「終局的犯罪」は可能なのか?

◆魔術◆よく来たな。俺はバグ噴射総一郎だ。この記事にはFGO1.5部「悪性隔絶都市 新宿」のネタバレが含まれている。まだクリアしていないなら速やかにブラウザを閉じスマホと向き合い早々にクリアするべきだ。また例によって型月の設定にも若干触れている。◆髄液◆


はじめに

 コナン・ドイル作、シャーロック・ホームズシリーズ(以下、聖典)のモリアーティ教授の表の顔は数学者であり、21歳で「二項定理に関する論文」を出し、地方都市で教授職についた後は「小惑星の力学」という論文を発表するなど、その才能を発揮していた。しかし同時に犯罪者としての才能まで発揮し、それが元で教授職を追われたのでロンドンで教職に就き、それを隠れ蓑として犯罪会のナポレオンとして君臨する。

 モリアーティの論文については聖典では語られず、ワトソンの「未発表事件」と同時にシャーロキアンの考察ネタとして人気があるが、FGOでは「小惑星の力学」を、地球内部に小惑星を落下させ惑星を破壊する計画「終局的犯罪」に至る理論としているが、実はこれには元ネタが存在する。


アシモフ式終局的犯罪

 「われはロボット」「ミクロの決死圏」「ファウンデーション」などの著作や、ロボット三原則の提唱で有名なSF作家アイザック・アシモフの短編で、世界最大のシャーロキアン団体「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」にあてて執筆した小説に「終局式犯罪(The Ultimate Crime)」が存在する。これはモリアーティの「小惑星の力学」の正体に迫る内容で、「太陽系内のアステロイドベルトは元々ひとつの天体に由来すると仮定して、その天体の内部にどのような力が働いたら粉砕され、現在のアステロイドベルトを形成するようになるか」を考察したものであり、当時の学会が「モリアーティなら地球で実験しかねない」という理由で闇に葬った、というものである。FGOでは、都合の良い環境を整えて決行に至ったのである。


実際に可能なのか①

 爆竹を手のひらの上で爆発させても火傷するだけでしょう。しかし握った拳の中で爆発させれば・・・その手は使い物にならなくなるでしょう
                       ―アルマゲドン(1998)

 物体が爆発したり衝突したりするときに生じるエネルギーは周辺の物質を押しのけるが、エネルギーの逃げ場が少なければ少ないほど威力を増す。同じ質量のダイナマイトを地面に置いて爆破した場合と地中に埋めて爆破した場合、後者のほうが地面へのダメージが大きくなる。

 劇中でモリアーティが落とそうとした小惑星ベンヌは実際に1999年にLINEARが発見したもので、現在もNASAの探査機「オシリス・レックス」がサンプル回収ミッションのため向かっているところである。直径は約560mで、単純に地球に落下するだけでも大災害を起こすことになる。

 ここでImpact:Earth!というツールを用いて、シミュレーションを行った。

ベンヌの直径を560m、密度を鉄と同じ8000kg/m³、入射角を垂直、突入速度を40km/s、衝突場所を地面、観測場所を衝突地点から100kmと設定し、シミュレートを実行。

 結果、高度27900mで分解され衝突時のエネルギーは5880京ジュール=TNT爆薬1410億トン分と算出され、最大で直径21kmのクレーターが誕生する。落下地点から100km離れた場所では20秒後にマグニチュード8の地震が観測される。地球環境全体に大きな影響を与えるが、地球の軌道を変える程の衝撃には至らない。

 比較対象として、直径3000km(日本列島ぐらいの大きさ)の小惑星をぶつけた結果、早い話がクレーターのサイズが地球よりでかくなり、地球は溶解する。全生命と引き換えに月がもう一個できるかもしれない。

 しかしモリアーティは直径560mのベンヌを魔弾の能力でバレルタワー上空に分解させることなく出現させ、バレルタワーを文字通り銃身として地球内部に発射させることにした。そうなるとバレルタワーの地下構造が問題となる。

 地球は外殻(岩盤)、その下に上部マントル(部分的に溶岩)、下部マントル(固体)、外核(液体の鉄)、内核(鉄、ニッケル)で構成されており、外殻から内核中心部までの距離は6400kmある。タワーが岩盤の薄いところをぶち抜く構造だとしても、その下のマントルは固体(※1)なので、半端な速度だとそこで炸裂してしまう。つまり凄まじく威力のある地震発生装置でしかない。そもそもベンヌもエクスカリバー・モルガンで破壊されてたので特別硬いわけではないし、魔力のバリアがあったわけでもない。だとすると「主人公を利用して小惑星ベンヌをバレルタワーに誘導し、まずバレルで地球中心部に狙いをつけ、凄まじい速度で射出して内部に激突させ、破片の重力結合が切れるくらいの破壊力を生じさせる」ぐらいが妥当と思われる。質量が小さくても速度さえあれば地球を破壊することはできるのだから。あるいはバレルを通過する時点でマントル突破用バリアとか張っていたのかもしれないし、ベンヌの内部構造に爆発性反物質とかあったのかもしれないが、生前のモリアーティは魔術を信じていなかったし、反物質研究は1900年代以降の話である。

 ちなみに一番簡単で確実な地球の壊し方は金星を地球に衝突させることである。イシュタルやべえ。


 実際に可能なのか②

 型月世界ではアラヤ(※2)とガイア(※3)という抑止力が存在し、アラヤは人類存続のために因果律を捻じ曲げる存在で、人理の破壊や人類根絶などの可能性を破壊あるいは抹殺する。基本的には気づかれない形(一般人を後押しして人類の敵を倒させる)などするが、死後アラヤと契約して霊長の守護者となるものも居る(エミヤなど)

 ガイアは地球そのものが存続しようとする意識であり、人命より地球を優先する。真祖やプライミッツ・マーダーはこちらの産物。

 オルガマリーの推測では、正常な時間軸から切り離されている特異点では抑止力が働かない可能性が言及されているので、「終局的犯罪」に抑止力は関与できない可能性が高い(カルデアに特異点がバレたのが抑止力の結果と言えなくもないが)


結論

 結果として「終局的犯罪」は条件さえ整えば実行可能で、その根幹は聖典よりもアイザック・アシモフの影響が強いといえる。また、アシモフの小説通りの論文を書いていたとすると、モリアーティの頭脳は1800年代後半の数学者の中でも極めて優秀であるといえる。純粋な数学者になったモリアーティ・オルタとか見てみたい。


(※1)よく誤解されるがマントルは固体岩石で構成されている。圧力変化や高温の部分は液状になり、マグマとなる。

(※2)名前の由来は阿頼耶識。

(※3)名前の由来は地母神ガイアおよびガイア理論。

 

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