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僕はひどく疲れている。15

僕が抱えている案件の全体像と引き継ぎ用の手順書を顧客に見たとき、「ここまで作ってくれたのなら大丈夫。本当にありがとう。」と言ってくれた。

けれど、それすらも上司は気に食わず、「指示したのはわたしです!」と言った。いや、作ったの、僕なんだけど、と思ったのだが、それは僕だけではなかった。
3人での打ち合わせが終わった後、上司が先に部屋を出たとき、顧客は珍しく怒気を含めた声で「『指示したのわたしです』、って、おまえが作ったんじゃねぇじゃん。作ったの田中さんじゃん。」と言い、2人で苦笑いをした。

そうして、引き継ぎもうまくいくかと思ったのだが、これでもかと最後まで僕が辞めることはもめた。
最後にもめたのは、僕がいつ辞めるか、いつ職場からいなくなるか、ということだった。
退職日は12月31日付けということは決まっていた。けれど、有給が残っていたのと、引っ越しもあるので、年末の最後にまとめて有給を消化しようと思っていて、申請を出したのだが、上司が突き返した。
「何考えてるの?」
「会社のこと考えてるの?」と上司は言った。

「言っていることがよく分かりませんが、有給を申請することの何が問題なのですか?」
上司はあきれたような顔をして、「非常識でしょ?」と言った。
「よく分からないのですが。」
「だから、まとめて全部取るなんて出来るわけないでしょ?そんなことも分からないの?」
「はぁ、よく分かりません。退職はもう何ヶ月も前から伝えてありますし、それを受理していますよね。ちゃんと終わるようにしてありますし、引き継ぎもしてあります。何の問題もないと思いますけれど。」
「だから、会社とお客さんのことを考えなさいよ!」
「はぁ。」としか言えなかった。

この人にとっては自分よりも大切なのは会社なんだ、と。そして顧客なんだと。
僕は僕自身の方が会社よりも顧客よりも大切だ。そして、もう次の場所に行く準備を進めている。
引っ越し先も見つけ契約し、引っ越しのスケジュールも組んだ。僕は少しずつ次の場所へと移行していようとしている。
そのためにも、まとまった有給が必要だった。
それは、引っ越しだけでなく、この理不尽な上司のあからさまな僕を毛嫌いし、拒否すること態度で溜まっていた疲れを癒やすために自分自身に必要な時間だった。
それが可能になるのは12月後半に有給を取得することだった。だから僕は譲りたくなかった。僕は心底疲れているんだ。この上司や会社にその僕に必要な時間を奪われる訳にはいかない。

だけど、結局僕が数ヶ月かけて準備していたそれすらも叶わなかった。
もっと上の上司がやってきて、どうか全部一度に消化するのではなく、少しで良いから、2、3日で良いから違う日程にずらしてもらえないか。
それを顧客も望んでいる。
何も有給を取るなと言っているわけじゃないんだ、2,3日ずらしてくれるだけで、そうしたら、お客さんにも顔が立つからどうか頼むよ、田中さん。
そこまで言われたら、もう僕には選択肢は残っていなかった。
結局2日分の有給をずらして早めに取り、残った有給を退職日までに消化することになった。

せっかくこの数ヶ月というもの、準備をし、自分の仕事の全体像がわかるものと、手順書を作成し、引き継ぎをし、後から配属されたメンバーを教育し、この日でこの会社に来ることはもうないと思いながら過ごしていたのに。
たった2日と思うかも知れないが、僕にとってはその2日がとても大きなものに思えた。
よく耐えることが出来たと思う。もう僕の心は限界だった。これ以上この上司とこの会社と付き合っていられない。
目前に迫ってきたのに、何ヶ月も前から辞めることは決まっていたのに。
次の仕事場にも早く来て欲しいと言われていたのを無理を言って新年からにしてもらっていたのに。

僕は弱い。
それは僕自身が一番よく分かっている。
いつ自分が壊れてもおかしくなかった。
けれど、なんとか持ちこたえた。
理由は分からない。
だけど、なんとか持ちこたえることが出来た。

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