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70年代、80年代の洋楽の邦題について

この題材を取り扱ったサイトは世にたくさんありますが、ちょいと身近なところで少し盛り上がったので自分用メモとして書いてみます。

日本ではかつて、外国の曲を「洋楽」と言って必要以上に有難がった時代がありました(今もそうかな)。海外の曲なのでタイトルも当然外国語ですが、そのままだと平均的な日本人は何を歌っている曲なのかがわからない、ということもあり日本ならではの日本語を駆使した題名「邦題」なるものが付けられることが多くありました。(映画なんかは未だにそういうのが多いですよね。)

で、この邦題なのですが、(飽くまで個人的な憶測ですが)下記に述べるような事情により、時に曲名が何か珍妙な方向に行ってしまい、当時のファンにすら失笑を買うようなものが結構出回っていました。(もちろん一方で、ファンからしても「これは名邦題」と言われるものも少なくないことは申し添えておきます。)
ここではそういった、珍妙方面のものを少しばかり集めてみました。原曲のPVのYouTube動画と共にお楽しみ頂ければ幸いです。

まず、基本事項として類型としていくつかパターンがあります。

1.形容詞、もしくは「○○の」に原題、もしくは原題の一部の言葉を添える。「○○」には主に「愛」「恋」「悲しみ」などが当てはまる。形容詞部分には「恋する」「あなたは」「きみは」「今夜は」などの言葉が入る場合もある。邦題としてはかなり王道の手法であり、故に数も多い。メタル系だと「地獄の」「鋼鉄の」といったワードになりがち。
【例】
Bon Jovi "Runaway"
 →「夜明けのランナウェイ」

Kajagoogoo "Too Shy"
 →「君はTOO SHY」

Michael Jackson "Beat It"
 →「今夜はビート・イット」

2.原題を意訳して短く収めている、もしくは歌詞の内容を要約して題名に据える。名邦題と言われるものはこのパターンが多いように思うが、原意を読み取りすぎて逆にトンチンカンに陥るケースも多く、諸刃の剣と言える。
【例】
J.Gails Band "Centerfold"
 →「堕ちた天使」

Wham! "Everything She Wants"
 →「恋の駆け引き」

The Police"Every Breath You Take"
 →「見つめていたい」

3.原題の英語が長すぎる、もしくは英語的な表現過ぎて日本人的にピンとこないなどの理由で、1.や2.の手法をかなり強引に適用してしまったケース。原題の痕跡が一部残るものの、そこから原意を汲み取るのはかなり至難の業となる。
【例】
Fire Inc. "Tonight Is What It Means To Be Young"
「今夜は青春」

Whitney Houston "I Wanna Dance With Somebody (Who Loves Me)
 →「すてきなSomebody」

Tina Turner "What's Love Got To Do With It"
 →「愛の魔力」

4.3.と同じ理由で、思い切って原題を大幅にカットしてしまい、シンプルなタイトルにしてしまうケース。もう原意と汲み取る手掛かりすら与えてもらえなくなる。
【例】
Billy Ocean "When The Going Gets Tough, The Tough Gets Going"
 →「ゲット・タフ」

Bonnie Tyler "Holding Out For A Hero"
 →「ヒーロー」

Don Henley "All She Wants To Do Is Dance"
 →「ダンス」
※公式がYouTubeから動画を引き上げたのでニコニコのリンクを。

5.直球の直訳。潔い。確かにそうなのだけどさ。
【例】
Howard Jones "Hide And Seek"
 →「かくれんぼ」

Culture Club "The War Song"
 →「戦争の歌」

Taylor Swift "We Are Never Ever Getting Back Together"
 →「私達は絶対に絶対にヨリを戻したりしない」
※ここで取り上げる曲で数少ない21世紀に入ってからの曲です。

6.原題の意味などどうでもよく、とにかくアーティスト名を全面に出したタイトル。アイドル系やビジュアルインパクトで売ろうとしている曲などに多かった。
【例】
Tracy Ullman "They Don't Know"
 →「夢見るトレイシー」

Elton John & Millie Jackson "Act Of War (Part One)"
「エルトンのケンカ大作戦(パート1)」

7.曲中の効果音、一部の歌詞の聴こえ方を空耳的に取り入れて邦題とするケース。ここまで来ると原題の意味などは端から考慮するつもりはない。
【例】
Billy Joel "You May Be Right"
 →「ガラスのニューヨーク」
(曲の冒頭が恐らく邦題の唯一の根拠と思われます)

Go-Go's "Our Lips Are Sealed
 →「泡いっぱいの恋」
("Our"=「泡」ってだけでしょう)

Tom Jones "If I Only Knew"
 →「恋はメキ・メキ」
(サビのところを聴いて頂ければ。これも21世紀に入ってからの曲です)

8.なんとなく曲の持つ雰囲気から、ふわっと決めたような邦題。PVなどの印象から影響を受けているケースもある。それ故に何となく伝わるから不思議。但し、原題や曲の内容とは全く関係のない事も多い。
【例】
Air Supply "Making Love Out Of Nothing At All"
 →「渚の誓い」

Cyndi Lauper "Girls Just Want To Have Fun"
 →「ハイスクールはダンステリア」
(Cyndiの直接クレームにより後に修正されたという伝説があります。)

Whitney Houston "You Give Good Love"
「そよ風の贈り物」

9.あからさまに当時のレコード会社の担当者がふざけてつけた邦題。ある意味愛がある邦題とも言える。
【例】
Ozzy Osbourne "Shot In The Dark"
「暗闇にドッキリ!」
(この邦題は逆にOzzyファンでなければ付けられないかもしれません)

10.会議でさんざん煮詰まった結果、「もういい、えいやっ」と決めたとしか思えない邦題。
【例】
Janet Jackson "What Have You Done For Me Lately"
 →「恋するティーンエイジャー」
(リリース当時、Janetは19歳でギリギリティーンエイジャーでした)

11.発想や意図が全く読めない、何故その邦題にしたのかがわからない謎の邦題
【例】
Prince & The Revolution "When Doves Cry"
 →「ビートに抱かれて」

Eighth Wonder "I'm Not Scared"
 →「モンマルトルの森」
※補足:どうもこの曲のMVがフランスのモンマルトルで撮影されている事に由来するのでは、という未確認情報を得ました。

◎番外
ここでは上記の類型に当てはめきれない、ある種の「問題作」を集めてみました。

Duran Duran "Is There Something I Should Know"
 →「プリーズ・テル・ミー・ナウ」
(多くの日本人が邦題=原題だと思っていた邦題史上最大の難物だと思っています。)

Nena "99 Luftballons"
「ロックバルーンは99」
(邦題の世界ではたまにこういう意味不明の造語が生まれます。「ロックバルーン」とは一体なんなのか。「99」は個数なのか、大きさなのか。)

Phil Collins "That's Just The Way It Is"
 →「哀しみのザッツ・ザ・ウェイ」
(類型3.の中でも際立ってひどいもの。「ザッツ・ザ・ウェイ」は名詞なのか、何なのか)

Paul McCartney "No More Lonely Night"
 →「ひとりぼっちのロンリーナイト」
(逆に、ひとりぼっちではないロンリーナイトはどのようなものなのか教えてほしい)

Cyndi Lauper "The Goonies 'R' Good Enough"
 →「グーニーズはグッドイナフ」
(類型5.ではあるが、これも「グッドイナフ」がどういう状態なのかは標準的な日本人にはなかなかわからない)

Wham! "Wake Me Up Before You Go-Go"
「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」
(洋楽の変な邦題の代表作である。後の織田裕二がカバーした時のタイトルは「Wake Me Up GO! GO!」だった。「ウキウキ」はどこにいった?俺たちの「ウキウキ」を返せ)

Tina Turner "Better Be Good To Me"
「あなたのとりこ」
(原題を訳すと「私に優しくしといた方がいいよ」という強気な感じの女性の姿勢に読めるが、邦題がある種意味が逆である。)

Eric Carmen "I Wanna Hear It From Your Lips"
「噂の女」
(内山田洋とクールファイブとの同名異曲である(嘘)。何となく類型2.ではあるが、それにしても日本の既存の曲名にかぶせてくるというのは強気なのか投げやりなのか)

The Police "Don't Stand So Close To Me"
「高校教師」
(歌詞に"Teacher"という単語が出てくるのと、スティングに教師経験があることから類型3.に入るとも言えるが、個人的には類型10.の部類である。初めて見たときは目を疑った。ちなみに下記MVはご本人たちがあまりお気に入りではないと言われる1986年のセルフリメイクバージョン)

Tom Tom Club "Genius Of Love"
「悪魔のラブソング」
(類型8か、10か、11か、判断を迷うところです。一応「ラブ」という言葉だけが辛うじてかぶっているのでいますが、どの辺から悪魔要素を引っ張ってきたのかが気になります。歌詞が確かにちょっと謎めいていてはいるのですが。)


(まだつづくかも)