エンタメですよ」として許されて提示されるから。
本作は許されて提示されてはいない。ドキュメンタリーかもしれないし、モキュメンタリ―かもしれない。そういった不安定さの中で、男たちの露骨な気持ち悪さと制作の露骨な生々しい好奇を前にして、笑っていいのか顔をしかめていいのか物凄く微妙な気分になる。
そうした現実と虚構の区別がつかない曖昧なリアルさの中に絶妙なバランスで成り立っている作品だからこそ、エンタメとして面白いともいえる。実際にモキュメンタリ―として提示されたほうが心置きなく楽しめるは楽しめるのだが、この微妙に居心地の悪い状態の中で見るからこそ生まれる気持ち悪いエンタメ性というものはあると思う。
笑っていいのかな、怪訝でいいのかな、とどっちつかずに突き放された状態で観ることを不愉快に感じる人もいるだろうし、私のようにそれがいっそ心地よく面白いと感じる人もいる。

社会への啓蒙とか実際にはクソの1mmも考えてなさそうだけど表向きの看板は掲げているところもまた皮肉的で、意地の悪い作品を観たい人にはおすすめのできる作品。


個人的にはモキュメンタリ―かなと思っています。


さてそんな日記を書いてみたんですけど、
この日映画館で『アフリカンカンフーナチス』(知らない人はぐぐってね)のチラシをとろうとしたら、同じく手を伸ばした男性と「あっ」となりました。手を伸ばした先がローマの休日であれば我々はそこに運命など感じたのかもしれませんが、残念ながら『アフリカンカンフーナチス』に手を伸ばすような人間同士なので、「あ、あは……。…………」と4.5度くらいのめちゃくちゃ浅い会釈をして終わりました。私が手を引っ込めると、男性はそのあとすぐにアルコール消毒をしていました。『アフリカンカンフーナチス』に手を伸ばすような人間同士なので。
その翌日に『ゾンビ津波』を観たので、その話も改めて。

おもしろい映画があれば教えてください。

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