散歩

有楽町のとなりには、銀座があることを、わたしは知らなかった。もう少し歩けば、和光があって、有名な時計があると、わたしの手をひいた。
暑い日だったから、手のひらと手のひらは、汗でぴったりと密着していた。指も皮膚もすべてとけて、いっしょくたになれたらいいのにと、はじめは思っていて、願っていたのに、いつの間にか、慣れた感覚になっているし、実際、とけている。こうしたほうがいいと言って、横断歩道を一つわたり、もう一つわたり、和光の対角線に連れていってくれた。わたしは、「わあ」と言った。

日比谷シャンテ、という言葉を知ったのは、吉本ばななのエッセイで。わたしはそれを、目の前に見て、都会の中の、造られた緑の落とす影の下で、集まる人たちを、好きだと思った。
わたしは何も知っていたくなかった。それでも、三笠山という文字を見て、三笠山というどらやきがあると、教えた。ほんとうにあるし、おいしいどらやきだ。
眼の中を、のぞきこんだとき、わたしの眼ものぞかれた。両者とも、さびしかったのだと思ったし、これで良かったのだと思った。良かったと思う、とは、あの人がよく言う言葉だ。
二人とも、気になることがあって、あとで調べるとわたしが言ったら、そしたら教えてと、こちらを向いた。わたしたちにある、未来だと思って、うれしかった。

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