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横溝作品とオレ

実はオレは、ミステリの中では、お土地柄もあってか横溝正史に思い入れがある。鞆の浦で「獄門島」の映画ロケしただの、笠岡港から悪霊島に船が出るだのといって。そういった地縁だけでなく、高校の図書室で全集にはまり、金田一以前の、三津木俊助と由利先生モノまでも読破したせいも多分にあるけど。

もちろん幼少より乱歩作品はおなじみだったけど、個人的な感覚としては、横溝作品はミステリ的なテーマの設定が明確で論理的な印象を持っています。

乱歩も初期においては黒岩涙香以降の日本に、本格ミステリ文化を根づかせるべく意気軒昂な情熱を持っていたように思えますが、いったん文壇に居場所を確保すると、どちらかというと己の性癖に根ざした趣味嗜好を前面に出す作風へとシフトした印象をオレは持っています。

一方、横溝作品は、たとえば金田一耕助の初登場作品である「本陣殺人事件」のミステリ的な大きなテーマは、端的に言えば「西洋と比較すると、木と紙でできた圧倒的に密閉度の低い日本家屋において、物理トリックを用いた密室殺人事件は成立するのか?」となります。

さらに世間的に最も認知されている「犬神家の一族」のミステリ的な主題は「主犯の認知外の事後共犯者による見立て殺人と捜査の撹乱」となります。もちろん、そこに、仮面の人物の正体と手型の照合などの、さらなる興味をそそられるミステリ的な要素も加味されてはおりますが。

もちろん作品の全体的な空気感の演出の外連味としてクリスティのマザーグースを手毬唄にしたり俳句にしたりといった趣向を凝らしつつも、動機と犯行方法に関しては論理性のある視点を作品に常に内包させていた横溝さんは、乱歩さんよりもはるかに理屈の人だったとオレは思っています。

そんなオレが好むベスト横溝作品は、短篇の「蔵の中」です。劇中劇というマトリョーシカ構造の文学作品は数あれど、コレはイカレ方も含めて白眉! 

実際のニューハーフ松原留美子を俳優として使った実写化映画作品もスゴいけどね。中尾彬の粘るような濃い演技が感動的。今になれば、現役高校生がわざわざ劇場まで行ってこんなの見るなよと思わないこともないけど。

蛇足だけど、中尾彬ってATGの「本陣殺人事件」でジーンズ履いて金田一耕助を演ってるのよね。

https://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/103430.html


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