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わたしがつらい

他の科でもそうだと思いますが、精神科・心療内科にも、誰かに連れられて受診する人がいます。親子だったり夫婦だったり、兄弟姉妹だったり。会社の人が同伴したいという場合もあります。困ってしまうのは、本人よりも周りの方が困っているというケースです。

病状がシビアで、自宅では対応しきれないといったような人は、ハナコのところには来ません。自宅で過ごせてはいるけど、学校にいけないとか、会社にいけないとか、身の回りのことがきちんとできないという理由が多いです。普通の人がうまくいってない場合です。

患者さんは暗い表情でうつむきがちで、短く返事するぐらいです。何をどう話していいかもわからないのでしょう。ハナコもつらかったから、わかります。言葉にできるのは、かなり落ち着いてから。最初は雰囲気とか反応とかをみます。話せないなら話せないでいいんですよ。知らない人にいきなり、どうしたのって訊かれてもね。ごめんね。

なかなか説明できない患者さんを見かねて、横にいる家族が事情を話し始めます。ものすごい勢いで話し始めます。人によっては、本人より先に話し始めてしまいます。ちょっと待ってという隙もありません。勢いが付きすぎて本人の前ではちょっとという場合は、本人に席を外してもらいます。こうなると、どっちが患者さんかわかりません。

「どうしていいかわからい」。いろいろ聴いていくと、話も患者さんのことから、家族の心境に移っていきます。涙ぐみながらも話は止まりません。「患者さんがつらいのはつらい」「つらい患者さんをみているわたしもつらい」。だから治して欲しい。すぐに治して欲しい。

人のつらさは、誰かがどうにかしてあげられるものではありません。どんなに苦しくても、代わってあげられない。周りが出来るのは、若干の環境調整と見守りぐらいじゃないかと思います。あとは本人自身の力と時間が癒してくれるのを待つのみです。

そうお話して治療に入ろうとするのですが、ものすごい勢いで来られた家族は、ものすごい勢いで、他の先生に紹介状書いて欲しいというんです。昔はハナコも複雑な気持ちになりましたが、今ではそういうものだと思っています。

患者さんは患者さんの問題に取り組めばいいし、家族は家族で、自分の問題に取り組めばいいんじゃないかな。人のことはどうにもできないし、思い通りにはならないよ。患者さんのことは、そっとしておいてあげて下さい。できれば自分が先に立ち直って、患者さんにも元気を分けてあげてね。振り返ると誰かがいてくれるというのが、ハナコは一番嬉しかったです。


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