三笘加入で気になり始めたあなたに贈る、ブライトンの説明書 Part2

こちらの記事は同タイトルの前編の続きです。
未読の方はこちらからご覧ください。

まずはじめに、前編の反響、感想などをツイートしてくれた方、リツイートで応援してくれた皆さん、本当にありがとうございます。

無名どころか、こういった執筆自体が初めての僕にとって、皆さんお一人お一人の反応はとても新鮮で、心からこの記事を作成・公開して良かったなぁと感じるものでした。

皆さんにとって、後編もご期待に添えるものであると嬉しいです。引き続き、応援や感想(それが意見が異なるものであっても)を頂けると嬉しいです!よろしくお願いします!

前回は、この記事を書いた理由、ブライトンはどのようなチームなのかに触れ、ブライトンは非常に特徴のある強いチームであることをご説明しました。
そして、今回は、その強さの核となっている、ポッター監督の掘り下げから開始します。

3.ポッター監督ってそんなにすごいの?


まずは経歴をご覧ください。

2010年12月にスウェーデンリーグ4部エステルスンドの監督に就任。ポゼッションベースの攻撃的なサッカーを展開し、就任から5年で1部リーグに昇格。2016-17シーズンにはスウェーデンカップを優勝してクラブ初タイトルを獲得した。スウェーデンカップ優勝で出場権を得たUEFAヨーロッパリーグではガラタサライやPAOKらを破り本選出場を決め、アスレティック・ビルバオやヘルタ・ベルリンと同組となったグループリーグを突破してベスト32に進出している。(wikipediaより引用)

スウェーデンリーグで異例の経歴(5年で3回昇格!)を果たし、昇格クラブをその後国内カップ戦優勝に導いた上、UEFAヨーロッパリーグでグループリーグ突破というのは、ポッター監督以外で聞いたことが無いレベルのシンデレラキャリアです。

現在では次期イングランド代表の噂も良く聞きますし、プレミアのメガクラブが興味を持っているとの報道もよく見かけるようになりました。
なぜ彼はここまで成果を残し、評価されている監督なのでしょうか。
僕が感じているポッター監督の長所を列挙したいと思います。

1.戦術に選手をはめ込むのではなく、選手の長所を活かしてチーム作りをしている
ポッター監督はシーズン当初~中盤~終盤と選手の配置だけでなく、ポジションや役割を少しづつ変えていきます。
例えばマカリスターという選手がいますが、彼は所属して1年半の選手です。
この1年半、彼はセカンドトップ→センターハーフ→ボランチと起用時のポジションを変更して来ました。
テクニックがあり、パス精度も高いため前線に置かれていたのですが、ハイプレスをするブライトンにはやや守備強度が低く、また得点に直結するプレーというよりはゲームメイクが得意という印象でした。
その特徴を踏まえて、今シーズンはボランチとして中盤の底から安定したゲームメイクを披露しており、今が一番ブライトンで活躍していると言えます。
このように、当初と役割が異なるポジションを担うことはブライトンでは普通で、所属選手の大半は複数ポジションを担当出来ます。

2.試合中の修正も当たり前に行い、試合のペースを握り直せる
これについては今期第3節の対ウエストハム戦(away)が好例です。
ブライトンは26分、早々と先制に成功します。今期絶好調のウェルベックが1点先制しながらも、ただでさえ格上のウエストハムが開幕2連敗後のホームゲーム。

3連敗を阻止したいウエストハムサポーターの反応を考えると、死に物狂いで攻め返してくる後半となる事は明白でした。

後半、試合のペースはウエストハムに傾きつつある中、ブライトンにとっては耐える時間が続きます。
62分、ウエストハムはフォルナルスというゲームメイクに優れた選手を下げ、よりゴールに直結するタイプのスカマッカを投入。
直後の63分、ブライトンはそれを見て中盤のララーナを下げて、今期新加入の左SB、エストゥピニャンを投入します。
これにより、システムも3-5-1-1から4-4-1-1に変更。左WBだったトロサールがセカンドトップに移動し、この直後からブライトンが一気に押し始めます。

66分、中盤のパス交換から裏に抜け出したトロサールが2点目を決め、選手交代によってゲームの勝敗はほぼ決しました。
試合を観て頂けると、選手交代によって大きくゲームを変えていることがとてもよく分かる好事例かと思います。

上記のように、ポッター監督はプレミアリーグでも戦術面で優れた屈指の監督であり、選手の良い所を見つけてチームに組み込むのが上手い監督だと思います。
ポゼッションという誰もが憧れるようなエンタメ性の高いサッカーを披露しつつ、限られた予算で成果を出していくというのは、ある意味で一番難しいことをやっているとすら思います。

反面で、良いクラブなのは分かったがポッター監督の去就によって、ブライトンの良い時期が終わるリスクは無いのか?という疑問も当然あるかと思います。
もちろんポッター監督が抜けるのであれば小さくない影響はありますが、それでもブライトンは強くなっていくだろうと僕は楽観視しています。
その理由は、オーナーのトニーブルームが安定的にクラブを強化させてきており、彼の手腕によってポッター監督も見出され、招聘されているからです。

4.オーナーのトニーブルームってどんな人?


13年前、イングランドリーグ3部に所属し、財政難に苦しんでいたブライトン。
そこへクラブ史上一度も経験の無いプレミアリーグへの参戦という大きな夢と新ホームスタジアムの建設を約束し、現れたのがトニーブルームでした。

プレミアリーグ所属であること、ポッター監督が展開するパスサッカーを基本とした攻撃的なチーム、AMEXスタジアムという新設された素晴らしいホームスタジアムなど、ブライトンが今見せているもののほぼ全ては、彼の手から生み出されています。
個人資産は推計で2000億。プレミアリーグのクラブオーナーとしては豊かな資金力とは言えませんが、それでも充分に戦えている現状を踏まえると、資金の多寡はクラブの強さを生む一つの要因にしか過ぎません。

僕がトニーブルームを信頼し、いいオーナーだと感じる理由は、大きく2点あります。

・論理的思考、ビジネス能力が高く、生んできた成果が傑出している
彼は元々プロギャンブラーとして、世界をポーカーの腕で渡り歩く人でした。
その後、スポーツベッティングを組織として行う会社を設立し、収益を更に拡大。現在の2000億とも言われる資産を得るに至ります。

こうした世界で成果を出すためには、他の人とは違う成功の仮説やその根拠となるデータ、スポーツへの深い理解が欠かせないと思いますし、その手腕はオーナーとしての彼の成果にも役立っていると思います。

例えば、三笘選手、ウンダブ選手が昨季所属していたベルギーリーグのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズも、2018年に彼が買収をしています。
買収から5年で一部昇格、昇格した昨年にいきなりリーグ戦1位と、ここでも買収後の飛躍的な成長を遂げているのは、彼の経営手腕が評価に値する証拠ですし、偶然ではないでしょう。

更に言うと、三笘を筆頭にイギリス労働許可証の降りていないブライトン所属選手の多くがレンタルで一旦移籍し、その期間の実績の中で労働許可証を取得するのも偶然では無いと思いますし、ひょっとするとブライトンの基本フォーメーションと同じ3バックをサンジロワーズが採用しているのも偶然では無いかもしれません。

彼はブライトン単体の強化にだけ動くのではなく、クラブ経営を多角的に捉えている事が分かります。
もっとブライトン自身の選手補強に全財産を注いでも良かったかもしれません。
普通はプレミアリーグの短期的な成功に集中する方が自然な手かもしれません。

でも彼はそうしなかった。

一見遠回りに見えるその手段を取る事で、三苫選手は最速でプレミアリーグの舞台に立っていますし、リーグレベルの差はあれど、ヨーロッパ全体でも昨年屈指のゴールハンターであったウンダヴ選手もかなり安く獲得出来ています。
三笘・ウンダヴ両選手の加入にどれほどの価値があったのかは今シーズンの大注目テーマですが、現在レンタル移籍中の若手有望株も複数おり、トニーブルームの手腕は今も種を撒き、実を結ぼうとしています。

一応補足しておくと、ブライトンは資金は潤沢ではないですが、お金がないわけでもありません。
昨期のベンホワイト、今期のククレジャ&ビスマと、ここ最近で売却をした3名の移籍金だけでも総計200M€を超えており、これだけでも昨年のプレミアリーグ(9位)により、ブライトンが獲得できる放映権料を超える売上を確保しています。
これに並ぶ程度の金額を補強に使う事は十分出来るはずなのですが、彼はその判断をしていないのです。

こういった事実を見て、僕は彼の経営手腕は賞賛に値すると思いますし、中長期を見据えた経営判断をしながら、足元の現状も結果が出ており、文句のつけようのない実績だと思います。

ポッター監督が素晴らしい監督である事に疑いの余地は無いのですが、それと同じくらいオーナーのトニーブルームも信頼に足る人物である事がお分かり頂けると思います。

ブライトンの経営について、昨日のフラム戦前会見でもポッター監督はこのように言っています。
(@BHA_honyakuさんの訳をお借りしました。ありがとうございます。)

「このクラブは資源的にはプレミアでかなり低い位置にいる。そこでチームの平均年齢を下げ、給料での支出も下げ、ビジネスもここまでうまくいってるのは僕だけじゃなくてチーム全体のおかげ。正直この優れたチームに入れること自体が一番嬉しいよ。」

会見なので本音を全て言っていない可能性はありますが、少なくともポッター監督は経営の方針を理解して、限られた戦力の中で自分のベストを尽くすことに共感・納得しているように感じます。

本来、監督は勝つ確率を上げるために、経営に対して少しでも多くの補強費を捻出してもらいたいものだと思います。
しかし、ポッター監督のこの言葉は、監督という役職だけの狭い視点だけでなく、ブライトンをより良くしていく経営陣との共同チームの一員という感覚が強く感じられます。
ポッター監督の人柄もさることながら、こう思わせるトニーブルームの実績・手腕は素晴らしいものだと思います。

そして、もう1点僕は彼のオーナーシップに強く信頼している点があります。

「彼が生粋のブライトンファンである」

という事です。
彼の祖父がブライトンの副会長だったという経緯もあり、彼は6歳から生粋のブライトンファンである事を公言しています。
ビジネス的に大資本が買収を行ったオーナー体制を否定しているわけではありませんが、「生粋のブライトンファンが行う着実で中長期的なプロジェクト」に僕はとても共感をしています。

大資本により強豪と渡り合うクラブが短期間で成長していく例は他のクラブでも多く事例がありますが、クラブカルチャーや中長期的なスパンで個人に近いオーナーが組織を成長させてきている事例はあまり記憶にありません。

敢えて言えばヨーロッパではビジャレアルあたりが筆頭となるでしょうが、彼らもリーグ有数の強豪だった時期はあり、トップリーグを知らないクラブの成長ストーリーとしてはブライトンは相当な好事例だと思います。

僕はそういった珍しい挑戦を見られる事を1サッカーファンとして、非常に幸運だと思いますし、その挑戦は今のところ成果を生んでいると思います。
ただし、当然の事ながら、クラブの成長・風格というものは数年単位でなされるものではなく、5年・10年とかけて初めて見られる変化だと思います。

BIG6と言われるメガクラブはもちろん、エバートンやウエストハム、アストンヴィラといったクラブと比べても、ブライトンは最近出てきた新参者という立ち位置だと思います。
今順位が勝っている、昨年勝っていたという事実とは全く違うレベルの話で、事実としてクラブの歴史や選手達からの見られ方など、格の違いは沢山あります。
まだまだブライトンはそういった風格を感じさせるクラブになる道の途中と言えるでしょうし、それはすぐに変わることはありません。
しかし、ブライトンの歩みは一歩一歩正しく踏めていると感じていますし、リーグの中では小人と言えるブライトンの工夫と知恵に満ちた毎日は本当に楽しいですし、彼らの将来は明るいと信じています。


おわりに


結構思いつきで書き始めた記事だったのですが、読み手の皆様には、とても長い僕の感想文にお付き合い頂けたことを深く感謝申し上げます。
データも少なく、説明書というよりも僕の感想文になってしまっていると思いますが、なるべく客観的に文章を進めたつもりです。
合計9,000字を超えるような記事になり、まさか前後編に分けて発表をするとは自分でも全く想像していませんでした。

三笘選手しか興味なかったけど、ブライトンもちゃんと見てみようとか、
三笘選手ってそんなに可能性ある選手なの?日本代表も楽しみだなとか、
読んだ方に少しでも残るものがあれば本当に嬉しいです。
そして、ブライトンの決定力の無さに「またかよ!」と叫びつつも、他のチームではなかなか見られないような美しい崩しや、格上相手に押し込む時間をより多くの方々と楽しんでいけたら最高です。

僕が冒頭で僭越ながら予想した、
「三笘選手がプレミアリーグを代表するアタッカーになる」
という予想が当たった時、ブライトンは未だに現在のような立ち位置のクラブである可能性は高く、彼を引き留めておくことは出来ないでしょう。

その時、「ブライトンの三笘選手が見られない」という残念な気持ちを沢山抱えながら、それでも三笘選手の門出を応援する未来が来ることを僕は心から祈っています。

お別れのその日、そこにはきっと今よりずっと多くの日本人ブライトンファンや、三笘選手ファンがいるのでしょう。
そんな震えるような日、僭越ながらも「俺はこの日が来るのを知っていたぞ!」と言えたら、僕の人生の中でもかけがえのない瞬間になると思います。

ブライトンと三笘選手には、これから輝かしい未来が待っている。
これを断言して、僕の感想文は終わります。

次回は、「○○に移籍して三笘選手を見始めたあなたに贈る、三笘選手の説明書」でお会いしましょう。
ご覧頂き、本当にありがとうございました。

※本当は個性溢れる個々の選手紹介や、ブライトン&ホーブという魅力的なホームタウンの事など書きたい事はまだまだあるのですが、今回は字数の関係もあり、断念しました。

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