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平野啓一郎著『富士山』について

どんな経緯からだったかは忘れたが、私は平野啓一郎のメールレターを受信し始めた。

ついこの間届いたメールレターに、月刊誌『新潮』(新年号)に、『富士山』という小説を書いたので読んでくださいと書いてあった。

年末のある日、天気も良く温暖で風もなかった。こんな日に家にこもっているのはもったいないと思い、図書館に出かけて行って、小説『富士山』を読んできた。

筋はというと、アラフォーのキャリアウーマンがマッチングアプリで知り合ったラジオの脚本家の同年の男性と東京から浜松へと一泊旅行に出るところである。男性の方は年収300万円、女性は年収1000万円というアンバランス。男性は大人しい。下手に出て、旅行計画や切符の手配、ホテルの手配を一手にやる。女性の方は以前にもマッチングアプリで知り合った男性と、交際していたこともあるようだ。将来子供が産めなくなった時を想定して3個の卵子を凍結している。

ともかくそんな男女が新幹線こだまに乗り込んで浜松に行く途中、事件が起こる。

富士山がよく見えると言うので人気の「E」席を男性がとってくれていた。そこに座っていて静岡駅で長い待ち時間があってこだまが止まっている時、ホーム二つ向こうの上りの列車の車窓から小学生ぐらいの少女が、はっきりとSOSのサインを出しているのが目についた。そのサインとは親指を中に入れてグーの手をすることだ。たまたまそれがSOSのサインと知っていた女性は、発車のベルが鳴ているギリギリのところで、飛び降り、少女がSOSを出していた列車に駆け込む。

案の定少女はsnsで知り合った男に誘拐されているところだった。誘拐男は感ずかれたことを知り横浜で降りていく。少女は警察に保護され、女性は自由となったが、浜松に行くことをやめ東京に舞い戻る。その心理の裏には、少女を助けると言って、男性にもとっさの行動を促したが、座席に座ったままでついてこなかったことがある。それっきり二人の関係は途絶えた。

それから何か月か何年かたって、電車の中で無差別に乗客が切り殺された事件が起こった。

その時テレビで、一緒に浜松行きをした男性の名前が出ているのを見た。犯人か、自分は騙されていたのかと思ったら、それは切り殺された方の名前だった。

テレビで友人知人が語る被害者の人物像は、やさしみのあるいい男であった。

女性の方はいろいろと、考える。

自分があの時後を追って浜松に行かなく、その後そのまま別れたのが、男性の心理に影響を与えて、犯人に切りつけられようとした男子小学生3名をかばうようにして自分が殺されたのではないかなどと思たりする。

まあざっとこんな筋でした。

登場人物、ヒロイン・アラフォーキャリアウーマンにしても、誘拐されかけた小学6年生の少女にしても、心理は殺伐としているように感じた。女性は結婚に対して夢がない。情熱がない。マッチングアプリで知り合った人とたやすく関係を持ち別れても、深い後悔はない。また次の人とも同じように淡々とやるのだろう。

ああこれが現代の姿かと84歳婆さんには理解するのが大変だ。

現代の世相は出ているものの、もっともっとアラフォー女性の心理に食い込んでくれたら、ああ今の世はこんなことになっているのかと、心底から感銘を受ける小説になっただろうと思った。


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