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20240625 常にそれはベランダ
実家のベランダで、畑しか見えない景色を観ながら朝に吸うタバコが好き。依存してしまいそうなほど心を動かされるものは、直感的にわかる。言葉の向こう側で、俺の底が湿っていく感じ。欲求に理由はいらない。タバコを1ヶ月前くらいにはじめて買った時は旨いとも思わなかったけど、そう思わないように必死で理屈で足場を組んでいたのかもね。
皮膚の内側を揺さぶられたとき、それを遮断したくなる俺がいる。何かが芽吹いて、花が咲いた時には手遅れになってしまうから。理性でずっとその種を監視して、肉に根を下ろす前に物理的な距離をとる。遮断。それがいままでの対処法。期間限定のアイスもお別れが寂しいから、はじめから食べないようにしていた時期がある。芯まで染まってしまってからのお別れは痛い。
煙を吐きながら、咽頭から後頭部に抜ける成分を理解しようとしている。口から外したタバコのフィルターを見ると茶色くなっている。この色に肺が染まって健康なわけがない。行為に依存して形式になってしまう手前で、嗜好品として楽しんでいたい。そう今は思えている。思おうとしている。
実家のベランダの柵は、腰くらいの高さで、ベランダにでる窓辺に腰掛けると、外から俺の姿は見えなくなる。俺だけが外を見ている感覚。外の刺激に晒されながら、安全な位置で深呼吸ができるセーブポイント。俺にとって、言葉はベランダなのかもしれない。
世界に触れると魂ごと持っていかれてしまう。そんな予感に抗いながら、外に出ては編んで、外に出ては編んでを繰り返している。少しづつ自分が大きくなる感じに酔いしれて、ただベランダが飾られていくだけ。
手を放して、波にさらわれてみたい。もちろん自分で選択して。理由が追いつかないほど遠くに運ばれて、帰る場所に迷いたい。どうしようもなく好きになって、失うことを忘れるくらい染み込んでしまいたい。没頭したいという欲は、外に出ていきたい欲なのか、いまの自分から離れたい欲なのか、それを考えている間にタバコは灰だ。
外側を信頼していないのは、自分を信頼し過ぎているから。ベランダの居心地が良すぎるから。強い風に形を変えられて、俺が俺でなくなるが怖いのは、どうしようもなく自分を覚えていたいと思うから。
帰る場所を思いながらする旅は、本当に旅なのだろうか。メモをとりながら観る映画は楽しくなかった。手のひらいっぱいに掴める新鮮な自由があるのに、俺は手すりを掴んだまま、今日もとうもろこしが青々としている畑を眺めている。壁がないほうがいいとは限らない。何を守っている壁なのかは、設計者にしかわからない。
ドクターペッパーの空き缶に吸殻が溜まっていく。掃除を繰り返しても、ベランダはベランダのままだ。しいたけ占いで、蠍座の下半期のキーワードは「もういいかな」だった。飽きるまで染まればお別れは怖くないのかな。
遠くの街に住んでいるベランダの君と、目が合う妄想をした。外に出るには十分なきっかけ。ベランダから部屋に戻っても、少しだけ外にいるような気がした。
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