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【事務長業務実践書作成してみる】⑩病院の経営戦略の構築について(改訂)

 病院経営戦略についての記事は、実践書のどこに位置付けるのか、非常に迷うところです。
【事務長業務実践書作成してみる】の構成構想を説明すると、①から③までは病院事務長の業務についての体系的なアプローチ【第1章】、④から⑨までは、事務長にとってのステークホルダー【第2章】について述べます。以降は【第3章】として、①から③までの業務における主要なカテゴリー・テーマを対象に、事務長による実践的な行動についての具体的な説明を試みます。

 となると、戦略についてはどこに位置付けるのがよいのか、事務長のやるべき目的的テーマの経営の効率化の一部のようでもあり、上位概念のようでもあります。

 悩んだ末に、、病院経営戦略の概要と分類については、事務長業務のガイド的な位置づけで⑩として説明します。具体的な病院経営戦略の構築の手法と手順については、具体的な実践手法の提示において述べることとします。


1.病院という事業と病院戦略

 病院は、かなり特異な事業体です。
 価格(診療報酬)は国が決め、職員の半数以上を占める看護要員数は下回ると価格が下がる最低確保数があり、医師を頂点とするヒエラルキーが法的に定められた、労働集約化型の地域貢献を主眼とした公共事業です。
 では、病院の経営戦略はどのようなものかというと、「地域社会に貢献しつつ、経済的にも健全な運営を目指す目的で、以下のような要素をバランスよく配置すること」となります。

 ①サービスの向上

  患者満足度を高めるための質の高い医療サービスの提供を行う

 ②コスト管理

  効率的な運営を行い、無駄を減らしてコストを削減する

 ③マーケティング

  地域住民や特定のターゲット層に対する集患を目的としたプロモーション活動を行う

 ④設備投資

  病院の特徴を生み出し維持・強化する目的で、医療機器や情報技術へ投資する

 ⑤人材育成・体制確保

  優れた医療スタッフの確保と育成を継続的に図る

 ⑥提携と協力

  他の医療機関や企業との提携を通じたサービスの拡充を図る

2.失敗事例から学ぶ

 しかし、バランスよく配置するといわれても、そのイメージが描きにくいのが正直なところだと思います。成功の姿が分かりにくい場合は、失敗事例から学ぶことが解決策となります。
 病院経営における運営の失敗事例は以下のものになります。

 ①過度なコスト削減の影響

  経営改善や事業目標達成のため、人件費抑制を含む過度なコスト削減を行い、設備や人員の質や量が低下し、サービス品質が想定以上に悪化するケースです。
  これは患者の信頼を失い、結果的に患者数や診療内容に影響が出て、結果として大幅に収益が減少してしまいます。

 ②市場分析の不足、見誤り

  地域の需要や競合病院の分析を怠ったり、結果ありきのいい加減な分析を信用した結果、需要が見込めない施設や無駄なサービスを導入し、結果として施設の稼働率が著しく低下してしまう例です。

 ③技術投資のタイミングミス

  最新の医療技術や情報システムの導入に際して、ゴールや時期及び費用対効果を十分に検討していないため、導入が遅れたり、逆に早すぎたりして、結果として投資対効果が低下し、資金不足や技術的な問題が発生するケースです。

 ④政治的・法的環境の無視

  政府の方針による規制や法的な変更を見落とし、それに対応しなかったり、十分でなかったりしたためにリスクや罰則を招く例です。病院と言う事業の特性から、細かなものから大きものまで、多数発生する可能性があります。

 ⑤目標と手段とのはき違え

  市場調査も計画作成もしっかりしていた、体制も組んでいた、リーガルチェックも充分にやっていた、でもやりはじめたら期待した結果がでなかった。よくあることだと思います。これを風土や個々人の能力のせいだとは思っていませんか。この場合の多くは、目的と手段をはき違えていることによります。
  導入し使用していることや参加していることがゴールになってしまうと本来の目標の達成レベルが把握できなくなり、なにをしていいかわからなくなり、成果を出せないまま瓦解してしまうケースです。

3.病院経営戦略で定めておくこと

 病院経営戦略においては、以下の6要素を確定しておくことが重要です。

なんのために
・経営目標:収益拡大、ブランド強化、競争優位性の確保
・社会的貢献:地域医療の向上、健康増進
・患者満足度:高品質な医療サービス提供、患者満足度向上
・職場環境改善:働き方改革、ストレ軽減対策  

いつ
・時期:事業の開始時期、戦略の実施期間、計画のスケジュール
・短期、中期、長期の達成レベル
・需要の変動への対応

どこで
・地域や業種の特定
・サービス提供場所:病院内の特定の部門、外来、在宅医療など

なにを
・提供する医療サービスの種類、範囲、内容
・付随するサービスの種類、範囲、内容

どのように
・運営体制:スタッフの配置、医療機器の導入、業務プロセスの設計
・マーケティング戦略:広告、プロモーション、パートナーシップの形成
・患者対応:患者向けのサポート体制、コミュニケーション手段

いくらで
・売上想定:算定診療報酬、自費負担
・コスト管理:運営コスト、投資回収計画、費用対効果の分析
・支払い方法:保険適用の有無、現金、カード

4.戦略を評価する

 構築した戦略は実行の際に、院内で合意形成が必要です。合意形成には理解と評価の上での納得が前提になります。
 その評価は次の3つの視点によります。
・「今の課題(AsIs)とゴール(ToBe)」
・「今やる理由」
・「投資対効果」


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