《プリータム》で一杯やろう

 慢性的人手不足の警察が、外注管理と称して犯罪者に賞金をかける末期的環境で、本業の武装警備会社の仕事が無いときは賞金稼ぎとして暮らしている薬師ルリコは、昨日総務のミスで作業登録がされず、あぶれてしまった仕事の日銭を取り返すべく、会社近くにあるカフェ《プリータム》のテラス席で賞金首のリストを眺めていた。コーヒーを飲み干したのに気づき、顔を上げるが、客が自分しかいないので店の者が外に居ない。しょぼんとリストに視線を落としたその時、車道を挟んだ向こうで、モーター音と、男の罵声、音質の悪い年配男性の声がした。
「モルガン・コティヤール、止まりなさい。発砲します」
 薬師は現状把握に若干の時間を要した。要は両足から小さな車輪を生やしたメカ少女が、慌ててこちらに近づく男を無力化するというのだ。男の顔が手元のリストにある。
 多分あのメカ娘の口から砲身が。でた。
「いた! 教授、それ撃ったら暴発する! 教授!」
 車道を挟んだ向かいの小比類巻銃砲店から青年がふたり飛び出してきた。ひとりはこの辺で仕事中の探偵、もうひとりは銃砲店の店主の孫だ。
 薬師は、足元に置いた買い物バッグに手を突っ込んで持ち上げ、テーブルまで辿り着いた男に中身ごと突きつけ、車道の真ん中まで出てきたメカ娘を見やって声を上げた。
「教授、撃つ気満々だけどさ、生存限定の賞金だよ?」
 発砲挙動中に右折車にひっかけられた教授は、ガタガタになりながらこちらに近づいてきた。
「迂闊でした。外注管理課を召喚しました」
 そろりと逃げようとしたモルガンの頭にバッグの中身を押し付け、薬師は教授に掌を差し出す。
「7:3で当方です」
 少し阿漕だと苦笑する薬師に、教授は抑揚の無い声で言った。
「長距離の追跡でした。人間以外の持久力です。人間ですか」
「バラしゃわかんだろ」
「薬師さん。生存限定です」
 茶化した薬師はぴしゃりと黙らされた。

【続く】

(軽い気持ちで投げ銭をお勧めします。おいしいコーヒーをありがとう)