デジタルマルチメーター:共立電気計器KEW1052
共立電気計器のデジタルマルチメーターKEW1052を購入しました。
この機種を選んだ経緯に興味のある方は下記をご覧ください。
さて、新規購入したこのデジタルマルチメーターがどんな感じなのかを報告します。
とはいえ、性能を評価する測定機材は持ち合わせていないので、主に三和のデジタルマルチメーターPM11と、DigilentのAnalog Discovery(Legacy)との測定値の比較となります。
まずは、メインとなる直流電圧のスペックの比較しておきます。
KEW1052の直流電圧のレンジは600.0mV/6.000V/60.00V/600.0V/1000V、確度は±0.09%±2dgt(1000Vレンジは±0.15%±2dgt)です。
PM11の直流電圧のレンジは400.0mV/4.000V/40.00V/400.0V/500V、確度は±1.3%±4dgt(400mVレンジは±0.8%±4dgt)です。
Analog Discovery(Legacy)の確度は公開されていないようです。
確度とは測定して表示された値の誤差を示していて、表示された測定値から真値がどのくらいの範囲にあるのかを表しています。デジタルマルチメーターでは確度は±xx%±yydgtの形式で表示されています。
例えば、KEW1052で+5.000Vと測定された場合、6.000Vレンジでの測定なので
5.000±(5.000x0.09/100+0.002)=5.000±0.0065
となり、真値は4.9935V~5.0065Vのどこかの値となります。
PM11の場合だと、40.00Vレンジでの測定になるので、
5.00±(5.00*1.3/100+0.04)=5.00±0.105
となり、真値は4.895V~5.105Vのどこかの値となります。
1. 外観
KEW1052とPM11の外観はこんな感じです。結構な大きさです。狭い机に置くと結構な存在感です。
緑の部分はゴムっぽいザラザラした感じの素材です。年月が経っても加水分解してベタベタにならないことを祈ります。
電流測定時のコネクタは、テスト・リードの差し間違えを防ぐため、電流計測レンジ以外ではシャッターが下りている構造になっています。電流を測定することはほぼ無いので、このシャッターが開くことはほとんど無いと思われます。
側面からだとこんな感じです。かなりの厚みです。厚みが半分くらいになってくれたらもう少し存在感が薄れるかなと思います。
テスト・リードはこんな感じです。ケーブルは結構太いです。先端はそれなりにとがっているので電子回路基板でもそこそこに使える感じですが、ガードの部分の丸い突起が結構大きいので、2本を並行に近づけたときにそれが邪魔な感じです。
専用のケース(MODEL 9154)も一緒に購入しました。
付属のテスト・リード入れても余裕がある感じです。
2. DC電圧測定
直流電圧の測定例です。ラズパイのGPIOピンの3.3Vと5Vの端子を測定してみました。青丸が測定値、バーは確度から求めた誤差範囲です。真値はこの範囲ということになります。
KEW1052の測定値をどうこういうことはできませんが、KEW1052が正しく校正されているとすれば、PM11の測定値はどうなのかはある程度評価することができます。
自分が所有しているPM11は4Vレンジで測定した3.3Vはかなり正確に測定されているようです。40Vレンジで測定した5Vはややずれているものの、結構正確であることが分かります。
3.1 AC電圧測定
同様に自宅のAC100Vを測定してみました。
KEW1052はRMSとMEANと切換えて測定できますが、測定値に特に違いはありませんでした。
PM11の測定値ですが、直流同様400Vレンジでの測定値も結構正確に測定できているようです。
3.2 AC電圧測定:周波数特性(正弦波)
次にAC電圧測定の周波数測定です。
Analog DiscoveryのWaveform Generatorで正弦波を出力させ、それを測定しました。
Analog DiscoveryではVoltmeterとOscilioscopeの測定モードでAC電圧が測定できるので一緒に測定してみました。
また、KEW1052では下記のAC FILTERのON/OFFができるのでその違いも見てみました。
取扱説明書に示されているフィルタの特性は下記の通りです。
結果です。
0dBの基準値には正弦波のRMSの理論値(Vp-p/2√2)を用いました。
KEW1052はフィルタがオフの状態では20KHzくらいまでは平坦であり正確に測定できるようです。フィルタを入れると、取扱説明書にあるフィルターの特性通り300Hzくらいから減衰するようになりました。
PM11は3KHzくらいまでは正確に測定できるようです。思いのほかきれいな周波数特性でした。
Analog DiscoveryではVoltmeterは2KHz以下まで、Oscilioscopeの測定モードであれば1MHz以上まで正確に測定できています。
1MHz以上でやや下がっているのは、測定側の性能というより、Waveform Generatorの出力が不正確になるためのようです。
電圧値を下げていくと周波数特性が悪化していきます。
以下は、発信器の周波数を固定して電圧値を変えたときの測定値です。
KEW1052では、10KHzの場合0.1Vp-p以下になると測定値が不正確になりました。
PM11では1Vp-pくらいから徐々に悪化していきます。
Analog Discoveryでは10mVp-pまで特に問題なく測定できています。
3.3 AC電圧測定:周波数特性(矩形波、三角波)
正弦波の代わりに矩形波と三角波とした場合の周波数特性です。
PM11以外は真のRMS測定なので正弦波のときと同様の周波数範囲では正確に測定できているようです。
4. 周波数測定
周波数測定の結果です。
5Hzから100KHz(100KHzは測定不可)の範囲で正確に測定できているようです。矩形波、三角波でも同じでした。
ただし、KEW1052で周波数測定する信号は170mV0-p以上の電圧が必要です。それ以下の電圧の信号では測定できません。
5. 抵抗測定
手持ちの5%抵抗を用いて、同一の値10本づつを測定してみました。
測定した10本の抵抗はKEW1052とPM11で同じものを使っていますが、グラフで表示されている測定値の提示の順番は合っていません。
KEW1052の測定値を信頼するとすると、PM11では10Ω、100Ωの測定値はあまり正しくなさそうです。
6. 静電容量測定
手持ちのコンデンサーで同一の値5本づつの静電容量を測定した結果です。
グラフ内の凡例の括弧内はコンデンサの種類を示していて、C:セラミックコンデンサー、LC:積層セラミックコンデンサー、E:電解コンデンサ、F:フィルムコンデンサです。
一応最小測定容量は10pFとなっています、18pF, 22pF, 30pFの違いを測定するのはかなり厳しそうです。100pF以上のコンデンサで用いるのが現実的な感じです。
7. まとめ
KEW1052の測定精度を評価できる環境は持ち合わせていないので評価はできませんが、個人的な環境での基準測定機とするには十分に思いました。
比較に用いた三和のPM11が思いのほか正確であることも分かりました。
※なお、この評価はあくまで自分が所有しているPM11固体の現在の性能であって、これを見てPM11を購入しても同じ性能が出る保証はありません。DC電圧であればあくまでも±1.3%±4dgtの範囲の値となるということですのでご注意ください。
KEW1052、PM11、Analog Discoveryそれぞれに特徴(良い点も悪い点も)があるので、今後使い分けてうまく利用していきたいと思います。