流行に、あえて乗らない。ヒネてるんじゃなくて、戦略的レイトマジョリティー

流行、過ぎ去っていくの早すぎませんか。

例えば音声SNSのClubhouse。一時期の熱狂的な広まりと話題性からFOMOFear Of Missing Out=見逃してしまうことへの恐れ、ひいては、話題に乗り遅れ、取り残され、孤立してしまうことへの恐れ)を引き起こしました。

今でも利用者はけっこういるのですが、一時期のように猫も杓子も、って感じではなくなっています。ちゃんとブームがひと段落して定着しているので、サービスとしてはより良い状態になりつつあると思います。(※1)
むしろ、こういった形態の音声SNSが、ボイスメディアの発展・多様化とか、双方向コミュニケーションの浸透とか、配信者と受け手の関係がインタラクティブ化していく感じの文脈とか的に、今までなかったことが不思議ですね。
「なんでこんなものができたのか?」ではなく、「今までなんでなかったのか?」と思う感じって、サービスが定着してきた証左な気がします。

でも、そんななかにあって、あえて「流行ってるから、乗らない」という態度の人、いますよね。ヒネてるとか、斜に構えている(※2)とかじゃないんですよ。
もちろん、「流行に飛びつくのはザコ」「流行りを追うのは恥ずかしい」と思っているシャカマ(※3)もいるでしょうけど。

俺はよう! 戦略的に、あえてレイトマジョリティーを狙ってんだぜ!

イノベーター理論のおさらい

新しいサービスや製品が、市場にどのように受け入れられるかのマーケティングモデル、それがイノベーター理論だ!
この理論では、サービス・製品が普及していく段階を5つに分けて、それぞれの段階でどのような層が動いているのかを示しています。

1.イノベーター(革新者)
2.アーリーアダプター(初期採用者)
3.アーリーマジョリティー(前期追随者)
4.レイトマジョリティー(後期追随者)
5.ラガード(遅滞者)

1.イノベーター(革新者)
イノベーターは情報感度が高く、常に最新のサービスや製品を探しています。端的に言うと「新しもの好き」で、最新のガジェットとかを自慢してくる、あるいは自慢げに使ってくるタイプだ。
全体の約2.5%くらいらしい。
またの名を人柱だ。

2.アーリーアダプター(初期採用者)
情報をある自分で集めており、比較的新しいものを使ってみるのがアーリーアダプターです。その新サービス・新製品において、自分自身がインフルエンサーやオピニオンリーダーになったりもします。
イノベーターほど果敢にサービス・製品の開拓は行わないものの、ある程度の先進性とチャレンジングな精神をもち合わせています。
イメージとしては、「『インディーズの頃から応援してたバンドの〇〇だけど、メジャーデビューだってさ。ちょっと寂しいよな。』って言ってもいいくらいの古参」だ! 流行りはじめか、流行ってるか、これ? くらいの時期のファンだ。
全体の約13.5%くらいらしい。

3.アーリーマジョリティー(前期追随者)
現実的な基準をもっているのがアーリーマジョリティーです。多くのアーリーマジョリティーは、ある程度はトレンドに敏感で、アーリーアダプターたちのなかで何か新しいサービスや製品が流行り始めていることを認知しています。
自分がそのサービスや製品を採用しないのは、慎重に見極めているためです。先行事例を確認しながら、採用価値があれば採用するというスタンスの現実主義者的な側面をもっています。
彼らは、地雷原を突き進んだ先人の後から、安全な道をたどってくるヤツらだ。人柱の尊い犠牲に感謝しよう。
全体の約34%くらいらしい。

4.レイトマジョリティー(後期追随者)
アーリーマジョリティーよりもさらに現実的で、保守的ですらある層がレイトマジョリティーです。普及率が高まってきたことに安心感を得て、採用を決定します。
この段階に入る時点で市場のおよそ50%が新サービス・新製品を採用している計算になります。すなわち、「50%もの人々が使っているのだから、問題はないのだろう」という論拠で採用を決定するのです。
「みんなやってますよ」と言われると、しぶしぶ付き合うヤツらだ。同調圧力に負けてやがる!
全体の約34%くらいらしい。

5.ラガード(遅滞者)
もっとも流行に鈍感、または懐疑的である層がラガードです。保守派よりもさらに保守的で、既存のサービスや製品から変更することに極めて消極的です。この段階に入る時点で、すでに約84%が新サービス・新製品を使用しています。このように彼らは、文化的なレベルで大多数に浸透してはじめて、切り替えを検討します。
イノベーションとかそういうのに、まったく興味がない、なんなら変えたくないヤツらだ。スマホにしなくてガラケーのままのヤツとか、たまーーーにいるよな! でも、フューチャーフォンが製造終了して、もう機種変はスマホしかない! ってなったら、そういうヤツも嫌だけどスマホにするわけ。そんくらいの何かが起こらないと買えないんだ。頑固!
全体の約16%くらいらしい。

キャズム理論(問題)のおさらい

後年、イノベーター理論における大きな問題が指摘されました。それがキャズム理論(問題)です。

キャズムとは、溝(みぞ)を意味しています。

すべての新しいサービス・製品において、市場への浸透がイノベーター理論のとおりに滞りなく進んでいくかというと、そうでもありません。
つまづきとなるキャズム(=溝)が存在するためです。

キャズムは、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間にあります。イノベーターとアーリーアダプターを合わせても、その市場人口は2.5%+13.5%で約16%。規模としてはまだまだです。アーリーマジョリティーの34%を取り込んだ、50%の市場を取らなければ、マイナーサービス・製品で終わってしまいます。
ですが、アーリーマジョリティーに浸透しはじめる時期の市場浸透率は、上記のとおりわずか16%。ここで、アーリーマジョリティーは「採用価値があれば採用する現実主義者」であることを思い出してください。アーリーマジョリティーにとって、新しさは何の魅力でもありません。市場人口が16%程度の小規模で集められた前例だけでは、検討材料として不足しており、採用に至らないことも多いのです。

そして、イノベーターとアーリーアダプターが、どちらも基本は「新しもの好き」であることも思い出してください。アーリーマジョリティーの採用が遅々として進まないうちに、新サービス・新製品が陳腐化し、「もはや新しいサービス・製品ではなくなってしまう」のです。そうなると、16%のイノベーターとアーリーアダプターも離れていきます。

イノベーターとアーリーアダプターが興味を維持しているうちに、いかにアーリーマジョリティーの採用度を高めるか。それが、新サービス・新製品が市場に受け入れられるか、消えていくかの肝になります。

この、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間にある、なかなか超えられない隔たりを「溝=キャズム」として表現しているのです。キャズムを超えられず、一部の界隈で話題になったものの、結局消えていったサービス・製品は枚挙に暇がありません。
これをキャズム理論と呼びます。マーケティングにおける課題でもあるので、個人的にはキャズム問題、という呼び方を好んで使っています。

イメージで言うと、「前にいた、なんとかっていうトガったお笑い芸人、俺は好きだったんだけどな。最近見ないな。」とか、そんな感じ! 先進的なお笑い好きには受けたし可能性は感じられたけど、お茶の間に受けなかった! みたいなね。

キャズム理論(問題)を超えた例

何かキッカケがあると、キャズムを軽々と超えることもあります。

例えば、日本におけるUber Eats。
日本上陸直後から、決して無視できる存在だったわけではありませんが、それでも「割高」だとして、一部にしか浸透していませんでした。
キャズムを超えるキッカケは、間違いなく某感染症による大規模な自粛でしょう。外出しにくくなったユーザーがおり、店舗をオープンしにくくなった飲食店が増えました。Uber Eatsは、それらの二つをつなぐ役割を担ったのです。
しかも、上記の自粛や消費の落ち込みをはじめとしたさまざまな経済的な打撃によって収入が減った人が、新たな収入源として「配達員になること」を選ぶこともできました。都市部では、Uber Eatsはもはや新しいインフラといっても過言ではないでしょう。

あるいはイノベーター理論の適用を、新サービス・新製品だけでなく、「新しい概念」「新しいビジネスモデル」「新しいサービスモデル」にまで広げて捉えればとうでしょうか。

先述のClubhouseをはじめとした音声SNSの広がりは、まさにキャズムを超えることに成功した新モデルの一例といえるでしょう。熱狂的に広がったのはClubhouseでしたが、同様のサービスをTwitterが「スペース」として提供しています。模倣サービスや似たサービスモデルが登場することは、その概念が一般化してきたことを示す、分かりやすい市場の反応です。
スペースは、最近、ふとTwitterを見ると大抵誰か開いて話しています。頻度も個数も増えてきていると思います。
この場合におけるキャズムを超えるキッカケは、Clubhouseの爆発的な広がりと、iOSにしか対応していなかった時期のFOMOによるフラストレーションではないでしょうか。もしかすると、リモート慣れ、遠隔コミュニケーション慣れも影響したかもしれません。

戦略的レイトマジョリティーとは

イノベーター期ではない理由
良さそうなサービスや製品、あるいはビジネスモデルや概念が世に生まれたとき、イノベーターとして飛びつくのもいいでしょう。
ですが、人柱になる可能性もあるし、せっかくいろいろな周辺機材とかそろえたのに、一過性のブームで終わってしまい、掛けたコストもリソースも時間も全部ムダになる、みたいなこともあります。一番、その心配があるのがイノベーターです。
ベータマックスやHD DVD、あるいはセガのハード、バーチャルボーイ、ワンダースワン、ネオジオ……このあたりにピンと来る方もいるのではないでしょうか。
「絶対来る!」と信じてイノベーターになることは、私には無理です。
あるいは、「自分がこのサービスを支えるんだ!」という使命感もあるのでしょうか。そういう人は、クラウドファンディングをやりましょう。

アーリーアダプター期ではない理由
さて、ではアーリーアダプター期はどうでしょうか。個人的には、この時期にはすごく慎重になります。
この時期は、イノベーターが新サービス・新製品を市場に広く伝えている期でもあります。イノベーターは勇猛果敢な人柱ですが、全員が正しい判断力をもっているわけではありません。
山師のようなものです。
「自分がこのサービスを支えるんだ!」と使命感をもって、ある意味で信者的かつ妄信的にサービスを紹介しているかもしれません。
なにせ、この段階ではまだ2.5%しか市場に浸透していないのです。イノベーターの手を握って、新サービス・新製品を抱えて一緒に心中する気概がないなら、飛びつく前に熟考したほうが良いでしょう。
結構信憑性がありそうだな、って思った、「ブルーレイ絶対負ける論」があったんですよ、当時は。やっぱりオレ、見る目なさそうだから、この段階で参入しないほうがいいな、と感じたものです。
もちろん、ガジェット感が好きで買っちゃうこともありますし、それはそれでOKなのです。

アーリーマジョリティー期ではない理由
では、アーリーマジョリティー期はどうでしょうか。この時期になると、多くの企業が目をつけます。
アーリーマジョリティー期には、粗製乱造が進むのです。
特に、新しいビジネスモデルや新しい概念などの場合に顕著です。
Uber Eatsの台頭が著しかった時期、国産のデリバリーサービスもいくつか登場しています。後発のデリバリーサービスが、地方を拠点に上陸したこともあります。また、老舗の出前館が積極的なプロモーションを行ったり、宅食の見直しなどが進んだことで宅配寿司「銀のさら」などを運営するライドオンエクスプレスも存在感を増しています。周辺のビジネスも含めて活性化するのが、この時期です。
この時期には、後発だけど体力がある大きめの企業とかが、流行ってるからってガンガン資源をつぎ込みます。
アーリーマジョリティーたちに普及し、さらにサービスや製品が洗練されていくのです。

レイトマジョリティー期である理由
さて、話題のレイトマジョリティー期です。アーリーマジョリティー期のレッドオーシャンになりつつある感じを乗り超えて生き残ったものたちが、こレイトマジョリティー期に生き残った猛者たちです。
人柱による地雷探知もだいたい終わり、大きめな企業による資源投資の結果も現れ始めています。いい感じのサービスが残っているので、今こそ、恩恵を享受しましょう。
そもそもキャズムを超えることが難しいので、何かあってキャズムは超えているので、サービスやコンテンツ的にはけっこうイケてるはずです。
特に、高額なものとかはこの期に買いがちです。周辺機器をそろえるのも大変だったりするとか。ちゃんとしてて、ある程度いい物がほしいなら、間違いなくこの時期に買ったほうがいいです。
この時期の最大の特徴は、良いサービスや製品を手に入れるために必要な対価が、「センス」とか「知識」とか「かけた時間」とかじゃないってことです。
これ以前は、自分でちゃんと調べたり、その道のプロに話を聞いたり、ヒドいときには「運」だったりがなければ、良いサービス・製品に出会えなかったのです。逆に言えば、運が良かったり、ちゃんとした知識やセンスがあれば、少ない金額で良いサービスや製品が手に入り、お得な時期でもあります。
ですがこれ以降は、必要なのは「お金」です。品質の問題を金で解決できるようになります。だいたい、こんくらいの値段ならこんくらいの性能、みたいなものが、なんとなーく市場全体でコンセンサスがとれてくるのがレイトマジョリティー期以降です。
めんどくさいから! 金はちゃんと出すから! お得な買い物がしたいわけじゃないの。めんどくさくなくて間違いない買い物がしたいの! オレは! 

ラガード期ではない理由
理由は一つです。
FOMOだよ!
なんかまわりから遅れてるの、イヤじゃん。別に、新しくて良いサービスを使いたくないわけじゃないんですよね。

そんなわけで、あえて流行に乗らない買い方、オススメです

どうでもいいものとか、めっちゃ安いものとかなら、まぁいいかな、と思います。
ですが、ある程度のコスト・リソース・時間がかかっちゃうようなものを買う場合は、流行が落ち着くのを待ってみるのも手だよ、というお話でした。

でもこれ、あれだな。
有名な故事である「自分のことを『オレは伊集院の深夜ラジオを聴いてるから、そのへんのオタクとは違う、と思ってるオタク』とは違う、と思ってるオタク」と、すっごい似た構造になってるな。

そんなかんじ!! またね!

※1:Clubhouseの流行と現在
当初は10代~20代にヒットしたのですが、今は20代~30代にボリュームゾーンが移行しているようです。怪しげなネットワークビジネスとか情報商材とか陰謀論とか、あとは差別的な内容とかをいかに排除して健全にできるか、が肝でしょうか。録音できないことになってるから、言質とられたくいない人が殺到するのよね。

※2:斜に構える
本来は、「改まって構える」とか「ちゃんと向き合う」とかの意味がある慣用句で、今の用例的な「皮肉的」「常にあざけっている」「真面目に見ない」みたいな意味とは、真逆だったんですけどもね。
剣道とかで、相手に対して真正面から中段に構える様から来ているのだとか。その姿勢をとると、横から見たときに自然と竹刀が相手に向かって斜めに伸びるため、竹刀(刀)を斜めに構え、相手と正面から相対する=改めて、しっかりと構えること、ということらしい。
『辺境の老騎士バルド・ローエン』でも、ワケわかんない相手と戦うときは中段の構えが一番安定するって言ってた!

※3:シャカマ
恐らく、「斜(しゃ)構(かま)」からでしょうか。元は、アイドル現場用語らしい。斜に構えてるやつのこと。この呼び方も、なんか斜に構えてる感じするよな!!
「あいつってシャカマだからさ~」とか言うヤツ、絶対にシャカマだぜ!

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