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「KPOPが売れるのが悔しい」

1.

3年くらい前、日本の小さい映像会社で働いてた頃の話です。何故か音楽業界、エンタメ業界の人が集まった飲み会に呼ばれ、端くれものだった僕はただ色んな偉い人達の話を聞いていました。その時に聞いた話。KPOPがすごいって。BTSとBLANK PINKだけで日本の音楽産業全体の売上を十分超えるって。抜かれてしまったって。僕はマジですみっこの席で静かにビール飲むだけだったので、そこの偉い人達は僕が韓国人であることすら分からなかったでしょう。

それを聴いて嬉しいかったかというと、全然。だって、僕はKPOP全然知らないし、中学生からインディーズが好きだったからその頃からもう疎いし。BTSもBLACK PINKも名前とか何となく聴いた曲はあったけど、ほぼ何も知らないって言っても良いくらいだったし。ただ、ちょっとづつ世界市場を狙ってたKPOPがついにこんな段階まで来たんだなという実感だけがありました。へーって感じ。

BOAからKARA、東方神起。今はもう懐かしいと感じたりする名前ですね。その中の誰かは性犯罪者、誰かは自殺、誰かは会社の偉い人。割と未来って残酷で虚無だったりしますよね。


2.

車の中。ミュージシャンマネジメント会社の社長さんと車に乗ってとこか移動中だった時の話。ラジオで前KARAのメンバーがインタビューをしていて、その話からKPOPの話題になり、またKPOPはすごいなーって感じの話になったのです。当時話題になってたJ.Y.PARKとNiziUの話もしたっけ。売上もそうだけど、そもそも歌とダンスのクオリティが高すぎるという話もしました。

僕:そりゃ、めっちゃ長い間トレーニングしますからね。志望者が何万人か分からないくらい多いし、会社がトレーニングさせる候補生だけ数千人でその中から選ばれた数人だけがデビュするって感じらしいから、そうなりますよ。
社長:そうだな。でもデビュしてある程度売れたらめっちゃ稼ぐだろうな
僕:もし娘さんが韓国に行ってKPOPアイドルになりたいと言ったらどうしますか?
社長:いやいや、多分無理だな。危なすぎる賭けだし、親としてはなぁ
僕:デビューするとしてもそこからも大変ですしね
社長:そう。若い頃の時間を全部犠牲にしてするには成功率が低すぎるんだよね。

それもそう。才能がある人は山程いて、もう供給過多も良いとこなのに、成功率0.1%の賭けで自分の全部を叩き込むのは、自分が親でも同意は出来ないかなーと。「職業の中で一番大変な労働」と話す人もいました。身体的にもそうだけど、彼ら、彼女らは精神的にもかなりしんどい経験をすることになるからですね。先輩達を見ればそりゃ分かるはずなんですよ。

それでもスターになりたい人達がいて、神様に選ばれた何人かが毎年新しいスターになります。その栄光のために頑張る。じゃ、その後は?

みたいな考えことで頭がぐるぐるになりながら、僕達は現場に向かいました。小さなライブハウスで多く見積もっても50人くらいが集まって、今日のメインステージを飾る子は元々地下アイドルで、自分の音楽をやりたくてアイドルを辞めた子。「そりゃ、最近はただで見れるものばっかりだし、こんなとこまでお金払ってライブ見に来る人は相当変わり者だよ」という自虐の声。そういう記憶。


3.

「KPOPが売れるのが悔しい」

何も考えずXを漂ってたとこ、目に入った一言。日本でもBTSやらNew Jeansやら、一つのグループに限らずもうKPOPというシーン自体が売れるようになりましたね。それも10代を中心に。その波はNiziUの時から特に目立つようになったなーと感じます。いわゆる「KPOP風」というのが通用されるようになったのがその頃ですね。

KPOP風って何?

おしゃれな音楽、カラフルなPV、今風

大体こんな感じで認識されているのですかね。じゃ何がKPOPをそんなにおしゃれに見えるようにしたのか。その中の一つは、先も言及したけど、ハードなトレーニングです。20年くらい前の韓国では、「アイドルは見た目が良いだけで、歌は全般的に下手。歌が上手い子は顔が下手」とかよく言われてました。今は「歌が下手なアイドルの子なんていないよ。そもそも下の段階で勝てない」と言われています。

歌もダンスも技術的に100点を超える上、特別な魅力がある子だけがKPOPアイドルになれるという感覚です。

音楽がおしゃれなのは、そう作られたからです。可笑しい話かもしれないが、一応聞いてください。1曲あたり200万円、PVは2000万円くらいが基準線だという世界です。そして全世界の人に売れなきゃいけません。日本でも、アメリカでも、ベトナムでも、インドでも聴きます。ローカルな市場でだけ受ける音楽を作るはずがない。おしゃれだと言っても、その殆どは元々アメリカのポップシーンの主流だったBLACK MUSIC、つまりヒップホップとR&B/ソウルです。BTSとBlack Pinkがアメリカのヒップホップと違うように見えるなら、それはやる人がアイドルだからです。同じトラックにKanye WestとかDoja catが歌うんだと想像したら、あ、これBLACK MUSICだなとすぐ気づけるはずです。

じゃ、何で悔しいと思ったのでしょう。

実は日本で発表された曲でKPOPの影響が感じられる曲が流れると「KPOP風だな」、「またKPOPか」みたいな話を見たりします。ま、どんな気持ちかは分かります。聴き慣れなさもあるし、若者の音楽で、しかも「韓国」というレッテル。何か気に入らないなーとなるのも、分かります。

まぁ、でもそんな悔しいと思う必要もないと思います。詳しい話はまた後の機会に出来たらいいな−と思いますけどね。シンプルにいうと、10代ー20代をターゲットとする音楽はアンテナを立てて皆が好んでる方に変わっていくのが当たり前でもあるし、逆にこの味も一つの武器として、日本の音楽の良さである「多様性」に加えれば良いだけの話だと、個人的にはそう思います。


4.

「アイドルじゃないと多分今は何も売れないと思うよ。」

7年間の日本生活を終えて韓国に帰ってきた時、音楽やってる友達に「最近はどんな音楽をしたら売れるの?」と聞いた時の答えです。最近の韓国の音楽チャートは年がら年中ほぼ変わらない印象です。大体アイドル曲が占めていて、テレビのオーディション番組とかでバズった曲が出たり入ったり、昔ながらのミュージシャンの曲が入ったり、そんな感じです。

何年か前まではヒップホップも割と人気を集めてましたが、それもアイドルに押されつつ、ロックはそもそも論外。韓国はアニメもないのでアニソンも無い。ボカロはそもそも無い。

韓国と日本の音楽市場で一番違うのは、韓国の方は深刻な集中型だということです。皆が流行る音楽を何となく聴く市場。その流れに乗らないと時代に乗り遅れた気持ちになっちゃう。根付いたジャンルのファンとかは少なすぎてろくなフェスなど出来ない。

韓国のインディーズは壊滅しました。元々ライブハウスがホンデにだけ集中的にある変なシーンだったが、コロナ禍を機に多くの小さいライブハウスが潰れたし、そもそもその前後何年間スターが誕生しなかったからです。それに比べると日本は比較的に色んな音楽が注目されるところです。僕は逆に日本の音楽市場が羨ましいとずっと思ってました。これに対しても誰か「羨ましいと思う必要はないと思います」と言ってくれるのですかね。


5.

KPOPには問題児が無い。会社にとって問題児は莫大な損失と同意語です。だから人格教育も行うし、絶対に問題を起こさせないように気をつけています。とある評論家さんは「最近のアイドルは良い子しかいない。悪い子はすぐネットで叩かれる。そういう時代」と話したこともありました。

若者の絶対的支持を集めてるのが模範生だというのは変な感覚です。Kurt Covain、 2pac、ジェームズ・ディーンみたいな、問題児、もしくは社会に溶け込むことが出来ず心的葛藤を劇的に見せるアーティストで、社会に訴えるアーティスト。もうそういうスターは見れないのでしょうかね。


6.

一つのコンテンツとしてKPOPは、確かにすごい。凄すぎます。世界の注目を浴びることになった以上、多分これからもしばらくこの流れは続くでしょう。だが、結局なところ、もう顔の見分けもよくできない完璧な美男美女の音楽ばかり流れる街で僕は自分の居場所を探すのがとっても難しい。そうだな……。僕もKPOPか似たようなやつばかりになっちゃった現状が悔しいみたいです。同じ理由ではないかもしれないけど。


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