見出し画像

新規乳癌治療薬のターゼナについて

新規乳癌治療薬のターゼナ(タラゾパリブ)が2024/1月承認されました。この薬剤はPARP(パープ)阻害剤と呼ばれる薬剤の一種です。同様の作用を持つリムパーザ(オラパリブ)という薬があります。BRCA遺伝子変異を有する転移乳癌の薬です。

BRCA遺伝子変異を有する転移乳癌について
BRCA1とBRCA2遺伝子は二本鎖DNA切断の修復経路で主要な役割を果たす遺伝子で1、遺伝性乳癌の20%~25%、およびすべての乳癌の5%で遺伝子の変異が認められると報告されています。一般的に、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異のある乳癌はその他の乳癌と転帰が類似していますが、患者さんは、より低年齢で発症する可能性が高いことが報告されております。生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有する乳癌の治療には特殊な治療が必要です。

ターゼナは、 BRCA1、BRCA2の遺伝子異常を持つHER2陰性患者さんの、進行再発乳癌の時に使う薬剤です。DNA修復で重要な役割を果たしているPARP1およびPARP2の強力な阻害薬で、PARP触媒活性の阻害とPARPトラッピングという2つの機序によって、相同組換え修復または他のDNA修復経路に関与する遺伝子に変異、または欠損がある腫瘍細胞で合成致死を誘導します。ターゼナは、相同組換え修復遺伝子の1つであるBRCA遺伝子変異を有するHER2陰性の局所進行、または転移乳癌患者の治療を適応として、米国を含む70以上の国や地域において承認されています。BRCA遺伝子変異陽性で、かつHER2陰性の手術不能、または再発乳癌患者431例に対して、ターゼナ群と通常の化学療法の群とで比較試験が行われました。その結果、無増悪生存期間(薬剤が有効な期間)が化学療法群の中央値が5.6ヶ月に対して、ターゼナ群は8.6ヶ月とハザード比が0.54で、ターゼナ群で有意に良好な結果でした。この試験の結果から、2024年1月にターゼナが日本でも承認されました。

副作用としては、骨髄抑制(貧血、好中球減少、血小板減少、白血球減少、リンパ球減少)、間質性肺疾患、血栓塞栓症などがあります。また、その他の副作用として食欲減退、悪心、脱毛症、疲労・無力症が報告されています。ターゼナの適応としてがん化学療法の治療歴が必要です。リムパーザは、アントラサイクリン系とタキサン系の両方の薬剤の治療歴が必要でしたが、それに対してターゼナはどちらか一方でも治療歴があれば使用できるので、使用のハードルが少し低くなっています。リムパーザは、リンパ転移陽性など再発リスクが高い BRCA 遺伝子変異を持つ患者さんに対して術後補助療法(再発予防の治療)として使えますが、ターゼナは術後補助療法に対する適用はありません。
気を付けるのは本剤の「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の適応においては、コンパニオン診断(CDx)でBRCA遺伝子変異を有することを確認する必要があります。
CDxとは、患者さんに特定の薬剤の使用が計画される際、薬剤の適応有無を確認するために行われる検査です。乳癌のCDxとしてミリアド・ジェネティクス合同会社「BRACAnalysis®診断システム」で確認する必要があります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?