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禍ZONE『フジサキくん』脚本 元原稿

これはなに?

 2022/12/18に東京で行われた怪談イベント「禍演~東京~」の中で上演された3本のホラー短編映像のうち、『フジサキくん』の脚本を葡萄用図が書きました。これは怪談ツイキャス『禍話』で語られた怪談を映像化しよう!という侠気企画、『禍ZONE』の脚本募集に応募し、採用されたものです。
 こちら、なにかの足しになったり、禍ZONEの復活の機会などがあればその際の誰かの参考になったりしたら幸いと思い、映像の簡単な感想や、個人的な覚書きなども合わせて、ここに置いておきます。
 本当は、他二作を書かれたお二方が公開されているのを見て「あっ」と思い、やっています。

 実際に映像になったものでは、私の脚本に調整やアレンジが加えられ、また3本のまとまった作としての統一感を高められて、よりよいものになっております。
 したがって、まだご覧になっていない方は、ぜひ先にそちらを楽しんでいただき、この脚本はおまけ程度に考えていただくことをおすすめします。
(お好み焼きの具の一つのようなものなので)

 映像化したホラー短編はこちらから購入できますので、ぜひどうぞ。
 商品についてのご質問などは、私はわからないので私に訊かないでね!
 ※データ販売 恐怖劇場 禍ZONE
 https://bigsummer.buyshop.jp/items/68932906

 

 なお、こちらの原作は、怪談ツイキャス『禍話』禍話X 第六夜×忌魅恐 で語られた『フジサキくんの家のお葬式の話』です。
 公式アーカイブのリンクも置いておきますので、ぜひ原作もお楽しみください。

https://youtu.be/sEkm1tDkSQM


タイトル:フジサキくん

原作:禍話 忌魅恐『フジサキくんの家のお葬式の話』(禍話X 第六夜×忌魅恐)
脚色:葡萄用図

登場人物

  • A……男性。サラリーマン。ワイシャツなど、夏の会社勤めらしい服装だが、くたびれた様子の外見。

  • Aの妻……喪服。

  • Aの娘(ミホ)……喪服。娘と分かれば、年頃は自由に。

ロケーション

・Aの自宅と周辺……30~40代の男性とその家族の暮らしている家に見えれば自由に。室内は、妻と娘がいる居間と、Aがいる自室内のドア前が見えればよいので、家の間取りが見通せる必要はない。部屋はどちらも少し散らかり気味で、普通に暮らしている状態としては、やや違和感のある様子。


シーン1

Aの顔のアップ。夜、マスクをしてワイシャツ姿のAがスマホを持ち、画面に向かって話しかけながら帰路に着いている。疲れた様子で、シャツはくたびれている。
カメラは通話相手から見たAの視点。(風景は、アパート・マンションの前や階段、廊下など、もう家が近いことがわかる場所)
通話相手は会社の後輩らしい。

A 「(通話相手に)うん、うん。いや、今ウチに着くとこだよ。
ああ、うん。大丈夫。ありがとうな、気ぃ遣ってくれて。
うん、明日から復帰するから、うん。いやあ、大丈夫よ。仕事はまた別の話だから…」

A、通話しながら自宅の鍵を開け、玄関に入る。
玄関で人感式の置き照明(靴箱の上など、どこでも可)が点灯し、棚などの上にある(あるいは壁に貼っているなど)A、妻、娘の三人の家族写真を照らす。
A、ドアを片手で閉じようとしたまま写真をじっと見つめ、放心したように沈黙する。Aの顔のアップ。
やがて照明が消えると、灯りがない真っ暗な玄関。いつの間にかドアから手を放していたAの後ろで、自然にドアが締まり、音を立てる。
(人感式照明の演出が難しければ変更可。明かりが点いて家族写真が目に入り、Aがそれを見て放心してから、なにかのきっかけでもとに戻る、という過程があればよい)

A 「(放心から帰って)ああ」

A、玄関の天井照明を点け、マスクを外す。すぐに線香の匂いに気付いて嗅ぐ仕草をする。

A「(室内に呼びかけて)なんだぁ? 誰も帰ってないの?」

スマホからは、通話相手の後輩がAを呼ぶような声がまだしているが、はっきりとは聞こえない。Aは一方的に通話を切ってスマホをしまう。
再び線香の匂いを嗅いで顔をしかめながら、居間へ入っていく。

居間へ入ると、散らかった暗い室内で、Aの妻と娘が背中を向けて座っている。スマホの画面を見下ろしており、その光で二人の姿がわかるが、顔は見えない。ここではスマホの画面ははっきりわからない。

A「居たの……返事してくれよ」

A、妻と娘が喪服姿であることに気づく。

A「なんだ。誰かの…」
妻「お葬式があったの」
A「ああ、それで線香の…(部屋の匂いを嗅ぐ)」

妻、わずかに娘の方を見るような仕草。顔は見えない。

娘「フジサキくん」
A「え?」
娘「お葬式」

A、名前に心当たりがないという表情。曖昧な相づちを打ちながら、部屋の灯りを点けようとする。

妻「(振り向かないまま)やめて」
A「え?」
妻「電気」
娘「このままにして」
A「ええ?」

妻と娘がそれ以上何も言わないので、Aは不服ながら従う。

A「ああ、そう…」

A、荷物を置いてくつろごうとする。

A「フジサキくんって……ミホの友達? ずいぶん急だな。事故かなんかで……」
妻「お葬式でね、お棺が閉まってたの」
A「は?」
妻「蓋が閉まってて。顔が見えなかったの。蓋が閉まってて」
A「ああ……じゃあ、大変な…。亡くなり方が、大変だったんだね、それ。家族も辛かったろうね」
妻「(少し大きく)フジサキケイタ」

驚くA。言葉の意味を考えるような間が続く。

妻「知らない?」
A「……いや、ごめん。ちょっと……記憶にない」
娘「フジサキケイタくん、知らない?」
A「…………顔が出てこないなあ。ミホ、いつの時の友達?俺会ったことあるなら、小学校……中学校とか……(ここで少し思い当たることがあり、視線が泳ぐ)」
娘「フジサキケイタくん」
妻「フジサキケイタくん知らない?」
A「………お前ら大丈夫か。…ご飯食べた?」

A、テーブルの上に食パンの袋や弁当の容器、お菓子の袋など(女性らしくない、男っぽい種類)が散乱している事に気づき、顔をしかめる。妻と娘を見るが、声はかけられない。
A、沈黙に耐えかねて居間を出る。

A「明日仕事だから、先寝るよ。おやすみ」

妻と娘は背中を向けたまま、反応しない。


シーン2

A、真っ暗な自室でドアに背中を預けて座り込んでいる。
少し考えてからスマホを取り出し、目当ての電話番号を探すのにやや手間取ってから、電話をかける。

A「ああ、もしもし。あの……。
ああ!そうそう。俺だよ。久しぶり。……え?んなことないよ。
じゃなくてさ、あのさ、ほんとどうでもいいことなんだけど、ちょっと確認したくて。
いや、大したことじゃないんだけど。
あの~……あれ中学だっけ。あの、坂の前の歩道橋から落っこちてさ、そのまま轢かれちゃった。あの、イジめられててさ。
中学だよね。だよね。お前いたもんなクラスに。
あれ名前なんだっけ? いや、そのイジメられてた奴の方。
あれさ、フジサキじゃなかったっけ?……な~。すんごい死に方してな。めちゃめちゃになっちゃったってな。
……いや、俺はそんなにやってないだろ。どっちかっていうとお前だよ。俺はひどいな~~と思って見てたんだよ。大したことしてねえよ。
んでさ、下の名前わかる?フジサキくんの。………………あ、そう。そうだっけ。
いや、全然、どうでもいいんだけど、急に気になって。ああ。ごめんね。うん、うん、大丈夫。
あ。あとさ、葬式ってやったっけ?
え? いや、いやいや、フジサキの。そのフジサキの葬式。中学の時。ほかにないでしょ。やったっけ。……いや、知らねえよ。そうじゃなくて」
(この電話のシーンはあまり意味深な間を取らず、普通の話をしているような調子で)

妻「(ドアを隔てた遠くから、声のみで)ねえ」

A、ドアを一瞥して身構える。

妻「フジサキ、ケイタくん、知らない?」

A「………(長い沈黙の後、部屋の外を気にしながら小声で)ああ、もういいわ。ごめん」

一方的に電話を切り、ぼーっとした表情で虚空を見つめるA。線香の匂いを嗅ぐように鼻を何度か鳴らす。


シーン3


居間の妻と娘。二人共スマホを見つめ続けている。やはり顔は映らない。
スマホ画面がアップになると、それぞれに自分自身の笑顔の写真が表示されている(暗闇に浮かび上がって遺影のようになっている)。
妻と娘が、カメラに向かってゆっくり振り返ろうとしたところで場面転換。


シーン4

朝。昨日のままのシワだらけのワイシャツ姿に、乱雑にネクタイを締めたAが居間に現れる。サラリーマンらしい手提げカバンも持っているが、カバンはファスナーが開きっぱなしで、中身の書類等が少し飛び出ている。
妻と娘も、昨日の姿と全く同じまま、背中を向けて座っている。
A、立ち止まって二人の様子をうかがうが、やがて線香の匂いを嗅ぐようにまた鼻を鳴らす。テーブルに残っていた食パンの袋をつかみ、パンを取り出して立ったまま食べはじめる。焼いたりジャムを塗ったりせず、そのままモリモリ食べる。

A「(食べながら)あのなあ。フジサキくんっていうのだけどさあ、お父さんやっぱり会ってないなあ。知らない子だと思うよ。でも、かわいそうにな。若いのにさ。ご両親とかもかわいそうだよね。大変だと思うよ。うん」

妻と娘、無言。

A「おーーい(テーブルをドンドンと叩く)。(鼻で笑う)いつまでやってんだ。おい」

妻と娘、やはり無言。

A「あ、そう。じゃあお父さん仕事行くから。
これ、まだ残ってるから、元気出たら食べな(パンの袋を乱暴にテーブルの上に放り投げる)」

A、自分の手や袖の匂いを嗅いでから去る。背中を向けたままの妻と娘。
部屋の棚などにクローズアップしていくと、スマホに映っていたものと同じ妻と娘の笑顔の写真がそれぞれ立てかけられ、その前に小鉢で線香が立てられて煙を上げている。


シーン5


マスクをつけたAの顔のアップ。出勤途中のような様子のAが、街中を歩きながら、スマホに向かって通話をしている。相手は会社の上司らしい。ごくふつうの様子で、ビジネス会話のように話す。

A「ああ、どうも。おはようございます。はい。はい。ええ、はい。今向かってます。ええ、会社の方に。
え? はい。え? ああ、はい、大丈夫です。明日になれば復帰できますんで。
え? いや、今は会社に向かってます。会社の方には明日復帰できますから。え?
いや、明日になれば大丈夫なので。はい。明日復帰します。なので、今向かってます。はい?
明日です。はい。いや、大丈夫ですよ。(愛想笑いをしながら)はい、いや大丈夫です。ええ、これから会社に着きますんで、明日から復帰できます。えっ?
(納得したように)ああ~……でも蓋がどっちも閉まってて、顔がわからないんで。え? いや、どっちも蓋が閉まってて、顔がわからないんですよ。ふたりとも。まあ後で確認すればいいんで。はい。えっ?
いやいや、明日復帰しますので大丈夫です。僕も繰り返しは嫌なので。
はい、今向かってますんで」

通話しながら、Aの顔の周りに見える風景が冒頭の通話シーンと同じ場所に近づいていく。やがてアパート・マンションの廊下に入り、家の前にたどり着く。

A「(自分が家の前に居る、ということに気がついて)……あ?」

スマホを持ったまま家の前で呆然とするAの後ろ姿。さっきまで朝だったのが、冒頭と同じ夜になっている。
A、スマホを持った姿勢のまま、恐る恐る家のドアを開ける。
マスクをつけたままのAが居間に入ると、妻と娘はやはり同じ様子でいる。
線香の匂いがしたのか、Aが鼻を啜り、マスクを外す。妻と娘を見たままぼーっとしている。やがてはっとして、スマホに向かって話しかける。

A「………ああ、うん。大丈夫。ありがとうな、気ぃ遣ってくれて。
うん、明日から復帰するから、うん。いやあ、大丈夫よ。仕事はまた別の話だから」

娘「フジサキくん」
妻「フジサキケイタくん」

A、壁掛けの日めくりカレンダーに目を留め、乱暴に破り始める。次々に日付を進めていく。

A「(スマホを耳に当てながら)いやあ、俺はなんにもしてないよ。大したことしてないから。うん。あ~うん。いやあ。(上司に話すように)はい、ほんと大丈夫なんで。ええ。いや、それは私じゃないんで。ええ。私は関係ないです。今向かってますんで。はい。(子供に話すような調子で)大丈夫だよ~。明日からちゃんと行けるからね~。お父さんもうすぐ会社に着くからね~」

A、カレンダーを破り続ける。



映像の感想

  • こうしてみると、大事なところを殆ど書いていない曖昧なホンで、ずいぶん肉付けしてもらっている

  • しかし、書いた側として意図が伝わらなかったと思う部分は全くなく、むしろよくあれだけ正確にやってくれたなと率直に驚いた

  • 観ていただいた方の感想などでも散見されたが、微動だにしない妻と娘が素晴らしい。怖い

  • 長台詞が多く、ほとんど喋り芸のような感じだったので大変だったと思うが、宮代あきらさんのイヤ~な演技もドンピシャだった

  • 台詞覚えるの大変だったのでは?と今更気づく

  • 禍話はビジュアル的にも印象深い「バケオ」が登場するお話が多いので、投稿もそういうのが多くなるだろうと思って反対のセレクトをしたが、実は同じことを考えている方が多かったかもしれない。強いビジュアルで、低予算で済みそうなのだと何があるかなぁ…

  • ホラーオムニバスもので、「一本地味だけどすげえ気持ち悪いのあったよね。あれ何だっけ……タイトルおぼえていないけどなんか怖かった。一番怖かったのは別のやつなんだけど、なんかあれ気持ち悪くて……」みたいなのに出くわして、何年も記憶の片隅に残ることがあるけれど、なんだかそういうものが出来上がった感じがして、とても嬉しい

  • 世界観への視覚的な導入として、ZOOM的な通話の相手として主人公の顔をパッと最初に観客に見せる、というような書き方をホンではしたが、ロングで朝の青い薄明かりのなかの主人公の足取りを見せる、という実際の映像のほうが遥かにいい。まさにそういう時間帯の、そういうタイミングで、ふと「あれ?自分なにしてるんだっけ?」みたいになってしまう感覚が欲しかったので、あ、余計なことしなくてよかったなと思った


覚書き(執筆時に気にしていたことなど)

  • 配役は少なく、場面転換も少なく済むのがよかろうと思いつつ、一室で完結するのも映像的に代わり映えがなくキツイのではなど唸っていた

  • 忌魅怖をやりたいなと思っていたので、忌魅怖から室内ロケーションで済みそうで、それなりに場面転換の余地もあり、配役が少なそうなものを探す

  • ほぼ伝聞で終わるフジサキくんにすっか>人が多い>減らす>主観にするか……>じゃあ伝聞じゃねえじゃねえか

  • 禍話では、怪異に見舞われた人物の主観ではなかったり、あるいは主観でも空白の時間があったりするので、せっかく映像にしてもらうなら、あえてそこの「空白」でも書くか。これなら翻案とか脚色の範疇に入るだろ(そうかな?)

  • 『フジサキくん』なら、大変なことになっている人のおうちでのできごとにしよう>書き出す>これシメをどこにしよう?>原因から目を背けているひとなので、永遠にぐるぐるさせよう

  • 『CURE』のステーキ投げとか『宇宙戦争』のトースト投げとかが好きなので、狂った男の人には食べ物を投げさせたい(あとでスタッフがおいしくいただくと信じて……)

  • 前職の大変だった時期に、うちに帰って玄関に立った瞬間「あれ?これから寝るんだっけ?会社行くんだっけ?」となりながら気がつくと布団の中で朝目覚め「高校の卒業式だ!宿題やらなきゃ!」と宿題を探し始めたというおもしろエピソードを思い出し、じゃあそんな感じで……と入れ込む

  • ある程度書き上げたあたりで、「この話、意味不明でわ?」とようやく思い至り、線香臭さばかり匂わせていたので、視覚的に匂わせるものを増やす(時間経過とかカレンダーとか)

  • まだ意味不明だけど、そこまで意味不明じゃないから、意味不明じゃないな!>完成。お祝いのお寿司屋へ・・・(FATALITY…)


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