【黒歴史】生涯で一番課金したゲームのSS発掘した【6桁突っ込んだ】
この記事はAprilknights Advent Calendar 2022:12/6の記事です。
クリスマスソングは「ママがサンタにキスをした」
アーケードゲーム:ガンスリンガーストラトス
みなさまは2012年に全国のゲームセンターに登場した4vs4対戦ガンシューティングゲーム「ガンスリンガーストラトス」をご存知でしょうか。
唯一無二の特徴的ゲーセン対戦ゲーム
ガンストの略称で呼ばれたこのゲーム、発売がスクエア・エニックス、シナリオ原案がまどマギの放映直後で有名になった虚淵玄、というなかなかインパクトのある座組でまず話題になりました。
ゲームとしてはモニタに向かってセンサー付き銃型デバイスで実際に撃って遊ぶというゲームセンターではお馴染みのものなのですが・・・
ガンデバイスでは珍しい対戦ゲーム。
個性的なキャラで4人チームをコスト編成する4vs4形式。
ガンデバイスは右手左手二丁拳銃。
キャラごとに3つの武器をもっているがその切り替えを「二丁バラバラモード」「二丁を横連結させるモード」「二丁を縦連結させるモード」と物理的にガンデバイスを合体させて行う仕様。
これまでにない独創的な操作形態を持ち、かつそれが直感的に分かりやすく感覚的にも楽しいという良ゲーでした。NESiCAという専用ICカードにプレイヤーの戦績・ランクなどを記録していくという形式が出始めたころで、ゲーセンでも継続的・記録的にゲームを遊ぶ方式を定着させたタイトルのひとつでもあります。(ゲーセンでも課金させるシステムの始まりとも・・・)
また特筆すべきは、2013年に開催された公式大会で当時のゲーム大会では破格の「優勝賞金1000万円」が話題になりました。
大会後に「あれって日本の法律的にアウトだったんじゃね?」と指摘され、ゲーマーのAK社員なら知っている日本のeスポーツ賞金法律問題提起のきっかけとなったタイトルは実はガンスト。
設定・キャラも虚淵節で良い
アーケードゲーム史に残る独創的なゲームデザインに加えて、一世を風靡したまどマギの放送数か月後、というタイミングで設定ストーリー原案虚淵玄が担当、が注目を集め、また実際その設定も面白い。以下ストーリー抜粋。
審神者なる者ならもうニトロプラスぅって感じですね。タイムリープものほんと好きですねニトロプラス。そして誰かが幸福になることは誰かが不幸になることなんだというど真ん中剛速球ストレート◎の虚淵節。
この設定の素晴らしいところは、ゲーム内で同キャラの対戦が発生することを設定面でスマートに解決しているところです。しかも自分自身と〇しあう
とか煽って盛り上げてくる、実に厨二で良いです。
4人チーム編成というゲーム性のため、ゲーム的に様々な性能を持ったプレイアブルキャラが多数います。
さらに同キャラでも「ウェポンパック違い」という形で「装備が違う・HP量が違う」という「性能違い・コスト違い」を選択できるようになっていて、バリエーションを増やしているのも上手いゲーム性です。
さらにさらに別途課金でスキンのシステムまで導入してやがりました。
ゲーム的に良くできているだけでなく、虚淵節のキャラ達は設定的に濃いめの味があります。
良く言えば「みんなキャラが立っている」
オブラートに包めば「クセが強い」
包まなければ「変人が多すぎる」
どこかしらヘンなんだけどそこが妙に愛おしいキャラたちのなかで、自分がメインで使っていたのはこの「リューシャ」
ゲーム的にはマップを俯瞰視点で位置指定して攻撃衛星から任意の場所に爆撃できるというユニークな攻撃方法を持つのが特徴で魅力。
キャラ的にはカウンターテロ組織のメンバーで、前述のオルガと因縁があり、オルガの爆破テロを防ごうとして脚を失い義足になった。オルガは憎い宿敵なのだが、貴重なタイムリープ適格者なため世界を救うために共闘しなければならないが、心の奥には暗いわだかまりが・・・
キャラデザが漫画家の三輪士郎でCVが早見沙織の金髪碧眼クソ真面目天才美少女ロシア人のエイシンフラッシュみたいな感じで100点満点中3000点のキャラです。
ゲーム自体が面白かったことと、リューシャのキャラが人生至上最もツボってしまったために、毎日仕事の昼休みと帰宅時にゲーセンに行き続けた結果、カードに記録された対戦回数×プレイ料金を考えると総額が6桁イッてるので正確な金額は考えません。まあガルゾのKはガンダム戦場の絆に7桁つっこんだそうだから全然問題ねえな。
リューシャ、ぶっちぎりで自分が好きなゲームキャラ1位ということになるのでしょうね。2位は高校時代にガルゾのYと毎日ストリートファイターZERO2で同キャラ対戦をし続けたザンギエフ。こっちは無料だからいい。ロシア人好きなのかな俺。3位はたぶんサガフロンティアのアセルスです。
アニメも、PC版も、あるんだよ
そんな大手メーカー×虚淵玄のガンストですから、当然メディアミックスでアニメ版もありました。最終話は原作の要素を持ってきて、TV放送版とネット配信版で勝利する陣営が違う2バージョンを作る凝りよう。
が、そんなこと凝るより前にコレ売り物ってレベルじゃねえぞって作画崩壊が飛び交うヤベエ出来栄え。
作画のダメっぷりで-100点のアニメガンストなんですが、1クールに収めるべく原作ゲームとは違うオリジナル展開のストーリーはなかなかどうして結構面白いものでした。キャラ達の変人成分も解毒され気味。
なによりリューシャとオルガの解釈一致が素晴らしいところでして、本来宿敵としてどうあっても分かり合えない対存在に見える二人だからこそ逆に二人だけに通じる関係性を感じさせるキャラ解釈を展開していてあれですまさにFate Zeroの切嗣と綺礼のそれでありアニメ脚本担当はよくぞまあきちんと虚淵成分を見逃さず拾ったうえに独自で解釈し膨らまししかし必要以上に押しつけがましくなくかつ匂わせで終わらせるのではなくはっきりと短いながらシーンとセリフで描き切ってくれているのが素晴らしい。これで+500点なので結果として400点の知る人ぞ知る名作となっておりまスゥー
あとPC版もありました。クッソ重くてまともに動かないようで、一瞬でサービス終了したはず。これは狂信者熱心なファンの自分も擁護できない。
そんな入れ込みまくったガンストなのですが、悲劇が襲います。
続編、ガンスリンガーストラトス2の出来が悪かったのです。
おそらく虚淵玄の原案と監修は本当に最初だけだったのでしょう。2で追加されたキャラはどれもイマイチ魅力がない奴らでした・・・
そしてゲーム内監修も酷く、既存キャラクターも軒並みゲーム内の発言がおかしなほうへ劣化していてマジでリューシャをただのアホの娘にしたやつは許さねえからな末代まで呪ってやる・・・
さらに追い打ちで肝心のゲームバランスもイマイチになってしまい、結果として2の途中で自分はガンストから離れました。
まあ、おかげで浪費が止まった、とも言えるんですけれど。
やっと本題。クリスマスネタ。
黒歴史
当時ガンスト大好きすぎた自分は、ゲームプレイでは飽き足らず、通勤の電車内でガラケーでポチポチテキストを打ってリューシャとオルガを中心としたSS(ショートストーリー)を自作し、2ちゃんねるのガンストキャラ萌え掲示版に連載投稿をしていました。
狂気の沙汰ですが事実なのだから仕方ない。あと後期はLoLが日本で知名度上がってきたのでゲーセンでMOBAを展開しようとして出てきた「ワンダーランドウォーズ」のSSも量産していました。
しかしこの狂気の熱も、ガンスト2がつまらなくなってしまい激萎えして中断してしまったのですが。
当時投稿していたのに使っていたデスクトップPCはもう処分してしまい、ガラケーもiPhoneに機種変更したことでテキストデータは失われたのですが、単発のものがひとつ発掘できました。
で、それがクリスマスネタだったので、アドベンドカレンダー言われても新しくなんか作るほど気力ねえぞ、そうだこれ再利用しようぜ! となったわけです。
クリスマスネタSS発掘したよ
残っていたのはリューシャを主役にしたものではありませんでした。
たしかリューシャ&オルガvs鏡磨&しずねのバトルシーンを書いている時にクリスマスだったのと、書いたら鏡磨としずねが可愛かったのでそれでクリスマスネタを書いたはず。
(なお本来の文中では、しずねはリューシャの衛星爆撃で肉片になった)
以下、文中に登場するキャラの簡単な解説です。
(風澄 徹は言及されるのみで登場しない)
片桐鏡磨
フロンティアS世界では極道片桐組の御曹司。愚連隊の頭やってる。
帝都管理区世界では名門片桐家の御曹司。学園の生徒会長やってる。
天才肌のオレ様キャラだが、実力と人望がある。主人公とされている風澄 徹のライバル的な立ち位置。ガンダム水星の魔女のグエルっぽい感じ。
当時夢女系ファンもけっこういたようだ。
と書くと、まともそうに見えるが「血の繋がった実の妹である鏡華をマジで異性としてものにしたいと思っている」ためはっきりと変人です。
ゲーム的には機動力を少し落とした代わりに火力を上げた準パワーキャラといった感じ。左手シールドに右手マグナムは継戦能力があり、ガトリングや火炎放射器も足は止まるが当てやすいので徹よりよっぽど初心者向け。
片桐鏡華
鏡磨の実妹。自分が好きなものは好き、嫌いなものは嫌いな明るくて我が強い強すぎるアッパラパー。主人公とされている風澄 徹に惚れているヒロイン的な立ち位置。
と書くと、ちょっとウザい程度で普通に見えるが「平行世界の自分が徹に惚れていることが許せず、平行世界の自分を〇して2つの世界の2人の徹をものにしようと考えている」ためやっぱり変人
ゲーム的にはヒーラー系。モデリングのスカートが短すぎてただジャンプするだけでパンツが見えるため、ガンストプレイヤーたちの通称が「パンツ」
なんなら純正ヒーラーはこいつだけなので、ガンストでは「ヒーラー=パンツ」で意味が通る。
竜胆しずね
古来から続く暗殺者一族の一員。
片桐家に忠誠を誓っており、鏡磨の護衛として仕えているがその心の奥には主従以上の思いを秘めている、という厨二役満のキャラ。
前述のオルガ・ジェンテインは実は一族を出奔した姉であり、全てにおいて優れた一族最高傑作でありながらそれを捨てていった姉を憎んでいるという厨二ダブル役満まである。
もちろん物事の解決手段の選択肢に自然と〇人が並ぶので変人。
ゲーム的には高機動高火力で紙装甲の上級者向けハイリクスハイリターンなキャラ。高コストパックの超火力ショットガンのゼロ距離全弾命中が気持ちよすぎだろぉ!なためおもわず無茶な特攻をしてしまう者が続出。戦犯量産キャラとして悪名高い。
風澄 徹
ガンストの主役、ということになっている。
一般ピーポー的な出自だが、強かったり成績が良かったり人柄が良くて人望があったりするというなんか主役っぽい要素がある。が、いかんせん個性が無い。クソデカマフラーくらいしか個性がない。
ゲーム的には標準的なバランスキャラとなっている。いや本当に普通な武装と性能。そのため4人チームのゲーム性からピックする理由が見つからなくなってしまった悲劇の主役。キャラが薄くピック率も低いことからガンストプレイヤーたちの通称が「空気」になる始末。クソデカマフラーから一応「コンブ」でも通じる。
片桐鏡磨のクリスマス
1.
人に仕える身というものは、時にいかんともし難い状況に追い込まれるものだ。
竜胆しづねは今まさにそういった渦中にあった。
無論、主である片桐鏡磨の命令には一切の疑問を挟まず従うだけ。迷うことなどなにもない。問題は、鏡磨と同等の敬意を払うべき者が存在する場合だ。
二者からの命令の二律背反。
これが従僕であり道具であるしづねにはどうすることもできない危機的状況となる。
鏡磨と同格の存在。すなわち、鏡磨の妹、名門片桐家の長女、片桐鏡華。
今、しづねが支える脚立の上で、鼻歌を口ずさみながらクリスマスの電飾を壁に取り付けているその人だ。
「ふんふ~ん……ん、そうよ兄貴」
「……なんだ」
アルクトゥルス学園生徒会室。その壁面上部にぐるりと連なったLED電飾を取り付けていた鏡華が、唐突に脚立の上から兄に呼び掛ける。呼ばれた兄こと鏡磨は、生徒会室奥の黒檀製の事務机に頬杖をつきながら、鏡華を睨みつける。
まずい。これはまた揉めそうだ。
鏡華の安全のために脚立を支えるしづねは嫌な予感に震える。これから起こることを予見できていても口も挟めねば手も打てない。ただただ押し黙り、成り行きを見守ることしか出来ぬこの理不尽。
「なんだ、って兄貴ホント気遣いが出来ないのね……」
「あぁ?」
「わたし、今、高い所を飾り付けてるよね」
「見りゃわかる」
「兄貴は背がデカイよね」
「192だがそれがどうした」
「えー、ここまで言ってもワカンない?! 『鏡華、代われ。俺がやってやるよ』って言う所でしょ」
「ふざけんな。部屋を使っていいとは言ったが、手伝うとは言ってねえ」
「はあぁぁぁ!? うわ最低だわ」
第十七極東帝都管理区。2115年12月末。
息苦しい管理社会でも、年中行事を楽しむ程度の自由は許されていた。そこで鏡華は、友人を集めてクリスマスパーティーを開くことを思い付いたわけだが。
「ホント、徹くんとは大違いよね」
「アイツは関係ねえだろうが!」
片桐家でパーティーを開く。残念ながらそれは政治的な意味を持つ社交の場になってしまう。堅苦しいのは鏡華の望まぬところ。なにより彼女の想い人、風澄徹を呼ぶことは難しいだろう。
そこであくまで学友の集まりとして開催する、そうゆう手を鏡華は考えた。
幸い場所のあてはあった。それが生徒会室だ。生徒会長である鏡磨であれば、融通を利かせられるというわけだ。
「あのさぁ、徹くんの名前が出るたびムキになるのやめてよ……本気でキモチ悪いから……」
「あぁ?! ムキになんてなってねえ」
なっている。鏡磨に対して最大限に贔屓目したとしても、しづねの目にも鏡磨は平常心ではない。
風澄徹。鏡華の想い人の件は、鏡磨にとって妹の恋を過剰に過保護に心配している、というわけではない。
嫉妬。
鏡磨は鏡華を好いている。
兄妹の情、ではない。それ以上の感情。
厄介な問題だ。それはしづねにとっても、小さな問題から大きな問題まで様々に。
今回の生徒会室の話もそうだ。
鏡華が徹を招くなど分かりきっている。それが気に入らないならば、そもそも部屋の使用を許さなければいい。だが鏡華の「お願い」を鏡磨は断りきれない。
有り体に言えば、惚れた弱み、だ。
鏡華の存在が、完璧なはずの鏡磨を狂わせる。害悪だ。鏡華は鏡磨にとって。そして自分にとって。しづねはそう考えている。
可能ならば「掃除」してしまいたいほどに、邪魔で有害な女。
「そもそも、女の子に気遣いできない男はダメ、ってことよ。ね、しづねもそう思うよね?」
「え!? あー、それはまあ、一般論的にはというか、まあ、そのぉ?」
わたしは脚立。そんなしづねの胸の内などお構い無しに鏡華が話を振ってくる。
勘弁して欲しい。しづねがどう思っていようが鏡華は「妹様」なのだ。鏡磨が咎めない限りは、しづねが鏡華を否定できる訳がない。
「……」
「い、一般論ですよ、あくまでも!」
鏡磨の眼。眼鏡の奥からしづねを見るそれは「敵」を見る眼になっている。違う! 好きで鏡華の手伝いをしている訳でもお追従をしている訳でもない。
しづねはなにがあろうと鏡磨の味方であり従僕であり道具だ。ただ、鏡磨が鏡華を野放しに好き勝手させるからこんな状況になっている。
悪いのは鏡磨だ。
などとしづねが言えるはずもなく。
2.
「……俺はクリスマスとかいうものがそもそも気に入らないんだよ」
「それは自分に恋人がいないのにイチャついてんじゃねえよ世間のカップル爆発しろ妬ましいみたいな?」
睨みつけるだけでは鏡華は黙らない。そう判断したか鏡磨が言葉を継ぐ。だがしづねとしてはなにを言おうが鏡華は黙らないと思うのだが。
「サンタクロースとかいうじじいの概念が気に入らねえ」
「え? サンタが?!」
鏡華が目を丸くする。鏡磨の言っていることがまるで理解できない。そういう表情になる。
「……あ」
一方、しづねのほうは鏡磨のこの言葉で腑に落ちた。
しづねには鏡磨の不機嫌の意味が理解できた。
「えーとそれは、この歳にもなってサンタとか言うの恥ずかしいぃ! みたいな思春期の子供っぽい反抗心?」
「……馬鹿のお前には分かんねえよ」
「大丈夫分かった、兄貴はわたしに喧嘩を売ってる、そうよね、アイアムアンダスタァンド!」
ひらりと鏡華が脚立の上から飛び降りた。そして噛み付きかからんばかりの形相でずかずかと鏡磨へ歩み寄る。
「鏡華様、落ち着いてください」
「ちょっと、しづね邪魔!」
これ以上は看過できない。しづねはするりと鏡華の前に立ち塞がり、努めて笑顔を作る。
「サンタクロースはプレゼントをくれるわけですが!」
「そうねいい子にはね。兄貴にはないんじゃなーい?」
「例えば! 鏡華様がサンタクロースに『徹さんが欲しい』とお願いしました」
「え、いやそれは無理でしょ」
「ところが鏡華様が朝、目を覚ますと……そこには……」
「無理無理、サンタはそこまで万能じゃないって」
「枕元に、巨大な靴下に入り、顔だけ出している徹さんが!」
「ちょっ! ダメ想像したら可愛すぎる! サンタやるじゃん!」
「……」
しづねが鏡華を宥めるのかと思えば、始まったのは珍妙な漫才。鏡磨もこれには流れが読めない。ふたりのやり取りに訝しげな視線を投げる。
「さて、早速靴下のなかから取り出してみた徹さんですが」
「うん。これはクリスマスルール的に徹くんはわたしのモノってこと? モノ……プレゼント、物品! なんか背徳的ね……!」
半裸にリボンでデコレーションされた徹の姿を想像する鏡華。その顔は果てしなくだらしない。
「徹さんは鏡華様にベタ惚れです。常に愛の言葉を囁き、鏡華様がして欲しいことはなんでもしてくれます。どんな言うことも聞いてくれます」
「ん、んん……?」
しかし続くしづねの言葉には鏡華は眉根を寄せる。
「絶対服従完璧王子、ご所望ならば白馬にも乗りますよ」
「いや、それは違くないかなあ、徹くんはそんなじゃないし、てかそんな徹くんはなんかヤダ……」
「そうですか? それは過程を飛ばしてしまったからそう感じるのでは?」
「過程?」
「徹さんに振り向いて貰うために、色々頑張ってみたり、ふたりの仲を深めるためにデートをしたり」
「あー、なるほど」
「……チッ」
滑稽さを装い鏡華の気を逸らすことで宥めつつ説得する。しづねは自分の算段が上手くいきそうなことに夢中で、背後の鏡磨の顔が険しくなっていることに気付いていなかった。
「つまり、他人からタダで貰ったものに価値なんて――」
「もう黙れ! しづね!」
鏡磨の怒声。振り下ろされた拳に打たれて机が軋む。
「申し訳ございません、差しでた口を!」
「ちょっと兄貴、なにそれ、しづねが可哀想じゃない!」
にわか雨に打たれた猫の如く、しづねは慌てて鏡磨へ向かい直し、深く深く頭を垂れる。
しづねは、口が過ぎた自分の軽率さに後悔する。だが同時に、ここまで鏡磨の怒りを買うということは、自分の言葉が正鵠だったのだと確信する。
鏡磨の気質。或いは本質というべきか、いっそ病というべきか。
挑戦者。
片桐鏡磨という人間を一言で表す言葉。
鏡磨は常に戦っている。研鑽している。前進している。餓えている。渇いている。求めている。
まだ自分が手にいれていないモノへ手を伸ばしている時。
まだ自分が辿り着いていない場所へと歩み続けている時。
道程に、過程に、困難に、苦行に。
その最中にある時のみ、生の充足を得る。それが片桐鏡磨の人生。
それ故に鏡磨にとって、容易く手に入るモノ、他人から与えられたモノには、微塵の価値も無い、ということだ。
「……そうね、うん、分かる、分かった。でも怒鳴るのはひどいよ?」
「うるせえな」
兄の心境を得心したことで、鏡華の口調が和らいだ。
そしてほんの少しだけ咎めるような色の視線をしづねと鏡磨のふたりに向ける。
しづねが鏡華に鏡磨の考え方を伝えたかったのは分かる。けれどいささか他人の心情に踏み込み過ぎた。鏡磨の怒りも当然だと思う。けれど一方的に叱責できはしないだろう。しづねはほかならぬ鏡磨の為にと抗弁したのだから。
「まあ、わたしが兄貴をからかいすぎたからか、ごめんね」
「お、おう」
言葉を継ごうとした鏡磨に先んじて、鏡華が謝罪する。謝罪してしまう。こうなると鏡磨はもうなにも言えなくなる。
「もーすこし肩の力抜いてもいいのにねえ。ね、しづね!」
「あやっ!? それは……」
鏡華が謝罪を口にしたならば、非は自分にこそあったとしづねが言いだすだろう。それが分かる鏡華は、小さく縮こまるしづねを背中から抱き締めつつ、話を逸らしてしまう。
状況を把握し冷静でさえあれば、鏡華という少女は公平かつ寛大で明晰だった。そして――
「ホント、頑固というか真面目すぎるよね、兄貴はさ」
微笑んだ。
ほころんだ唇には、兄を困り者と言いつつも慕うひねた愛らしさが。
穏やかな眼差しには、まるでやんちゃな弟を庇護する姉のような優しさが。
包み込むように柔らかい微笑み。
もう部屋の中に刺々しい空気はなかった。鏡華の微笑みで全て拭いさられてしまった。
片桐の血なのだろうか。鏡華もまた鏡磨のように、人を惹き付け心を揺さぶる魅力を持っていた。
3.
「……よし、じゃあ悲しいけれど可愛い妹は兄貴の美学を尊重してあげないとなー」
「なんだ、なにを言ってる鏡華?」
「悲しいけれど、仕方ないのよねー」
だが微笑みから一転、鏡華の顔が曇る。しかし口調はやたらと棒だった。
おかしい、いや怪しい。鏡華がなにを言い出すのか。ペースを完全に握られた鏡磨としづねが息を飲む。
「勿体ないけど、兄貴へのプレゼントは捨てざるを得ないッ」
「おいぃぃ待てえぇぇ!」
きりりと無駄に凛々しい表情で言い放たれた鏡華の酷い発言に、鏡磨は椅子を転げ倒しながら立ち上がり狼狽する。
「落ち着け鏡華、まずは話し合おう、な?」
「どうして? 兄貴の覇道にわたしのプレゼントは邪魔。それはもう確定的に明らかだよ?!」
「そ、そんなことはないぞ。いいかよく聞け――」
鏡華を思い留まらせなければならぬと、鏡磨は必死の形相。
対する鏡華は眦にうっすら涙を浮かべ、肩を震わせている。
もちろん悲しみに打ちひしがれているわけではない。涙と笑いが出そうになるのを、体が震えるほどに堪えている。それほど兄の狼狽える姿が可笑しいのだ。
「――それはそれ、これはこれ、だ!」
「嫌あぁぁ! こんな兄貴の女々しいセリフなんて聞きたくないぃ! ダメぇ今すぐ焼却炉にほおり込まないとぉ!」
「止めろおぉぉ!!」
鏡華は抱き付いていたしづねの背中から離れて、部屋の中を駆け回る。それを慌てた鏡磨が追い回す。くるくると回る幼稚な追いかけっこ。仲良くじゃれあう兄妹の姿は可笑しくて微笑ましい。
けれど、その様を見るしづねは。ひとり取り残されたしづねには。
ふたりの姿が、眩しく、遠く、苦い。
しづねでは、自分では駄目なのだ。そう、鏡華でなければ駄目なのだ。
鏡磨にとってしづねは、道具以上の価値も意味もない。他でもない、自分自身で先刻言葉にし、確認した。
片桐鏡磨にとって、他人から与えられたモノに価値はない。
雪が降っていた夜だった。ひどく寒い夜だった。あの日、鏡磨と出会ったその瞬間から、しづねは鏡磨のモノだった。
それ故に、だからこそ。
鏡磨にとってしづねに価値は、ない。
逆に言えば、だからこそ鏡華なのかもしれない。そうしづねは考えてもみる。
肉親という関係。血の繋がりという枷。どれほどの無理を通し道理を覆しいかなるを捩じ伏せなければならないのか。この世界で最も手にいれるのが困難な女。
鏡華に意味はない。妹であることに意味がある。
それが鏡磨の偏愛の真相なのではないか。そうしづねは考えてもいる。
ただそれは、決して特別になれない自分の醜い嫉妬では。理屈で鏡華を貶めんとする浅ましい思考なのでは。そう気付いてもいる。
だが、もしその推測が正しかったのならば。
鏡磨が鏡華を手にいれた時。その手中に収めた時。鏡華に価値があるのだろうか。鏡華が色褪せ、鏡磨は再び渇くのではないだろうか。
その時しづねは、所詮鏡華も自分と同じだったと笑うだろうか。
違う。
きっと泣くだろう。
あまりの空虚に。あまりの悲壮に。
鏡磨を想い泣くだろう。
鏡華ですら、鏡磨に満足を与えることが出来なかったならば。もはや鏡磨の人生に安らぐことも満ち足りることもありえないということだ。
闘争、挑戦、研鑽、渇望。ただそれだけの人生。それを他ならぬ鏡磨本人が望んでいる。
それは解る。
その純粋な求道、常人の枠を超えた命の奔走に敬意を抱く。覇道を行く超人の道具として傍らに在ることに矜持を覚える。
だが。
しづねの奥にある、柔らかく脆い部分は、痛むのだ。鏡磨の姿が、痛々しく寒々しく切なく見えるのだ。
この想いは、鏡磨の意志と生き方を否定していると解っている。けれど心の奥底から消すことができない。
鏡磨に、年相応のただの普通の少年として、笑って欲しいと。
だが、きっとそんな安らぎは誰も鏡磨に与えられないだろう。
そして自分が与えられない以上、ほかの誰にも与えられないでくれと願ってもしまう。
けれど、もし誰かが――例えば鏡華が鏡磨に安らぎを与えてくれるならば、悔しいけれど喜ばしい。本心でそう思う。鏡磨の救いであることに感謝を。
勿論、自分がそうなれなかった妬みと恨みと殺意とは別に。感謝と嫉妬は両立する。
「……あは」
誰かが鏡磨に安らぎを与えて欲しい。そんなことを考えていて、今まさにクリスマスの準備をしていることを思い出す。
自分が鏡華の説得に語った、徹を靴下に詰め込んだサンタクロース。かの老人は、徹を鏡華に惚れさせることができるらしい。鏡磨を自分に惚れさせてもくれるだろうか? いや、そんなおこがましいことは願わない。
ほんの少しでいい。ほんの一時でいい。
鏡磨に笑顔を。
できるはずもない。叶うはずもない。サンタなぞいやしない。きっと世界で一番有名な嘘っぱち。非実在聖老人にすがるなんて愚かしい。
4.
「……マジで焼却炉に向かってるんじゃねえか、今まさに」
「鏡華様は大胆な性格ですけれど、限度は分かっていらっしゃる方ですよ…………多分」
鏡華はひとしきり生徒会室を駆け回ると「追加の飾り付けを持ってくる」と部屋を飛び出していった。鏡磨はさすがに校内まで鏡華を追い回すわけにはいかない。体面や沽券というものが彼にはある。
「仕方ねえ……」
ため息をついた鏡磨は、鏡華が放り出したままのLED電飾を取り上げる。そして壁際の脚立に足をかけた。
「鏡磨様、それはわたしが」
「いや、俺がやる……この俺が妹のご機嫌取りとはよ……」
自分の不甲斐なさを自嘲しながら鏡磨は飾り付けの作業を開始する。すかさずしづねは脚立を支える。勿論、万が一にも鏡磨が脚立から落ちることなどないだろうが。
実際、鏡磨の作業の手際は良かった。
というか、下から眺めるしづねが見るに、妙な感動を覚えるものがあるほどだった。電飾を掛けるフックはきっちり等間隔で取り付けられていき、電飾はぴったりと水平を保ちながら壁周を伸びていく。いかにも器用かつ完璧主義者の鏡磨らしい。こういう単純作業には人間の性格が出るのだろう。
「……ああ、さっきのことだがな」
「本当に差しでた真似を――」
「おいまて、蒸し返す気はねえよ」
作業の手を止めぬまま、不意に鏡磨がしづねに呼びかけた。
しづねとしては自分の行いへの叱責だと思うところだが、どうにも違うらしい。脚立の下から見上げる鏡磨は、作業を止めず壁面を見ている。主の顔は窺えず、その考えも見えない。
「なんて言うかな……お前は解ってんだな、ってな」
「!!……わたしは鏡磨様の道具として、意に沿うものでありたいと。道具の愚考を由しとしてくださるは、恐悦至極に」
「そうか。ならこの調子でこれからも頼む」
「はい、お任せください!」
例え鏡磨に安らぎを与えることができなくとも。
特別な存在になれないとしても。
鏡磨は認めてくれている。
竜胆しづねは、片桐鏡磨の道具。
手に馴染む銃であり、背中を預けるに足る盾。鏡磨が常に傍らに置く最も信頼する道具だと。
その誉れを矜持に掲げ、この悦びに忠義を捧げろ。
おこがましい自分の感情を棄て、ただただ鏡磨の剣となる。しづねは己の在るべき形を再確認し、その挺身の決意を新たにする。
「よし。カーテンを引いて照明を落とせ」
「ただいま」
電飾を取り付け終えた鏡磨からしづねに指示が飛ぶ。電飾に不備がないか確認するつもりなのだろう。
まめな性格だ。
しづねが猫のように軽やかに窓際を駆けて次々とカーテンを引いていく。そしてしづねが仕上げとばかりに室内照明のスイッチをまとめて叩くと、生徒会室は闇に溶けた。
「驚いたな。カーテンごときにどんだけ張り込んでるんだこの学園は」
「暗すぎますか、鏡磨様?」
互いの輪郭すら確認できないほどに室内は暗かった。鏡磨の言う通り、よほど厚く上等なカーテンなのだろう。
「問題ねえ、電飾のスイッチは握ってる。点けるぞ」
カチリ。
所詮は年中行事の飾りか。スイッチがやたらに軽く安っぽい音を響かせた。
だが。
音もなく点滅を始めた無数のLED。弱く儚く、けれど色とりどりに瞬くその光が朧に照らしだした光景は。
「へえ、こいつは」
「ああ……」
果てのない暗闇のただ一ヶ所を、光の輪で囲い切り取ったような。
部屋を照らす電飾の光はあまりに微かで、壁も床も天井もそして室内の調度類も、闇に塗り潰されて消失した。存在するのは、鏡磨としづねだけ。ただふたりだけが、光に照らされて広大な宇宙の中心に浮かんでいた。
小さな世界。光と闇しかない小世界。時間と空間から切り離された場所。
それ故に。
ここに地は無いから、彼は立ち続ける必要は無かった。
ここに空は無いから、彼は天を仰ぎ続ける必要はなかった。
ここには何も無いから、彼は手を伸ばし続ける必要は無かった。
ここは何処でも無いから、彼は走り続ける必要は無かった。
だからきっと。
「悪くねえな」
何も無い世界の真ん中で、鏡磨は笑った。
息が上手くできなかった。
喉の奥からなにかが込み上げて呼吸の邪魔をする。
指先が震える。酸素が足りないのか目眩を覚えるような。
異常なのは呼吸だけではない。心臓すら止まっている気がして。おもわず自分の胸に掌をあてて確かめた。鼓動は拍を数えられぬほどに速かった。
初めて見た。
鏡磨が笑った。
しづねは、鏡磨のこんな笑みを初めて見た。
そして知らない。
静謐な闇の中に穏やかな光で照らされ浮かぶ鏡磨の表情。
しづねは、こんなにも美しいものを他に知らない。
動けなかった。まばたきひとつできなかった。
その目にこの鏡磨の顔を焼き付けたかったから。僅かにでも身動ぎすれば、きっと涙がこぼれてしまうだろうから。
彫像のように固まった体の奥、常に冷えきり研ぎ澄まされているはずのしづねの心。
その片隅に残された柔らかく暖かい場所が、震える。暴れる。声を張り上げ訴え叫ぶ。
――ごめんなさい。ごめんなさい。
わたしはやはり、道具として不良品なのです。
あなたから与えられた矜持も。あなたに捧げた忠義も。吹き飛んでしまうのです。
あなたのその、笑顔ひとつで。
ほんとうは。
王者でなくていい。覇者でなくていい。
ただあなたに心から笑って欲しい。
叶うならば、その笑みを安らぎを、わたしが差し上げたいのです。
あなたに何かをあげられる、いいえ、いいえ――あなたと何かを分かち合える。
特別なひとりに、わたしは、やっぱり、なりたいのです――
堰を切ったように想いが溢れ流れ出す。それが口から漏れ出ぬように頭の中で言葉に換えて連ねて押し留める。
そうして幾分か平静を取り戻したしづねは、最後にひとつだけ、鏡磨に詫びる。
――わたしは決してこの想いを口にいたしません。
ですから、どうかわたしの中の一番奥に、この想いを隠し持つことを、お許しください。
「どうした、しづね」
「いえ、あまりにも綺麗だったもので」
「安っぽい明かりが逆にいいのかもな」
声をかけた鏡磨に対して、しづねはいつものように答える。
整理をつけて心は落ち着いていた。そうしてふと思い付く。大袈裟にいえば奇跡だったのかもしれない鏡磨の顔を見れたこと、その原因を。
もしやすると、自分にその存在を否定されたあの老人の仕業なのでは、などと。自分の存在を主張せんと、しづねの望んだプレゼントをもたらしてみせたのかもしれない。
――……なんて。そうですね、いないなんて言ってごめんなさい。
サンタクロース、あなたは本当にいるのかもしれませんね。
Blue Bird Chaser in Christmas:END
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