亀の甲羅

小学校に入学してすぐ、国語の時間にひらがなのワークブックが配られた。一文字ごとに書き順と止め・はね・はらいのポイント、書き取りをするマス目、そして白黒で挿絵が描いてあった。【あ】なら飴、【い】ならイチゴという風に、その文字を用いた単語に関する絵だった。

先生は「書き取りが終わった人は、色えんぴつを出して絵に色を塗りましょう」と言った。
塗り絵まで完成したら、先生にワークブックを提出して、次の時間の始めに添削されて戻ってくる、というような流れだったと思う。

私は就学前から習字をやっていて、ひらがなの書き取りなんて既にお茶の子さいさいだった。なので、早く終わらせて塗り絵のほうに真剣に取り組んだ。

初回の国語の授業で【あいうえお】が終わり、次は当然【かきくけこ】である。
【か】の挿絵は亀だった。亀は何色に塗ろうかな?私は幼稚園の時にミドリガメを飼ったことがある。緑というよりどす黒い色だった。黒く塗ってもいいけれど、黒の塗り絵はあんまり楽しくないなと思った。
じゃあ、スーパーマリオに出てくる赤い亀みたいにしたらどうだろう?赤ならかわいい。私は横向きになった亀の挿絵の首から上と脚を肌色(当時の呼称)に、甲羅の部分を赤く塗り、提出した。

その次の国語の授業で、先生がワークブックを返却する前に「亀の絵に変な色を塗っていた人がいました」と言って、私が塗った亀の挿絵をみんなの前で見せた。
「亀さんは何色に塗ればいいですか?」という問いかけに、クラスメイトたちは口々に「緑」や「茶色」と答えた。
「そうです。緑か茶色だよね。赤い甲羅の亀はいません。さーやさん、やり直しましょうね」
結局、私は消しゴムで消して緑に塗り直すはめになった。一度色えんぴつで塗った部分をきれいに消すのは、小1には至難の技だった。

特にこれといったオチはなく、教育界に疑問を投げかけたいわけでもなく、これが、私が人生で初めて「自分は変なんだな」と思った出来事です。

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