はじめて湯たんぽを使う日


部屋が寒い。
私が住んでいる家は一階の角部屋なので、冬の冷たい風を2面で受ける。さらに地面から来る冷気もあるので合計3面から部屋を冷やす構造になっている。

なのにまだ暖房をつけず、パーカーの上にフリースを重ね着して冬を越そうとしている。なぜそこまでして暖房をつけないか。

理由は2つある。一つは単純に乾燥するのが嫌だから。ただでさえ私はドライアイである。そんな人が暖房をつけると喉はおろか目が干からびてしまう。
まあでもそれは加湿器を買えば解決する話。もっと深刻な理由がある。それは暖房をつけると火災報知器が鳴ってしまうのである。

あれは去年の大晦日。家に帰ってきた私は早速暖房を轟々とつけ、潤いを生贄に暖を取っていた。ベッドでゴロゴロしてると急に部屋の隅で「キュー!キュー!キュー!」という警報音が鳴った。

寝落ちする寸前だった身体を動かし、なんだなんだと音を辿っていくと、火災報知器が赤い光を出しながら爆音を6.1畳に響き渡らせていた。ど、どうすればこれは止まるんだ。とりあえず赤く光っているボタンを押す。光と音がぴたりと無くなった。万事解決。さあまたガキ使の続きを見ようと思ったら、5分後にまた警報音が鳴り始めた。ダメだ、鳴ってる根本の原因を把握しないと。入居した時にもらった火災報知器の説明書を引っ張り出し、カスタマーセンターに電話した。すると3コール目ぐらいで出てくれた。大晦日の夜中に、だ。こんな大晦日に火災報知器を鳴らしてしまう人間のために、電話の前で待ってくれている人がいる。そう思っただけで申し訳なさとありがたさで泣きそうになった。

「あ、あの火災報知器が止まらないんですけど。」
「急な温度変化はありましたか?」
「帰ってきて暖房をつけました。」
「多分それが原因ですね、火災報知器は外して裏の電源を一回切ってください。そして少し部屋を冷やすと鳴らないと思います。」

私は急いで火災報知器を外し、扉を開け閉めして部屋を冷やした。幸い私の部屋は3面から冷気を取り込めるので一瞬で極寒になった。

それからというもの、暖房をつける時はとても怯えてしまっているというわけだ。

それでも私も人間。寒さに耐えるのも限界がある。そこで私は湯たんぽを買うことにした。
厳密には実家で何度か使っていて暖かいことは知っていた。だから一人暮らしでも湯たんぽは大活躍できると確信していた。乾燥もしない。そして電気代の節約もできる。火災報知器も鳴らない。三刀流の超大型ルーキーである。色々探した末、『北欧暮らしの道具店』の湯たんぽにした。

家に猫がちょうど入りたがりそうな大きさのダンボールが届く。開けると中には、フワフワなベージュの袋に入った湯たんぽがいた。色々悩んだが湯たんぽはゴム製のものにした。固いものより柔らかい方が好きだから。早速お湯を沸かし湯たんぽにとくとくと入れる。猫のような手触りの物体から、猫の体温ぐらいの温度が、ゆっくりと伝わってくる。それを抱えながら仕事を始める。もう猫である。なんてかわいい子。

それからというもの寝る時はもちろん、仕事の時もこの湯たんぽを抱いている。帰ってくる時、ベットの上にぽんと置かれた湯たんぽを見ると、ついおかえりと言ってしまう。ベットに置かれた湯たんぽをぜひ見てほしい。本当に猫だから。

今年はこの子で冬を越せるかな〜と、800mlのお湯が入った猫に話しかけると、中のお湯がとぷんと動いた。

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