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米澤穂信「冬季限定ボンボンショコラ事件」:中高卒業への二重螺旋

謎を解くのが大好きな小鳩くん。そして、スイーツが大好きな小佐内さん。でも小佐内さんが一番好きなのは復讐。二人は大好きな「解きたがり」と「復讐」をそれぞれ封印して小市民を目指すため互恵関係を結ぶ同級生。という設定の米澤穂信の<小市民>シリーズ。

「冬期限定ボンボンショコラ事件」は、2009年の「秋期限定栗きんとん事件」以来15年ぶりの米澤穂信の<小市民>シリーズの最新刊です。

15年の間に、ミステリーズ!紙魚の手帖などに短編が発表されたり、「巴里マカロンの謎」などは発表されていましたが、ついに「冬季限定~」が発表され、春、夏、秋、冬の4シーズンがそろいました。

2004年に発表された「春期限定いちごタルト事件」は高校1年の春、「夏季限定トロピカルパフェ事件」は高校2年の夏、「秋期限定栗きんとん事件」は高校2年の秋を舞台にしたお話で、「冬期限定ボンボンショコラ事件」は二人が高校3年生となった冬のお話です。

米澤穂信の青春ミステリーとしては、アニメや実写映画にもなっている<古典部>シリーズが有名だと思いますが、私は<小市民>シリーズの方が好きです。

「冬期限定ボンボンショコラ事件」では、大学受験を目の前にした小鳩くんと小佐内がひき逃げ事件に見舞われます。小鳩くんの機転で小佐内さんは無事でしたが、小鳩くんは全治半年の大けがを負い入院生活となります。このひき逃げ事件は、中学3年生だった3年前に小鳩くんの同級生が遭遇したひき逃げ事件と類似しており、物語は小鳩くんの入院生活と、3年前の事件の回想とが並行して語られていきます。

小鳩くんは病院のベッドの中で安楽椅子探偵役として事件の推理を、小佐内さんは秘密裏に一人で事件の捜査(復讐計画?)を進めて小鳩くんにヒントを与えるというようなストーリーです。これまでの話に比べで物語全体がシリアスになっていると思いました。

本書では、現在の高校3年の冬と、過去の中学3年の夏の話のひき逃げ事件が解明がされるていくとともに、小鳩くんと小佐内さんの出会い、なぜ小市民を目指した互恵関係を結んだのかなどの経緯も語られていきます。

<小市民>シリーズの最終巻(?)となる本書は、中学を卒業して高校生に向かう(「春期限定いちごタルト事件」から始まる高校時代の話につながる)過去の話と、高校を卒業して将来へ向かう現在の話とが二重螺旋構造のようになっている小説です。
なので、これまでのシリーズを既読の人はもう一度「春期限定いちごタルト事件」から読み返してみたくなり、未読の人でも、本書の続きとして「春季限定いちごタルト事件」以降を読むことができるようになっています。

なお、<小市民>シリーズは、7月からアニメが放送されるようです。原作のイメージを残しつつ復讐が一番好きという小佐内さんの裏の顔がどのように表現されるかが肝となりそうです。


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