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【ライブ日記#46】第72回 東京藝術大学卒業・修了作品展

仕事にゆとりが出てきたので後輩を連れて藝大の卒展に行った。平日だというのに人がたくさんいる。この人たちは普段なにしてるんだろうね、と後輩に聞くと「外国人旅行者か余生を楽しむ人たちじゃないですか?」と即答される。そうか、少なくとも私たちと違う事象にいる人たちか。

上野公園を抜けると突き当りの信号のところに

「東京藝術大学」

と書かれた看板が出てきて2人でかっけえと声に出す。入学する難易度が高いこともあるが、何より名前がカッコいい。藝の字が醸し出す王者感はなんだろう。一番カッコいい漢字は?と聞かれた時、いつも「叢」と答えていたのだが(見た目がかっこいいし、一文字で読み仮名4文字を背負ってるのがイカすから)今日から「藝」と答えようかなと思うぐらいカッコいいなと思った。

展示はいろいろな棟で実施されており、入り口がたくさんあってどこから行こうか迷う。一番近くて小さい入口の棟に入ると、そこには見たことない形をしたものがたくさん並んでいた。アートに詳しくないので、見たことないなあとか、カッコいいなあとか、そんな感想しか持つことはできないのだが、解説文を見るとただかっこよくしてるのではなく、今までに感じ取った社会に対する違和感や自分の中の迷いを形にしていることがわかった。そもそも形にならない気持ちをちゃんと形にするのはすごい。それだけでもすごいのに、全くの他人に「なんかすごい」とことばにできない驚きを作り出すのはもっとすごい。改めてこの大学の中で、他の大学では学べないことを学んでいるのがわかった(気がする)

どれも印象に残っているのだが、特に印象に残った4つを記録しておく。

1つ目は、ゴリラのエッセンスを女子校に織り交ぜた作品。ぱっと見よく見る女子校のパンフレットやPR動画なのだがよく見ると制服の袖がゴリラの体毛で覆われていたり、どこかしらにゴリラのエッセンスが盛り込まれている。普段ありえないことを真面目にやるというのは面白い。言語化されていなかった社会の慣例を言語化してそれを軸に新しいものを作り出していると言ったほうがいいか。とにかく細部まで作り込まれていて笑った。

2つ目はルアーの作品。作品自体も綺麗で良かったのだが何より解説文が良かった。ルアーは元々既にあるものに擬態するものだが、それは擬態の域を超えず「本物」にはなれない。だから逆にこの世に存在しないものに擬態することで、「本物」に近づけるのではないか、という着眼点のもと、どの魚にも似ていないルアーを作っていた。なるほど、と思った。普通は「できる限り似せる」ことが目的だったルアーもその観点でみたら新しい可能性が見えてくる。

3つ目は七福神のふぐの作品。こちらはとにかく完成度が高すぎてびっくりした。これを一人の人間が作ったの?と思うほど緻密に作られている。バッグが当たってもし壊してしまったら自分の人生を天秤にかけても償いきれない、と想像して近寄れなかった。それぐらい作品の圧を感じた。

4つ目は油絵の球根(違ったらすみません)だった。芽が出てる球根が描かれているのだが、その精緻さはもとより、余白が美しいと思った。デザインも余白が大事と聞いたことがあるがそれを実際の絵で感じることの出来る作品だった。この作品を観た時、「静かだ」と思った。どの絵も音は出ていないのだが、この作品と比較すると何かしらの音が頭の中で流れていることに気付かされる。この球根は頭の中に音を流させる暇を与えないパワーがあった。

いやあすごかったねえ、と話しながら中華屋でギリギリ2人で食べきれない量のご飯と平日に飲んではいけないビールを頼んだ。男2人がたくさん料理を頼んだせいか、店主が気に入ってくれたようでよく話しかけに来てくれた。

はち切れそうな腹を抱えて外に出ると快晴。風も心地よく、アルコールで火照った身体を気持ちよく冷ましてくれた。こういう日も必要だよなあ。

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