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ナードとCOZYと地下の花

わたしの文章は固くて長い。重くて表現も回りくどい。少し前に図書館で、昭和の作家を特集したムック本を借りた。その中に非常に既視感のある文章があるのを見つけて、自分が書いたのかと思った。司馬遼太郎氏だった。

そっか…こっから来てたのか、わたしの文体は…。中学生くらいから思考を頭の中で文章にする癖が、同時期に読み始めた司馬氏の文体で築かれていたのだ、初めてちゃんと自覚した。いやだいやだ。わたしはもっと、自分の文章を軽くしたい。絵本みたいに。ティッシュみたいに。ティッシュティッシュ。

友人がプロのライターで、作家でもあり、相談してみた。彼女は、「一文を短くすること」と、「300字くらいに収めて書くのを10回くらい続けてみたら、何か掴めるかも」というアドバイスをくれた。さすがプロ、効果がありそうで具体的だ。

この顛末を旦那くんに話すと、彼は言った。

「俺はそれが全然良い方法だと思えない。あなた、人に読んでもらうために文章書いてんるんじゃないでしょ。自分のために書いてるのに、なぜ書きたいことを抑圧するの?意味がないと思う」
「いや…わたしは300字、やってみたいけど…」
「あなたの文が回りくどくなるのは、自分で書こうとしていることの根底にあるものが自分で分かってない時だよ。あなたが壁に当たっている感じがするのは、自分が本当に居たい姿が自分で見えていないからじゃない?」

そして、

「どうして俺の前で好きなものを隠すの?あなたのお父さんとお母さんが、あなたをそういう風にしちゃったのかもしれなけど、好きなことをする前には何かしてなきゃいけないとか、好きな時に好きなだけやらせてもらえなかったとか、でもあなたはそこから何も成長させていない。あなたがBTSの動画を見てた時、俺が帰って来たことに気付かなくて、俺に気付いて慌てた時の感じ、美しくなかったよ」
「・・・・。」
「あなたは、自分が居たい姿が自分で分かっていないんじゃない?」
「わたしは…自分の好きなことをしている時、完全にひとりで、例えば地下室で全てを遮断して過ごしたい…あなたに『またBTS見てるの?』とか『早く寝なよ』とか『また同じことしてる』とか言われたくないし、没頭しているところを見られたくない…」
「俺のことは関係ないよ。だって本当はその姿が自分の一番ずっと居たい状態なんでしょ」
「そうなのかなあ…。じゃあ、わたしが好きなことしてて、あなたが何か言ったら、怒れば良いのか。『大切なものを否定的に言われたら傷つく』って。」
「そうだよ。『モモ』にあるじゃない、湖の中に大きな時計があって、そこに見たことない美しい花が咲いてるんだ、って」
「そんなシーンあったっけ」
「好きなことをしてる状態のあなたの中に、一番美しいものがあるのに。あなたが持ってる花は、俺が何を言ったって傷つかない」
「オタクの地下室に?」
「オタク…と思ったことはないけど」
「オタクの地下室の奥の奥に、たった一つの美しい花が咲いてる?」
「皆んなそうなんじゃない?俺はそこには入れない」


わたしは、自分が気になることは自分なりの理解が出来るまで知りたいと思う。その時の自分の気質をオタクっぽいと思うが、何となく満足した直後からは執着しなくなるので、オタクとは違うのかな?よく分からない。しかし我が人生で一番勉強したはずの外国語は英語だったはずなのに、RMくんの英語の対談が2%くらいしか聞き取れなくて、ジンくんのWeverse Liveは65%くらい聞き取れるようになってしまっているのが、「好き」の力、純粋に、とても顕著で分かりやすいと自分でも思う。何の努力もしないうちに、わくわくしながら、楽しんでいるうちに、勝手にわたしを変えてしまった。

ジンくんが2022.10.28Weverse Liveで「僕も非正規雇用で働いてる」という話をした。

僕も非正規雇用で働いてるじゃないですか。それから僕たちは7人で一つだし。会社と再契約をしないといけないし。憎まれても意味がありません。会社も望む良い方向に向かうように話さないといけないので。僕がいきなり入隊しますと話したら、会社では「あれ?話さないことにしたじゃないですか」と言われて、再契約をする時「あの時 あんなことしたでしょ!」、こう言われたら困るじゃないですか。これからももっと頑張って働かないといけないので。そんな感じです。

この動画を見る前に、わたしはジンくんが出演したヨンジさんのYouTube番組で、シャイニーのKEYさんが出演する回を見ていた。

[SUB] 방송이 낳은 괴물, 이제부터 차쥐뿔은 제 겁니다😎 [차린건 쥐뿔도 없지만] EP.09

KEYさん:僕も契約社員だし、ヨンジも契約社員でしょ。将来どうなるか分からない。
ヨンジさん:(爆笑)
KEYさん:僕はいつでもそう思います。
ヨンジさん:私、自分を契約社員だと紹介する人は見たことがない(笑)
KEYさん:契約社員ですよ。会社が家族だと言うのはとんでもない話。
ヨンジさん:(爆笑)
KEYさん:お互いに助け合っているだけ。
ヨンジさん:そう!そう!
KEYさん:僕、自分の会社好きですよ。サランへ!

KEYさんとヨンジさんの会話は笑いながらなされていたので、本編を動画で見ていただいた方が誤解がなくて良いと思う、一応注釈。わたしは、自分が直近で類似する内容に触れたことで、何か不思議な感覚を持った。

「会社が家族」というワードを聞くと、以前歌舞伎の舞台に関わった時のことを思い出す。歌舞伎がまさに「家族」だった。主演、助演級の役者さん方は、皆さんご親族である。そしてそのファミリーを梨園と呼ぶが、梨園で生まれた男子は、幼い頃から親戚中に見守られて役者人生を始めるので、父、祖父、伯父、叔父、従兄などが皆、師匠であり先輩であり、どれだけ成人しようと、子供の頃からずっと見ている「親戚の子」でい続けるのは変わらない。指導する時も、アドバイスも、褒めるのも、それはもちろん皆さん役者として独立しておられるが、「○○座の作品を継承する」のに、映像でしか残っていない先代や先先代までが、毎回、皆ひとつの作品を、ひいては「歌舞伎」そのものを背負って、志をひとつにしている家族である、という、肉親の温度を、稽古場ではそうでもないが、楽屋にいて、すごく感じた。そしてまた、松竹という会社は歌舞伎の興行を管理しているが、松竹がもともと歌舞伎の家業から分家したものだったと聞いた。

仮に不足があっても、家族芸能の中にはどこかに役割が作れる。家族である限り、その人の存在と居場所と役者人生を、大きな目で引き受けている。

わたしが見たあの状態を、「会社が家族」であると言われたら、それはその通りだと思う。そしてKEYさんが「会社は家族じゃない」と言えば、全くその通りでしかない。「家族」ではないからこそ、根気強く両者の欲求が一致するところを探し続ける、コミュニケーションを取り続ける、都度都度変化を共有して、コンセンサスを取る、勝手しないという努力の必要がある。生理的なことやメンタルに関わる割合が多い分、他の業種より距離は親密かもしれないが、肉体は変化するし、環境も変化するし、流動的で有機的なものを一時「契約社員」として「非正規雇用」するのが芸能の世界で、それは家族のあり方とは違う。不安定さを嫌うなら、SPYさんのように自分で会社を起こすしかない、実際適性のある人の中には、そうする人も少なくない。

最終的にはジンくんは一番守りたいものを守った、それは、叶ったと、ジンくんは経過をひっくるめて自分も、関係した人たち皆に対しても、肯定しているように見える。そこに至らしめた彼、「満足しています」、一番後悔の少ない「今」に自分を導ききった彼が、「すごいなあ…」と思う。

このジンくんの「非正規雇用」の話は、とても大切なことを話しているのに、言葉になっている部分は、絵本のように易しい。どうしてこういう風にしゃべれるんだろう?きつかったはずの体験も、その中の最も「優しい」部分を、易しい言葉で話す。

わたしはようやっと、少し、バラエティで見るジンくんに慣れて来たらしい、一番初めは夜寝付けなかったから…(このことが忘れられない)。彼はかつて「ジンとキム・ソクジンを分離したいタイプだ」と言った。でもここで彼が持ち出しているのは、「オタク」で「友達がいない」、「BTSのジン」でもなく「メンバーの長男」でもなく、つまり、オフの彼…ってことでいいの…?

内側から湧いてくる情熱の尽きない、オタク的喜びに素の彼が打ち震えている時、最も彼は彼らしく、美しいの?素の彼の情熱を一番湧かせるところに、彼の一番美しい花が咲いているのだろうか?「BTSのジン」という巨大なペルソナの下から、彼は、そろりそろりと持ち出して、見せてくれようとしているの?自宅の、誰も見ていない素のキム・ソクジンが、もっとも情熱に燃えている状態、あなたの地下室にある、世界であなただけが持つ美しい花を?

前回のnoteで、ウットを「ナードとCOZYの保護者」と書いた。ナード(オタク的)、COZY、誰も何も苦しめるもののない世界。これじゃあウットは、わたしにとっても保護者じゃないか。そうだったのか。誰ひとり立ち入らせるつもりのなかったわたしの地下室で、無条件にわたしを強い力で突き動かす理由のない情熱。それにびたびたに浸っている、一番無防備で、純粋で、繊細な状態は「ナードでCOZY」で間違いない。わたしはその状態のまま地下室を出ても良いの?彼は外に出て、友達を作ろうとする。その時、その人の世界で内側に咲いている花は、何人たりとも損なわせることが出来ない。

今、彼を見ていると、めくるめく感じ、次々と新しい感じ、薄い、花びらいちまいいちまいが剥がれて、少しずつ透き通った何かが見えて来ているようで、目が離せない。多分、アイドルとしての彼に感じてる興奮と違った何か……どうしてわたしは、あなたにこんなに刺激されるの??どうしてわたしはこんなに葛藤して何かを見せようとしているの??どうしてわたしの文章の壁に、あなたの言葉の易しさが圧倒的に刺さるの??


300字とは……


どうやったら可能なんかな………?


それでは、また!




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