毎日会社法を五条ずつ読んでみる:第六回_第二十一条~第二十四条

 今回は四条か、と思ったら「第二十三条の二」があるからほぼ五条じゃん……。


第二十一条(譲渡会社の競業の禁止)

第四章 事業の譲渡をした場合の競業の禁止等
(譲渡会社の競業の禁止)
第二十一条
 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

会社法 | e-Gov法令検索

 「地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市」は「政令で指定する人口五十万以上の市」だそうです。他社/者に事業を譲渡したら、同一の市町村/特別区や隣接する市町村の区域では、譲渡日から20年同じ事業を行えない(でも、譲渡先がOKだったら行えるし、期間も20年じゃなくてOK)。同一の事業を行わない特約がある場合には、30年までは有効だけど、それ以降は特約の内容に関わらずOK。ただ、いずれにせよ不正の競争の目的で同一の事業をしたらダメ、と。
 まあ、事業譲渡してもらったのに、同じ事業始められたら意味ないですもんね。でも、不正の競争って「不正競争」のことなのかなと思ったらちょっと違うみたい。以下が参考になりそうだけど、とりあえず次条に行こう……。

仲卓真「営業譲渡・事業譲渡における不正の競争の目的による競業の禁止の再定位――商法16条3項・会社法21条3項の現代的意義――」立命館法学 、405/406 471-507, 2023-03、立命館大学法学会

(指定都市の権能)
第二百五十二条の十九
 政令で指定する人口五十万以上の市(以下「指定都市」という。)は、次に掲げる事務のうち都道府県が法律又はこれに基づく政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを、政令で定めるところにより、処理することができる。

地方自治法 | e-Gov法令検索

地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市を次のとおり指定する。
大阪市 名古屋市 京都市 横浜市 神戸市 北九州市 札幌市 川崎市 福岡市 広島市 仙台市 千葉市 さいたま市 静岡市 堺市 新潟市 浜松市 岡山市 相模原市 熊本市

地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の指定に関する政令 | e-Gov法令検索

第二十二条(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)

(譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等)
第二十二条
 事業を譲り受けた会社(以下この章において「譲受会社」という。)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2 前項の規定は、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社がその本店の所在地において譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社及び譲渡会社から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3 譲受会社が第一項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、事業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4 第一項に規定する場合において、譲渡会社の事業によって生じた債権について、譲受会社にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。

前述「会社法 | e-Gov法令検索」

 事業を譲ってもらったけど、譲ってくれた会社の商号を引き続き使用する? A社から事業を譲渡してもらったB社が、A社の商号で事業をするの?
 以下の記事では以下のように書かれていました。記事中ではスーパーや宿泊施設の屋号の判例が上げられていてわかりやすいです。

これらの裁判例は、営業譲渡に伴い続用されるものが、商号そのものではなく屋号である場合でも、その屋号が譲受人の営業上重要な機能を営んでいるものと認定し、営業譲渡人の債権者にとっては、商号続用の場合と同様、営業主体の交代を知ることができないため、または、その事実を知っていたとしても、譲受人が当然に債務も引き受けたと考えがちなため、譲渡人の債権者を保護することを相当としたものといえます。

渡辺健寿「屋号続用の責任」『企業法務セミナーのバックナンバー渡辺健寿法律事務所、2016年9月

 事業を譲り受けた後も、引き続き同じ商号(屋号)を使う場合、譲渡した会社時代の債務を弁済する義務を負うのか。きつい。でも、登記したり、通知した場合の通知先に対しては弁済する義務を負わない。まあそうですよね。
 第三項がよくわかんないけど、譲り渡した会社はその事業に関する債務がある場合、何も言われなければ2年で責任がなくなるってことかな。
 第四項は、本当は譲り渡した方に弁済しないといけないのに譲り受けた会社に弁済しちゃっても、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは有効、と。でもこの場合、譲り受けた会社は債権がないから、経理の人が困りますね(笑)仮受金とかにして、債務者に事情聞いたりめんどくさそう。

第二十三条(譲受会社による債務の引受け)

(譲受会社による債務の引受け)
第二十三条
 譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は、その譲受会社に対して弁済の請求をすることができる。
2 譲受会社が前項の規定により譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡会社の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。

前述「会社法 | e-Gov法令検索」

 商号を引き続き使わなくても、債務を引き受けるって広告を出したら、債権者は譲り受けた会社に弁済を請求できる。「できる」なんで別に譲り渡す方にしてもいいんでしょうね。債務込みで譲り受けちゃったほうがわかりやすい気がしますけど、この辺実務はどうなんだろうか。

第二十三条の二(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)

(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)
第二十三条の二
 譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から十年を経過したときも、同様とする。
3 譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

同上

 ややこしい……。A社が事業XをB社に譲渡するとき、譲渡すると債務が弁済できなくなる場合とかですかね。A社に対して債権を持っている会社/人は、B社が継承した財産の価額を限度に、債務の履行を請求できると。でも、B社がこの次条を知らなかったそれは無理。
 債権者はこのことを知った2年以内にB社に請求か請求の予告をしないといけないし、事業譲渡の効力が生じた日から10年経過してもB社の責任がなくなる。
 A社が破産手続開始の決定などをした場合、B社に請求する権利を行使することができない。
 うーん……。

第二十四条(商人との間での事業の譲渡又は譲受け)

(商人との間での事業の譲渡又は譲受け)
第二十四条
 会社が商人に対してその事業を譲渡した場合には、当該会社を商法第十六条第一項に規定する譲渡人とみなして、同法第十七条から第十八条の二までの規定を適用する。この場合において、同条第三項中「又は再生手続開始の決定」とあるのは、「、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定」とする。
2 会社が商人の営業を譲り受けた場合には、当該商人を譲渡会社とみなして、前三条の規定を適用する。この場合において、前条第三項中「、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定」とあるのは、「又は再生手続開始の決定」とする。

同上

 会社間ではなくて、会社から個人(商人)への事業譲渡の話ですね。

(営業譲渡人の競業の禁止)
第十六条
 営業を譲渡した商人(以下この章において「譲渡人」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から二十年間は、同一の営業を行ってはならない。
2 譲渡人が同一の営業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その営業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡人は、不正の競争の目的をもって同一の営業を行ってはならない。
(譲渡人の商号を使用した譲受人の責任等)
第十七条
 営業を譲り受けた商人(以下この章において「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。
2 前項の規定は、営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人が譲渡人の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合には、適用しない。営業を譲渡した後、遅滞なく、譲受人及び譲渡人から第三者に対しその旨の通知をした場合において、その通知を受けた第三者についても、同様とする。
3 譲受人が第一項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、営業を譲渡した日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
4 第一項に規定する場合において、譲渡人の営業によって生じた債権について、その譲受人にした弁済は、弁済者が善意でかつ重大な過失がないときは、その効力を有する。
(譲受人による債務の引受け)
第十八条
 譲受人が譲渡人の商号を引き続き使用しない場合においても、譲渡人の営業によって生じた債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡人の債権者は、その譲受人に対して弁済の請求をすることができる。
2 譲受人が前項の規定により譲渡人の債務を弁済する責任を負う場合には、譲渡人の責任は、同項の広告があった日後二年以内に請求又は請求の予告をしない債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。
(詐害営業譲渡に係る譲受人に対する債務の履行の請求)
第十八条の二
 譲渡人が譲受人に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って営業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受人に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受人が営業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 譲受人が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡人が残存債権者を害することを知って営業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。営業の譲渡の効力が生じた日から十年を経過したときも、同様とする。
3 譲渡人について破産手続開始の決定又は再生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受人に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

商法 | e-Gov法令検索

まとめ

 事業を譲渡した会社は、近所で同種の事業を二十年はできない。でも取り決めによっては別にやってもいいし、三十年まではできないことにしてもいい。事業を譲り受けたあとも、同じ商号・屋号で事業を行う場合は、譲り渡した会社のその事業にかかわる債務を弁済する責任を負うことになる。でも、登記したり、通知した場合は大丈夫。商号・屋号を使わない場合でも、広告を出せば債務を弁済できる(債権者が弁済を請求できる)。事業が譲渡されることによって譲渡会社に対して債権を持っている場合、譲渡された財産を限度に譲り受けた会社に弁済を請求できるけど、譲り受けた会社がこのことを知らなかったらこれは無理。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?