まじないどきの島
煙の中から、それは聴こえた。
我々はODVTTZM
退行的自然科学と全宗教根治のための実証降霊会
わ/ はオドV^
諸君上陸ヒカえ
上ゥゥ陸控えてもら、たい
「ヘイ、教授」
映写機の爆発からかばうように、コブ・ハリス米陸軍念動技官は私の前に立った。
「平気だ。俺がいるぜ?」
いい笑顔だ。意味はないが。
焦げた臭いが立ちこめる会議室はゆっくり左右に揺れ、波の穏やかを船上の我々に伝えていた。だが室内は喧騒だ。
映写機こそ、コブが“念”とやらで消火したようだったが、白いスクリーンは未だ奇妙な声を発していた。
誰もがその乱れた黒円、スクリーン上の、黒い太陽を見ていた。
「あのね皆さん」
手元の配布資料を眺めたまま、日本人、ヒナカが苦笑した。
「この分野は素人ですが、催眠とか2bit兵器とか、あと視界動物? そういうのかもですよ。皆さん専門家でしょ。そう凝視しないで……」
《分析家》の女は続けようとしたが、先に部屋の隅でワイホーが口を開いた。
「62時間後迄に、これ由来で問題はなかった」
ワイホーは浅黒く長い男だった。
あまりに長すぎるので、耳が天井を擦っていた。
「視た。無事だ。全員」
彼の瞳は現在を見ない。その眼球表面を這う、紫の蟻のせいで。
「変更は」
車椅子の老婦人、クィンが訊ねた。
紫蟻の男が唸る。
「ない。上陸と降下も予定通りやった」
婦人がスクリーンを指し、小馬鹿にするように笑う。
「ODVTTZM。主宰エッケヘトの声ね。つまり」
「父ですね」
苛立ち、私は言った。
「神智学的に私が上です。倒せますよ」
「だから呼びました、《探検隊》唯一の神意主義者」
老女は薄く笑い、味方と、
「計画通りです。
上陸を、ヌダ・クィン諸島へ。
降下を、その何処にある《地底胎洞》の入口へ」
敵へ向けて宣言した。
「わが祖先の、約束の土地へ」
太陽が消えた。
ブツリ、と。
【続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?