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品格 幸田文というひと

幸田文さんは好奇心が強い。そして行動力もある。たとえ体力がなくなっても、ただ、それを見たい!という一心で人の背中に負ぶさってでもお目当てのものをその目に収めている。たとえば屋久島の屋久杉。大沢崩れもそうだ。北海道に鮭の遡上も見に行って船に乗るときはひょいと海の男に抱えてもらったりする。

そして九州では捕鯨船にだって乗って荒れた大海原にも出て行く。それが小さいときからの夢だったのだ。鯨を撃つ現場を目の当たりにして、こんな文章が続く。

「ふわっと鯨が浮きあがり、泡立った白浪が突然あかく裂けた。天日が赫々として、生けるものの流した血はまさにただ美しさだけをもって目を奪った」

続く文章がまたいい。

「舵手は伝声管の命令を復誦操舵する。その復誦の声に、職業や商売を超えて、傷ついたものをかばういたわりの感情がこめられていて、懸命なのである。一刻も早く苦痛を終らせてやる心やりである。もう一弾。
・・・鯨は特有の小さな眼を柔和に閉じ、規則正しい畝を持った白い腹を上にして、透き通る碧い水の底に静止していた。安らぎを得たものという以外はない姿であった。右舷にその頭、左舷にその尾。なんと小さいそのひれ。
感動と干渉に圧されて困った。天を仰げば天ははてしなく、水を見れば水もはてしなく、人は・・・更に新しい漁へ急ぐのである」

そうして「鯨を撃つ捕鯨船員はぶっ殺し専門で、人非人みたいに言われ勝だが、それは違う」と幸田文さんは言う。
 

「船乗の品位の格付けでは、上位なのだ。ひたすらに美しさだけで負ってくる鯨の赤いしぶきである。その故に感動は翳を伴い、かげは人の品格を育てる」と。

最後の「かげは品格を育てる」という言葉がずーっと心に残っている。

人生は旗取り競争ではないとは思うけど、ちょっとオセロみたいなところがあるんだなと思う。

「かげは品格を育てる」という一行でパラパラパラとひっくり返るものがある。そうかあそうかあと納得している。


読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️