マガジンのカバー画像

ROOM 3A|HITOSHI NAGASAWA

6
トークショー&サロン「ロマン的魂と夢」を主催する長澤 均の小部屋。
運営しているクリエイター

#オンライン展覧会

HITOSHI NAGASAWA|ロマン的魂と夢《2》|ピエール・ルイスが描いた宿命の女

 19世紀後半、それは作家ピエール・ルイスが飽くなき欲望を持って女たちを追い、ギリシャ古典文化に耽溺し、詩を書き、そして小説をものにした時代だった。
   早くも戦前日本で翻訳紹介されたこの詩人はしかし、当時の感覚からすればあまりにエロティックな作品が多く、なかば好事家好みの作家として少数の人だけに愛好されたようである。

   『ビリチスの歌』、『アフロディテ』、『女と人形』、『ポーゾール王の冒険』あたりが翻訳もされて知られている作品だろう。
   なかでも物語としての起

HITOSHI NAGASAYA & 合田ノブヨ|メルヴェイユのはざま《1》|冬の羊歯

 丹念に織り込まれた「細部」というものがある。  そうした美しい「細部」はしばしば人を驚かせ、感嘆させる。  合田ノブヨさんの作品には、そんな細部がそこかしこにある。  羊歯を手にして霜の模様を描くような仕草をする少女。  窓霜の模様が羊歯を連想させることを、少女を媒介にしてまるで冬の奇跡のような作品にしている。  羊歯も窓霜も、どちらも「細部」がある存在だ。  そして手前の羊歯から白く霞む窓外まで、冬の白く溶け込む光景がしっかりした暗色の窓=フレームによって囲まれる。

HITOSHI NAGASAWA|宿命の女と死─『死都ブリュージュ』の世紀末

Text|長澤 均  およそ夕暮れと散策を語ったら、ジョルジュ・ローデンバックの右に出る作家はいないかもしれない。1892年に書かれた『死都ブリュージュ』は妻亡きあと、「灰色の街」であるベルギーのブリュージュに移り住んだ主人公が、夕暮れどきに街を彷徨するうちに亡き妻そっくりの女性と出会う物語だ。  毎日、同じ夕刻に色が沈んだ街を散策する主人公ユーグの寂寥感は、亡き妻へのひたすらな愛によってさらに寂しい風景となる。彼は妻のものは何ひとつ棄てず、さらに金色の遺髪をクリスタル・