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これからの人員削減(リストラクチャリング)|第2回.ハイペースで広がる人員削減、その要因

2020年以降、戦略・事業ポートフォリオに最適化された組織の実現、また、健全な人件費構造の実現に向け、多くの企業が希望退職、退職勧奨など人員削減を積極化しています。今後も劇的な経営環境の変化が見込まれる中、人員削減を使いこなすことの必要性が高まっています。

この潮流を踏まえ、「人員削減」や「人件費コントロール」に焦点を当てた記事を複数回にわたってお届けします。

今回の記事では第2回目として、人員削減の前提となる「求める人員構成」の検討における視点をご紹介します。
 〇 年間1万人超のハイペースで広がる人員削減
 〇 あるべき人員構成と現状のギャップに目を向けることができるか?
 〇 経営陣のマインドセットの変化と人的資本の台頭

 〇 選択肢としての外注化やシステム化の充実

年間1万人超のハイペースで広がる人員削減

日本を代表する企業をはじめ、人員削減を行う企業が続出しています。2023年1月以降、上場企業による早期退職・希望退職の募集人数は合計で約4,500人に達し、すでに2023年の約3,100人を上回るペースです。

このペースが続けば上場企業だけでも年間1万人を超える人員削減が行われることになります。
このほかにも非上場企業による人員削減況も活況な状況にあり、その勢いは現時点では収束に向かう様子はありません。

人員削減はなぜ、このようなハイペースで進んでいるのでしょうか?

あるべき人員構成と現状のギャップに目を向けることができるか?

人員削減のきっかけの1つは戦略・事業ポートフォリオを踏まえたあるべき人員構成と現状のギャップを認識することから始まります。

戦略・事業ポートフォリオの策定に取組む企業は多い一方、これらの実現に向け、要員計画などで最適な人員構成を明確化している企業は稀です。

実際のところ、企業規模を問わず、大半の企業は以下を要因に過去の人員構成を引きずっています。

  • 戦略や事業ポートフォリオの議論はできているが、それが人員構成の議論とリンクしていない

  • 社員はみんな仲間として支えあう意識が強く、余剰人員の可視化は企業文化や価値観に馴染まない、と思っている

  • 処遇に手を加えることで世代間の公平が崩れ、特定の世代が不遇を被ることは避けたい

  • 人員構成を変えるくらいであれば、戦略や事業ポートフォリオが頓挫しても仕方ない、と思っている

  • 人員構成を変える議論の当事者になることは避けたい、と思っている

結果としてはあるべき人員構成と現状のギャップを通じて露になる”不都合な真実”に目を向けられない企業が大半です。
これら企業にとってはギャップに目を向けないことが合理的あるいは無難であり、目を向けずじまいの結果になります。

このような価値観や視点が、人員構成に大胆に手を加えるうえでの最大のボトルネックになっています。

ボトルネックの所在

経営陣のマインドセットの変化と人的資本の台頭

興味深い点は人員削減を断行した企業も、最初から人員削減に積極的だったわけではない、という事実です。

業績や利益構造を改善しなければならない状況に置かれる、投資家から事業再編のプレッシャーを受けるなど、なにかしらの内外の圧力から人員構成に目を向けざるをえなかった、という受身的なケースがほとんどです。

一方、近時は人員削減を業績・利益改善に向けた積極的な方法ととらえる企業が徐々に増加しています。
例えば、以下の経験を持つ人物が経営陣に就いた企業の場合、「求める人員構成」と「現状とのギャップ」に対して高い解像度を持っています。

  • 外資企業で人員削減が躊躇なく行われる価値観に触れたことがある

  • M&Aや事業再編の一環として人員削減を行い、その効果を実感している

  • 人員削減を躊躇した結果、業績悪化や大規模な減損など痛い目にあったことがある

加えて、2020年から経済産業省の伊藤レポートの発出以降、人的資本経営へ企業が盛んになり、その人材ポートフォリオの文脈で「求める人員構成」を意識するに至った経営陣も増えています。

このような経営陣のマインドセットの変化と人的資本の台頭は人員削減が増えている大きな要因です。

選択肢としての外注化やシステム化の充実

もう1つ、人員削減を後押しする大きな要因は外注化やシステム化によって人員を代替できる手段が増えた点です。

経理や労務管理はじめコーポレート業務、営業管理、顧客管理など、10年前と比べて外注やシステムの選択肢が各段に増えました。

かつては「外注化・システム化してしまったら、今の社員にやってもらう仕事がなくなる」と躊躇していた会社は少なくありませんでしたが、
「外注化・システム化できるものは社員にやらせない」といった価値観を持つ企業が増加しています。

(外注化・システム化に舵を切った企業の経営陣・担当者の声)

"外注やシステムで済む業務を社員にやらせていた。このような業務を社員にやらせても、会社も本人も誰も得しない。"
"人を雇うコストや負担が大きくなった。人員よりも外注やシステムに委ねる方が圧倒的に安いし楽だ。"
"手塩にかけて仕事を教えてもすぐに転職してしまう。そうであれば最初から外注化やシステム化した方がよい。"
"これまでは複数人を配置していた業務を安価な既成のソフトやアプリで代替できるようになった。"

2020年以降に外注化・システム化に舵を切った企業の経営陣・担当者に対するヒアリングより抜粋

外注化・システム化によるコスト削減効果はいくらか?
人員削減に伴い短期的に発生するコストを踏まえても、多くの場合、業務の継続性と人件費の圧縮を両立できるケースが大半です。
結果として、これが積極的な人員削減を後押しする要因となっています。

今回の第2回目の記事として、人員削減の前提となる「求める人員構成」の検討における視点をご紹介させていただきました。

今後も、人員削減に関して経営陣・担当者の方々の実務にお役にたてる情報を複数回にわたってお伝えいたします。

ご関心、ご要望、またコメント等がございます場合、お問い合わせページからご連絡ください。


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