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トリプルネガティブ乳癌だけでなく、ルミナールタイプでも周術期免疫治療(ペムブロリズマブ)の開発が進む

ホルモン受容体(HR)陰性、HER2陰性のトリプルネガティブ乳癌(TNBC)の治療は、切除可能例では手術と術後放射線療法、リスクが高いときは手術と術後化学療法±放射線療法、また最近では術前化学療法を行い、手術ののち残存病変に対して術後療法としてカペシタビン、BRCA病的バリアントがある場合はPARP阻害薬オラパリブの投与が行われる。2022年9月からは、ペムブロリズマブの周術期治療が始まっている。周術期免疫治療(ペムブロリズマブ)についてまとめました。

 ペムブロリズマブの周術期治療はKEYNOTE-522試験の結果に基づく。試験は再発高リスク(T1c N1-2またはT2-4 N0-2)TNBC患者を対象に、術前療法としてペムブロリズマブと化学療法を併用投与し、術後にペムブロリズマブ単剤を投与する群と、ペムブロリズマブの代わりにプラセボを投与する群を比較した。その結果、pCR割合、EFSの2つの主要評価項目はペムブロリズマブ投与で有意に改善し、病期やリンパ節転移の有無、PD-L1発現によらずベネフィットが認められた。またサブグループ解析で、pCR患者に比べて、pCRが得られなかったnon-pCR患者の予後は不良だが、pCR患者、non-pCR患者のどちらもペムブロリズマブ投与の有効性が確認されている。

 これらの結果から乳癌診療ガイドライン2022年版では、TNBC周術期治療としてペムブロリズマブの投与は弱く推奨され(推奨の強さ2)、標準治療の1つになっている。

 ただし免疫治療では免疫関連有害事象(irAE)のリスクがある。KEYNOTE-522試験で、5年何も起こらなかった(EFS)期間はペムブロリズマブ投与により9%の上乗せがあったが、グレード3-5のirAEがペムブロリズマブ群で13.0%に認めた。このため「ベネフィットとirAE発現のリスクがつり合うのかという議論がある。答えのないところだが、TNBCは再発すると予後が2年といわれることから、このベネフィットはつりあうと理解している。

 また切除可能の患者においては、術前療法により手術ができなくなることへの危惧は常にある。同試験において術前療法で治療が中止した患者はペムブロリズマブ群24%、プラセボ群15%で、9%の差があった。しかし手術実施割合は96.7%と97.4%で、その差は1%未満。「薬物療法中止が1割程度増加するが、副作用をマネジメントすることで、手術はきっちりできることが示されている」。

 pCR患者およびnon-pCR患者の術後療法も課題になっている。KEYNOTE-522試験では術後にペムブロリズマブが投与されたが、pCRが得られた患者の予後は良いため、ペムブロリズマブの省略が考えられる。OptimlCE-pCR試験(NCT05812807)では、術前ペムブロリズマブ+化学療法でpCRが得られたTNBC患者を対象に、ペムブロリズマブ投与と経過観察のRFSでの非劣性が検証される。一方、non-pCRだった場合、ペムブロリズマブ単独ではなく、ペムブロリズマブにカペシタビンあるいはオラパリブをシークエンスで使う。またより有効な治療の開発として、抗体薬物複合体(ADC)との併用療法も進んでいる。non-pCR患者を対象に、抗TROP-2のADCであるSacituzumab Govitecan(SG)+ペムブロリズマブのASCENT-05/ OptimlCE-RD試験、抗TROP2 ADC のDatopotamab Deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブのTROPION-Breast03試験が行われている。

 ペムブロリズマブ以外のICIを用いた試験も実施されている。アテゾリズマブによる周術期治療は、IMpassion031試験においてpCR割合の改善はあったが、EFSの有意な延長は認めなかった。現在、術前アテゾリズマブ+化学療法と術後アテゾリズマブのGeparDouze/NSABP-B59試験が進行中で、結果が待たれている。また術前のみにICIを用いた試験では、neoTRIP試験で術前化学療法にアテゾリズマブを併用しても有意な改善はなかったが、デュルバルマブの第2相GeparNeuvo試験でEFSは有意に改善した。術後のみの試験では、術後アテゾリズマブを用いたAlexandra/IMpassion030試験は有効性が示されなかったが、術後ペムブロリズマブのSWOG1418/BR006試験が進行中である。

 これまでの結果から乳癌は免疫療法が効きにくい対象でるが、術前、術後のサンドイッチが重要なのではないか?

 HR陽性HER2陰性乳癌においても周術期免疫療法の開発が進んでいる。KEYNOTE-756試験は、高リスクHR陽性HER2陰性早期乳癌に対して、術前ペムブロリズマブ+化学療法、手術ののち術後ペムブロリズマブ+内分泌療法を行う群、ペムブロリズマブの代わりにプラセボを投与する群を比較した。主要評価項目はpCR割合とEFSで、ペムブロリズマブ追加でpCR割合は有意に上昇することが報告されている。CheckMate 7FL試験では、術前ニボルマブ+化学療法、手術ののち術後ニボルマブ+内分泌療法を行う群、ニボルマブの代わりにプラセボを投与する群が比較され、主要評価項目のpCR割合は有意に改善。いずれの試験もEFSの結果待ちの状況となっている。TNBCだけでなく、ルミナールタイプの乳癌でも乳癌領域の周術期に免疫治療がどんどん入ってくる可能性はある。

免疫療法は副作用がひどいので慎重に投与してください。


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