2 asoas

 ダイチの家へ向かう一行は、道すがら、ミクがどうして迷子になってしまったのか、事情を聞いていた。
「あたし15になったからさ、修行の旅に今日から出たんだよ」
「そうなんだ!ボクたちと同い年だね」
てくてくてく。
「つまり、お前も王族?」
ミクは首を振って全力否定した。
「違う!違う!普通の一般市民だよ!身分とか関係無く、みんな15歳になったら、1年間、家を離れて生活する決まりになってるじゃん。法律で決まってるでしょ」
王子たちは、「ふーん」となる。
「異文化だな」
「そういうのも、案外良いかもね。成長できる良い機会だもん。帰ったら、お父さんに言ってみよう」
「1年かぁー。オレらもそんなかかるかな」
ダイチが、ちょっとネガティヴに言った。
「お前が足引っ張れば、もっと延びるぞ。そうなったら、遠慮なく置いてくからな」
「言うじゃんよ、カイ。何様だ?」
ピリつく空気。
「ちょっと、ケンカし」
ミクが止めようとしたが、クゥがミクの前に手を出して止めた。
「大丈夫」
 カイがダイチに答える。
「王子様」
強気に格好つけた言い方で、鼻先をツンと上に向けた。だが、すぐに自分で言ったことが面白くなってしまい、クスリっと吹いた。
 くるりとダイチが振り返り、楽しそうに地団駄踏んでツッコむ。
「オレもッ王子だよッ!!😆」
がははと笑った。
 2人が笑うので、ミクは「なんだ」と胸を撫で下ろした。
「ボクたちはこれから助け合って、世界を旅するんだから。相手の冗談くらい、笑い飛ばせないとね」
「世界?そんなに移動するの?」
「ミクの旅は違うんだね」
ダイチとカイも耳を傾ける。
「んー、まぁ、思い切って世界一周する人もいるんだろうけど。あたしは、大半の子がするみたいに、滞在先を決めて、そこにある学校に通ってみたり、職業体験したりして過ごすつもり」
「へぇ、全然違うね」
「なのにッ…」そう言ってミクは、両手で拳を握った。「行きたい場所も決めて、調べて、ちゃんと計画通りに進んでたのに、こんなことになるなんてッ」
俯くミクに、パールが駆け寄った。
「あんたのせいにしたいけど、言ってもしょうがないから、怒らない!」
怒らないと言う割に声色が厳しく、パールはビクリとしてから、慌ててミクを慰めるような、謝るような仕草をして、彼女に寄り添った。
「何があったんだ」
「これッ‼︎」
 問いかけたカイの目の前に、ミクはポケットから何かを取り出して、バッと差し出した。
「石…か?」
「そう‼︎」
「それがどうしたんだよ」
よくぞきいてくれたと、悲劇のヒロインは打ち明ける。
「移動して疲れたから、道の途中でちょっと休憩しようと思ったの。荷物を置いて、木陰でお茶飲んで座ってたら、パールが、ちょっと道の先に行ってて、何かを気にして地面を見てたの。何だろうと思って、近づいたけど、別に変なもの落ちてなくて。でも、この子がこの小石を拾ったの。これが気になるって。別に、他の石よりちょっと黒いくらいで、変じゃないと思ったけど、見てみようと思って、受け取ろうとして、触ったの。その途端!」パッと腕を広げて、空を仰いだ。「昼が夜になって、全く見覚えの無い風景にいたの」
腕を下ろして、ミクは白目をむく。チーン。
「それは災難だったね」
クゥが背中を摩ってくれた。
「そんで、迷子のできあがりか〜。お前、飛ばされすぎだろ😙」
人の苦労も知らないで、ダイチは笑った。ミクがまたムカついて拳を握る。
「ミクも迷惑だろうが、それを使おうとしてたヤツも迷惑だろうな。先に使われて、困るんじゃねぇか」
「そうだよね😅」
「困れば良い!こんなトラップ仕掛けたヤツなんて!こんなただの道端の小石が、『飛び石』だなんて思わないでしょ、フツー!!💢」
ミクはもう、その石を投げ飛ばす勢いで怒った。
「どうどう、ミク。確かに、飛び石なんて、名前ばっかりで、もっとわかりやすい物にするけど、本当に石にすることだってあるよ」
 ここで話される『飛び石』とは、瞬間移動に使われる道具とその術のこと。現在地で飛び石となる、まほうがかけられた何かしらの物に触れると、それと一緒に、設定された目的地へ一気に飛ぶことができる、というものだ。
「ウチの方は靴の片方が一般的なのに、石って💢」
石を摘んでいる指に、やたらに力がこもる。プルプルプル。
「ミク、それ捨てるなよ」
「わかってる!誰か頼める人探して、まほうを辿って帰れるようにしてもらう!」
 ダイチは自信満々に、こちらを振り返ってきた。
「だったら、父ちゃんに頼めよ!絶対何とかしてくれっから」
ミクは石をポケットにしまい、ダイチの顔を見た。
「わかった。きいてみる。で、あんたの家って、あとどれくらいで着くの?」
「あ?まだまだ先だ。このペースで行ったら、朝になるな😁」
「はぁ!?近いんじゃないの!?」
「お前の素性知るために、ゆっくり歩いてたんだよ」
 そう言うと、ダイチは伸脚や屈伸運動をして、ストレッチをし出した。
「カイ、クゥ、こっからダッシュで行くぞ。ついてこいよな」
クゥは肩をすくめた。
「りょーかい。ミクはボクが引っ張るよ。カイは行ける?」
 ふられたカイは、空気を摘んで捻る仕草をした。
「ああ。乾燥してて、全力では走れないかもしれないが、置いていかれることはないだろう」
「おーしッ。ミク、傘に乗れ」
「う、うん」
 ミクはパールにまたがると、空に浮かんだ。その下で、ダイチが声を張り上げる。
「行くぜ。位置についてぇ❗️」
バンッと、強いまほうが発動した波動が、ミクに届いた。見れば。
「よーいッ❗️」
ダイチは脚全体に、カイは足の裏に、クゥは腕に強いエネルギーをまとい、溜め込んでいる。
 クゥがミクのもとまで飛び上がり、片足をパールのハンドルに引っ掛けた。
「しっかり掴まっててね😄」
その笑顔、ミクを慰めていた先程とは打って変わって、不安を煽ってくる。ミクは、手も脚にも力を入れて、パールの軸にしがみついた。4人の準備が万端整う。なので。

「ドンッ‼️」

 合図と共に、ダイチとカイとクゥが一斉にスタートを切った。

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