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そんな日の東京アーカイブ 柴又

柴又の帝釈天へ行った。寅さんの記念館があった。

お好きな人には申し訳ないが、あたしは「フーテンの寅さん」が苦手だ。映画館で見たことはないし、テレビで放映されても好んで見たことはない。

渥美清というひとの目がつらい。喜劇に出ながら、このひとの眸はなんだか切ない。人間の突き当りを見てしまったような感じがする。虚無を見ている感じ。

そのひとが演じる破天荒な人物は、誰よりも求めているのに、いつも世俗的な幸せからは遠いような筋書きを、そんなもんさ、と笑って見過ごせないわたしの側に問題があるのかもしれないが、渥美清でなくてもいいじゃないかと思ってしまう。

まったくもって、柴又というところは「寅さん」の残像に満ちていて、ちょっとつらい。帝釈天は素晴らしい彫物と庭園で記憶に残るものなのに、そのうえに寅さんがかぶさってしまう。

寅さんの扮装をしたひとが街を案内している。それが仕事なのだと思うと、まっすぐに見られない。観光地の定め、客集めの一助だとわかりながら目をそらしてしまう。

なんで、寅さんが渥美清という人でなければならなかったのだろう。それも仕事だった、ということか。

団子、せんべい、漬物、門前町の店屋に人が満ちる。

その通りの端に、のしイカを作る露店が出ていた。古びたローラーの間に、炭火で暖めたスルメを通して作る。動力はモーターだが、手動で調節する。昭和初期に使われていたもので、今ではほとんど見られない、と露店の男性が言った。意外に若いひとだった。

一枚のスルメがのされて長く長くなって出てくる。一枚のスルメが柔らかくなって、たくさんになる。一枚500円。昭和初期の知恵。どこか、柴又に似合っていた。

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️