付き合う前の性行為、果たしてメリットがデメリットを上回るのか

 付き合う前に性行為の相性を確かめるのも大事と聞くし、実際わたしも重視派なので先に済ませてしまうことは多々ある。
しかしいま、付き合うタイミングをダラダラと逃しているあの長身の彼、彼と初めて会ったその日に関係をもってしまったことは今となっては少し後悔している。
 彼はよっつ歳下の細身でスタイルの良い子で、色素の薄い瞳に笑うと目尻に出来るシワがとてもチャーミングな男だ。
出会いはマッチングアプリ。わたしとは車で2時間弱離れたところに住んでいる。
最初はどうだったかもう覚えていないが、彼はわたしの生活や好み、思考についてあまり聞いてこない。わたしたちの今後をどうしたいかも話したことがない。なんならわたしのことを好きかどうかも分からない。笑える。
セックスの回数は覚えてないくらいはしている。その何回かの最中やふとした時に、あなたのことが結構好きなんですと言ってみたことがあるが、返答は決まって「僕もです」だった。

 彼の5ヶ月程の出張が決まった頃、わたしは車を走らせしょっちゅう彼の家に行っていたし、彼の同僚と一緒にみんなで部屋で飲んだりもしていた。誰が見ても恋人の様だったし、わたしもそろそろ確認したいところだった。
結局精神的な話を一度もしたことが無かったので、彼が”どこまで話せる奴”なのか分からず、刻一刻と迫るタイムリミットを前に困惑したわたしは、直接の彼ではなく想像の、わたしの頭の中で作った彼に話をしてみたりしていた。
 彼はアクションや派手な洋画は好まなかった。偏見だが、そういった物が好きな竹を割ったような性格なら、わたし達の関係を明らかにすることに前向きでいてくれたかもしれない。
度々偏見なのだがわたしからは、彼は多くを語らないことを美徳とするような邦画好きな男に映っていた。

 若い彼には、曖昧な関係のよっつ上の女から5ヶ月待っているねと言われることを重荷に感じるかもしれない。ただ、今のこの関係を楽しんでいたいだけなのかもしれない。今から5ヶ月耐えなきゃいけないのに面倒な想いをさせたくない。
悶々と考え続けた半泣きのわたしに、とびきり良いセックスと、あのチャーミングな笑顔を残し「行ってきます」とにっこり、そしてあっさり彼は行ってしまった。

 船の上。たまの陸地でやっと携帯が繋がる状況で、彼は割と連絡を取ってくれていたと思う。
月に1度のほんの2、3日の連絡をわたしはいつも待っていた。
実は出発前の連絡が付くぎりぎりのタイミングに、耐えられなかったわたしは駄目押しで「話がしたい」と伝え通話をすることに成功していた。“話がしたい”なんて言われたら、絶対に意識するだろうと高を括ったずるいわたしの予想に反し、相変わらずの調子でへらへらと(失礼)話し、わたしに対して言いたいことなんてこれっぽちも感じない彼の声を聞くと、全てを明らかにして楽になりたい気持ちも引っ込んでしまい、出来る限りの明るい声で「いってらっしゃい、頑張って」と言うことしか出来なかった。

 すっかり彼のことが分からなくなっていた。いや最初からか。最初に会って関係を持ってしまったあの時から、彼のことを少し分かったつもりで真に彼のことを分かった時なんて一回も無かったのだった。たまの連絡で送られてくる、彼のいる異国の空の写真なんか見たりしながら、この先のハッピーエンドに期待と諦めの気持ち両方を持ちつつ、飛んでいきそうな好意を必死に引き留めわたしはただ待っていた。

 「帰ってくるよ、すぐ会えない?」と連絡が来た時は正直驚いた。出発前はだいぶん後回しにされている感があったので、どうせ帰ってきても1ヶ月ぐらい経ってから会おうなんて言い出すのだろうと思っていた。この5ヶ月が報われる嬉しいお誘いにわたしは久しくドキドキした。
 5ヶ月ぶりの彼は本当に、本当に変わってなかった。可愛い笑顔、変わらない体つき、そしてやっぱりわたしのことを何も聞いてこなかった。5ヶ月、それだけ期間が開いていて「元気だった?」のひと言も無いのだ…。まさかとは思ったが驚愕。驚愕のわたしは笑顔を保ち、彼のこの5ヶ月の生活について相槌を打ったり質問したりしながら、目的地へと走る車のハンドルを握っているのに精一杯だった。
セックスはした。まさに5ヶ月の隙間を埋める様な、心のこもったセックスだったと思う。最中にならないと「会いたかった」と言えない男。愛おしい男。

 寮まで送り届けたわたしは何故だか拗ねた。帰ってきたんだからまたいつでも会えるじゃんと彼は笑ったけど、わたしは何となく漂っていた諦めの気持ちを無意識に出していたのかもしれない。初めてデート終わりのお礼の連絡をしなかった。
それから何度か連絡は取っているものの、キリの良いところでわたしは返事をせずにいる。次会うのは来月の引っ越し祝いに鍋しようだって。テメーだいぶん先じゃねえか。

年末年始忙しくして、すっかり忘れていたけど、そろそろ連絡を取ろうかと思っている。
たぶんもし次会えたら、本当の今のわたしの気持ちを伝えてお別れを切り出すつもりだ。
もっと君のことを知りたかったし、わたしのことを知って欲しかったな。あの時、初めて顔を合わせた日にお母さんごめんねって言いながら2人で笑ってセックスしちゃったのは間違いだったね。いやもう少し分かり合えると思っていたはずなんだけどな。どこで間違っちゃったかな。この話、ちゃんと本人の前で出来るんだろうか、寝ているあなたの頭を撫でながら一人で話すのだろうか。
最近お前のインスタのフォロワー増えてんの知ってるんだからな。若いから、まだまだいっぱい素敵な出会いがあるよ。君がたまらなく興味を持てるような魅力的な人に出会えたらいいな。たくさん話をするんだよ、話さずに分かり合えることはきっと美しいけれど、恋愛って美しいばっかりじゃないからね。出会ったらすぐにしない方がいいよやっぱり。君は興味を無くしちゃうかもしれないからね。大事に、大事に育ててね。応援してるよ。

 精神的な繋がり、または精神的な話が出来ていないうちに性行為をすると、分かっていないのに相手の気持ちを分かった気になってしまうこともある。それで相性が良かったりなんてしたら、後の始末のことを考えると以ての外なのかもしれない。
そんなマヌケ教訓をメモしようと文字に起こし始めてもう数時間。寝てないテンション。正直冷静に考えると、彼の好きなところそんなにあったか?セックスの相性でどうせわたしは渋ってるんだろと思いながら書き出したが、変に小説風に書き始めちゃったもんだからスイッチが入って、浸り気味ヘンテコラブレターのようなものが出来上がってしまった。
駄文で恥ずかしいが、偽りない本心ではあるので初めての投稿に採用することとする。

追記:終わってる風だけどこの話、現在進行形である

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