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布団をかける

母は、布団をかけてくれるのがすごく上手だった。
夜の九時以降は大人の時間とされていた。子どもたちは、二階の部屋に寝かされる。早いとも遅いとも感じなかった。眠かったし、九時以降が大人の時間なのは当然だと思っていた。子どもの時、夜の時計の針が、十時や十一時半なんかをさした形を、見たことがない気がする。

九時になる前に、絵本を一冊か二冊読んでもらい、終わると各々、布団をかけられた。
まず、母が布団の端を掴み、布団が持ち上げられる。母はそのまま布団を静止させる。その間に、子どもは寝る体勢を決める。母は、体勢が決まるのを待ってくれるのだ。

布団にどこまで潜るかを、選ばせてくれる。手で「ここまで」と、布団の端が来る場所を示す。兄は、お腹が隠れるくらい。弟は、胸は隠すけれど、腕は出したいから万歳のポーズ。私は首まですっぽり被りたい。母はふざけて、兄を首まですっぽり隠したり、私のお腹がスカスカするように布団をかけたりしたけれど、最後は、その日のそれぞれの好みに合わせてくれた。
かけたあとは、布団やタオルケットが身体にしっくりくるように、ポンポンとあちこちを軽くたたいてくれる。

従妹は、私が小学校一年の秋に、私の家に来た。赤ちゃんだった。従妹の母親が亡くなったので、従妹の父親の母である祖母が、うちに引き取ったのだ。従妹は彼女が小学校を卒業するまで、私の家にいた。
従妹は祖母の部屋で寝起きしていた。私が夜、母親に布団を被せてもらっていたように、従妹は祖母に布団をかけてもらっていただろうか。そうだといいなと、今になって願う。

私は従妹に、布団をかけてあげたい。
今の私なら、従妹に布団をかけてあげられる。
私も布団をかけるのが、上手くなった。

どんな気持ちも入る余地がないくらいに、彼女を布団でつつみ、怖い夢も見ず、良い明日がくることを、信じ込ませたい。この感情はどこからくるのだろう。こちらだけで、私だけで成り立たせている自己満足なのかもしれない。でも、あの子に布団をかけるのが、無意味だとは思えない。

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