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中村信喬作品展~特別ギャラリートーク

さいたま市にある岩槻人形博物館で開催された人形師・中村信喬さんと大妻女子大学教授の是澤博昭さんのトークイベントに行って来ました!私は美術展めぐりが好きですが、人形や彫刻などについてはあまりよくわかっていません。だけど、町に貼られているこの美術展のポスターを見たときになんだかすごーく惹き付けられたんですね。

《聖堂》1997年

人形のこの表情、着物の色合い…そしてなんだろう、作品がまとってるこの感じ…。作ったのはどうやら中村信喬さんという方らしい。不勉強で存じ上げないけど他にもどんな作品があるか見てみたい!と思って興味津々で作品展を観に行きました。そしたら他の作品もどれも良くて、いわゆる日本人形よりも色合いが淡いものが多かったり(私の知る人形が基本雛人形や五月人形だからかもしれませんが)、細かい模様が描かれていたり。

《瀧津瀬》2011年

↑こちらは瀧津瀬という作品。富士の白糸ノ滝の神が、流れ落ちる滝の中から姿を現した様子を想像して作られたそうです。涼やかでとても尊い感じがします。

《対馬海道》2014年

この作品ではお人形さんの持ってる箱にものすごい細い筆で模様が描かれていることにびっくり!また顔こそ日本人形的ですがデザインは和風と言い切れない、なんともいろんな文化がまじっている感じ。衣装の色も好き。そしてさらにびっくりしたのがこれ!↓

《TIME TRAVELER》2018年

タイムトラベラーって、これはもうすでにSF映画の世界では?!Σ( ゚Д゚)マトリックス的な…!こんな人形の世界があるなんてめちゃくちゃ驚きました。

そんな作品を作った中村信喬さんは博多人形師の家系に生まれ、博多人形の伝統や技術を受け継ぎ様々な作品を作りつつ、博多祇園山笠の人形もずっと手がけているようです。そして上記の作品の他にもエヴァンゲリオンの人形(!)や、パブリックアートとして福岡市動物園のゴリラのでっかいモニュメントなんかも作っているらしい。えーっ!人形と全然違うじゃん!と、ここまで観てきてその作品の幅広さにすっかり魅了されてしまいました。

ちなみにゴリラのモニュメントで検索してたら中村信喬さんのインタビュー記事を見つけました。もの作りに関わる人は必読かも?

そして帰ってきてチラシをよくよく見ていると、イベントのスケジュールにご本人によるギャラリートークが開催されることが書いてあって、これは是非聴きたい!と思いました。というわけでトークを聴きにもう一度展覧会に行くことに。ここからが標題の記事になります。

トークショーに現れた中村信喬さんはにこやかで気さくな親戚にいそうなおじさん、という感じ。是澤教授の振る質問に正直にありのままに答えてくださっている印象でした。人形について専門的に調べている教授にもなかなか普段お目にかかることはないので教授のお話もとても勉強になりました。

トークショーにはお子さん連れの人もいたからか、中村信喬さんご自身が息子さんを育てた時のエピソードなどもしてくださってそれも印象深かったです。そしてお話を聞くにつれ、私がポスターで見たお人形になぜすごく心惹かれたのかよくわかった気がしました。なんていうかとても尊敬出来る生き方をされてて、それが作品ににじみ出ているんだなあ~と。これはもう一昼夜でどうにかなるものではないんですよね。

中村信喬さんの話で一番驚いたのは、人形を作ろうとするとき、ホログラムのように人形がそこに見えるのでそれを形にすれば良いだけ、とおっしゃったことでした。どんな人形を作るか決めるのには時間をかけるみたいでしたが(現地に足を運ぶというのは大事、というお話も)、いざ決まればそこからは速いそうです。そのように作れるのは幼少の頃からの訓練の賜物なのか天賦の才なのかわかりませんが、とにかくすごいなあと。

ところで見出しの写真は《聖堂》というタイトルの作品ですが、福岡に生まれ育った中村信喬さんには、同級生や子供の同級生にいわゆる天正遣欧少年使節の末裔(!)がいたりしたそうなんです。私からすれば教科書に載ってるような遠い話ですが、《聖堂》はそんな天正遣欧少年使節の少年が異国の地に着いて聖堂を見上げた時の様子を想像して形にしたものなのだとか。

そうとわかってから見てみるとなるほど、という感じがします。まだ何者でもない若者が未来に向かって一歩前に踏み出した時の姿。恐れや不安もあるだろうけど、たくさんの希望や可能性に満ちていて未来は大きく広がっていて…。中村信喬さんのお子さんたちはすでに各方面で活躍されてるようですが、天正遣欧少年使節のように海外に行って日本の文化を直接広めるように勧めているそうです。

そんなトークの終わり頃になって、是澤教授からさいたま市長とさいたま市の盆栽美術館の館長がお見えになってるのでお二人からもなにか一言…というアナウンスが。「えっ?」と振りかえると確かにそこにさいたま市長が!市長に会うのは宇宙飛行士の若田さんのパレードでお見かけして以来かも(笑)そんなに広い展示室じゃないのにトークに夢中で気付かなかった!

というわけで市長や盆栽美術館館長からも一言ありましたが、それに答える感じで中村信喬さんから「人形の博物館や盆栽の美術館というのは日本にここさいたま市にしかない。人形も盆栽も平和だからこそ楽しめるものであって、市長にはぜひさいたま市を人形や盆栽のメッカにして世界に発信していってほしい」といったことをおっしゃってました。確かに平和でなければ人形を作ることも、盆栽に手間隙かけることも出来ないですよね。そういう文化に力を入れていくことがひいては平和に繋がるというのもよくわかります。

というわけでいろんなお話を聞けましたが、中でも一番心を打ったのは中村家の教えとして受け継がれている、"お粥を食べても良い作品を作れ"というもの。自分は良い思いをしなくても人に良いものを与えられる、自分の欲しいものでも人にあげられるような人間になること。そのように自分の子を育てたそうです(これ、子供が小さい内に知りたかった!笑)。なぜなら人に与えられる人間に育つと周りも大事にしてくれるから、という考え方だからだそうで、それは本当にそうかもなあ、と思いました。

また、トークでは奈良人形の話も出て来たりして、一時期奈良に住んだことのある私は奈良人形のお店に入ったことがあるのを思い出しました。改めて日本各地の人形の個性や特徴についても知ってみたいし、中村信喬さんの工房である中村人形のお店や博多人形も本場に行ってぜひ見てみたい!と思いました。新たにまた興味の対象が増えた展覧会となりました。


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