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『潮騒』遊佐未森

今日は約5年ぶりに発表された遊佐未森さんのニューアルバム『潮騒』の感想。このアルバムはすでに6月の終わりに発売されていますが、ちょっと寝かせた上でじっくり感想書こうと思ったので今になりました。

遊佐未森さん。ある程度の年齢以上の人なら、昔、アーノルド・シュワルツェネッガーが出演した日清カップヌードルのCMを覚えていらっしゃるかと思います。そこで使われていたのが遊佐未森さんの「地図をください」という曲でした。当時高校生だった私はその曲で遊佐さんに興味を持ち、その後アルバムを聴くようになってからもうすっかり遊佐さんのファンになったのでした。

その後大学生になってからはNHKホールや日比谷野外音楽堂でのコンサートを観に行ったりも。ということで実に30年以上、波はありましたがずうっと遊佐さんの音楽を聴いてきました。何年か前には久しぶりにコンサートも観に行きましたし(30周年記念のやつ)。しかしその頃はベスト盤の発売が続いていて、もしかしてもう新しいアルバムは作らないのかなあ…と思ったりしていたので、今回のニューアルバム発売のニュースを聞いた時は本当に嬉しかった!

しかも今回は私の大好きな初期三部作のプロデュースをした外間隆史さんがこれまた何年かぶりに音楽プロデュースに参加、ということで期待も半端ないものに。そして届いた『潮騒』。そんな風に聴く前に期待がすごく大きかったぶん、逆に不安も押し寄せてきました。もしも期待に届かないアルバムだったら…と。しかしそんな心配は杞憂に終わりました。予想をはるかに超えた素晴らしいアルバムだったんです!もう全てがバージョンアップしててすごかった!!

なんというか、毎日を丁寧に生きている人の積み重ねって本当に揺るぎ無い確かなものなんだなあ~と感じました。そういうのって"付け焼き刃"とか"その場しのぎ"とかの対極にあるものだったりすると思います。現代は地道な努力が軽くみられて、薄っぺらいメッキみたいな派手さが好まれがちなような(飽きたら、はい、次!みたいなね)。しかし最終的に評価されるのはやっぱり日々努力し、ちゃんと丁寧に生きてきた人なんじゃないかな、と思います。

てことでここからは一つずつ掘り下げて感想を書いていきます。まずはアルバムのデザインについて(ソトマデザイン!)。最初に「さあ聴くぞ!」とCDのケースをパカッと開いた時、ジャケット写真のモノトーン、あるいは"潮騒"という言葉の響きから想像する青い色からかけ離れた朱い色が目に飛び込んできてハッとしました。その時、この朱色はもしかして血潮…つまり生命そのものを表してるんじゃないか、と思いました(個人の印象です)。

遊佐さんの音楽って聴いているとずっと忘れていた風景を思い出したり、あるいは知らない景色が見えてきたりと、夢や空想の世界に連れていってくれる不思議な力があります。しかしそれって実は現実にきちんとした力量がある人だからこそできることなんだと思います。だって生きている人間を別の世界に連れていくって大変なことだから。地に足のついた、しっかり生きている人間じゃないと出来ない。たしかな生命力…そういうのをジャケットからも感じました。

ということで、続いては曲の感想。まずは長年待っていた外間さんの曲について。今回このアルバムに外間さんが作った曲は2曲収録されているのですが、外間さんの曲もどこか知らない世界へ連れていってくれます。が、外間さんの場合はさらにそこに″郷愁″の要素がプラスされる感じがするんですよね。「I Still See」ではそれがいかんなく発揮されていて、このアルバムでいちばんホロリとさせられる曲。もう一曲の「BALCONY」も、前の家のベランダでよく星を見上げてた時のことを思い出しました。

他の曲は全て遊佐未森さんご自身の作詞作曲になのですが、アルバムの中でいちばん異彩を放ってるというか、物語性のある曲は「ルイーズと黒猫」。もうこれぜひいろんな人に聴いてほしい…!一枚の絵をそのまま歌にしたような、とにかくアートな一曲なのです。よくテレビで″アーティスト″って言葉が使われるけど、マジで軽々しく使わないでほしい、と本当に思う。真の″アーティスト″っていうのは遊佐さんや外間さんみたいな人のことをいうのだ。

あとは曲順でひとつずつ。1曲目の「潮騒」。これはピアノの音が寄せてはかえす波のようで、砂浜にいるような気分で聴ける曲。2曲目の「雲の時間」は、遊佐さんはご自身のツイッターでよく雲の写真をあげているので、本当にいつも雲を眺めているんだろうなあ~と思います。その時間を切り取ったような歌なのかなと(そういえば外間さんは『雲ノ箱』というアルバムを出していますね!)。「Silent Moon」は夜、静かな場所で空を見上げている空気感が伝わってきます。

7曲目の「鼓動」は、ジャケットを見たときに血潮という言葉が浮かんだ、と書きましたが、これはそれに繋がる感じの曲でした。生きているからこそ雲や月や星の美しさを感じられる、鳥の声や波の音を楽しめる…生きているからこそ。″生命への讃歌″という感じがしました。「さゆ」は遊佐さんのピアノ弾き語り。おそらく普通は弾き語りといってもペダルを踏む音は入らないように録音するんだろうと思うのですが、この曲はピアノの木の質感まで録音されているような曲で、目をとじて聴いてるとすぐそばで遊佐さんが歌っているかのようです。

「夢見る季節 タルトタタン」は明るい曲で、特に言葉の響きが楽しい♪″さざんか″とか″こはく″とか″タルトタタン″とか。クラシック色も強くて遊佐さんの新境地、いった感じの曲。「空をみてきみをみて」は、このアルバムの発売記念のイベントで遊佐さんがお話されていましたが、亡くなってしまった友達のことを歌った曲のようです。長く活動しているといろんな辛いこともたくさんあるのだろうけど、それでもずっと前に進み続けている遊佐さんは本当に素敵だなあ~、と思います。

そして最後に「朝露ノ歌」。朝といえば1分も無駄に出来ないって感じで嵐のような時間を過ごしている私は当然朝露に目を止めることもなく(^^;朝露に想いを馳せ、歌にすることのできる遊佐さんにはやっぱり憧れしかない、と思ったのでした。

ということでいろいろ書いてきましたが、ひとことでまとめるととにかくこのアルバムは傑作!ということ。いままで遊佐さんの音楽を聴いたことのない人にもぜひ聴いてもらえたらいいな、と思います。こんなご時世でいやなニュースばかりが目に入ってくるけれど、このアルバムがあちこちで流れたなら、それだけで世界が少し美しくなるんじゃないかと私は本気で思います。

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