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土曜日のこと

土曜日の夜に、男の人に会った。会う理由は、ビジネスの相談ではない。 けれど、ビジネスになったらいいなあと、少しだけ期待していた。期待していても、ダメだった時にがっくりくるのは嫌だったし、恰好悪いから、期待は小さじ五分の一くらいにとどめ、まあ、お話を聞けるのはありがたいことだと思い、臨んだのだった。

ビジネスの話は、ビジネスの「ビ」にもならない感じ。「ビジネス」を習字で書くとしたら、墨すらもすらない感じ。
そりゃあそうだよな、誰だ、私に期待させたのは。
「あの人は歳をとって甘くなったから」
と、その男の人は言った。
そうなのだなと思い、甘くなった理由を考え、寂しくなった。

いいお話はたくさん聞けた。会って良かったと思っていた。

そしたら、うちの夫がめっちゃくっちゃに怒ってしまって、大変だった。
会う相手も伝えてあったし、行く時は私を駅まで送ってくれたのに。

何しているのかと、ラインが来て、お話をしているとこたえた。
ビジネスにはなりませんでしたが、お話を聞いていますと、送った。

それはおかしいだろ、すぐに帰って来いと、ラインが来た。

その後、着信あり。
折り返して電話。

仕事でもなんでもないのに男の人と会うのはやっぱりおかしいだろ。もしも俺が同じことしたらどう思うの? 〇〇(私)はどう思うの?

夫が怒っているというのはものすごく怖い。確かに確かに、私は間違っているのかもしれない。

おいとまの挨拶もそこそこに、急いで帰路についたのだった。
電車の中で、夫に、反省の弁をいくつも送った。
私が五個送るのに対して、一個くらいのペースで、夫は返事を書いた。
夫は、私を行かせたのを後悔しているらしかった。事前に行くのをとめるべきだったと。

トイレに行かないで電車に乗ったから、逼迫していた。降りる駅まで持つとは思えなかった。途中で降りたら、家に着くのが遅くなる。
準急に乗っていた。急行に乗り換え可能な駅に到着した際、私は我慢の限界で、ホームへ出た。階段を上がると、目の前にトイレのマークがあって、助かったと思った。急げば、次に来る急行に乗れるのでは? 用をたすと手洗いをして、階段を降りた。急行が、ホームにすべって来た。

自宅最寄り駅に着いた私は、コンビニでお菓子を買った。キャラメル一箱とガブリチュー二本。子どもへのお土産。
駅までお迎えに来てくれたら嬉しいなあ
と、電車の中から夫にラインを送っていた。既読すらつかないのだった。
当たり前だ。怒っているのだから。
既読がつかないのをいいことに、
駅から二人で歩いて帰れたら嬉しいなあ
と、送った。

家は暗く、すでにみんな眠ったらしかった。私は静かに風呂に入った。
髪をきちんと乾かし、布団に入った。
夫と話をした。夫は半分寝ぼけていた。
許してくれそうだなと、思った。
涙がぼろぼろと出てきた。


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