「あの時はありがとう」とゴンが言った

さき さなえ



ゴンと著者



 ある寒い冬の日、某大学学生寮の、日の当たらない、じめじめした場所に置かれていた小さな犬小屋。その中にいた一匹の年老いた犬。白い中型犬。初めてそこを通りかかった著者と、目が合った瞬間、敵意をむき出しにして、狂暴で恐ろしい目つきになり、著者を威嚇した。
険悪そのものといった、とても悪い目つき。その次に又そばを通った時も全く同じだった。リードでつながれていなかったら、確実に著者を襲ったことだろう。
著者が通り過ぎると、ぴたりと吼えるのをやめた。
普通の怒り方ではないのだ。ただただ怒る。怒りまくる。
何がこの犬をここまで怒らせるのか?……。原因は何なのか……原因はあるのか……。
 
著者は、犬の怒りの目の奥に、深い悲しみの色が漂っているように思えて仕方がなかった。その悲しげな目がどうしても忘れられない。それ以後、何度も近くを通って、時間をかけてその犬に自分を覚えてもらおうとした。
目を合わせさえしなければ、そばを通っても吼えないことが分かった。
 
そして遂に、時間はかかったけれども、その犬は著者と目が合っても吼えないようになった。
 
著者との運命の出会いで、老犬ゴンは、少しずつ心を開いてゆく。
そして次第に、周囲の人間に深く愛される、見違えるように穏やかな犬となっていった。
 
3年後、老犬ゴンは安らかにその生涯を終えた……。
 
学生たちは心を込めて、ゴンのために大変立派なお墓を作った。誰が見ても、犬のお墓とはとても思えない、美しいお墓……。
 
この本は、著者と学生たちとゴンの三者間で生まれ、美しく育っていった大変感動的な実話です。すべてが事実。
 
数年前、学生寮付近をうろついていた野良犬を学生たちが保護し、ゴンと名付け、寮で飼い始めた。
保護はしたものの、学生たちは、ゴンの気持ちなどあまり深く考えたことがなかった。
ゴンはあくまで「犬」であり、ゴンに対して特別深い愛情を注いで接することなどなかった。
 
ゴンは愛を知らなかった。ゴンは愛に飢えていたのです。
 
著者も学生たちも、ゴンの世話をしながら、ゴンを可愛がっているつもりだったが、実際にゴンに愛されていたのは、自分たちだった。
ゴンが亡くなってから、次第次第にそのことに気付いてゆく。
 
学生たちは、ゴンによって、ゴンに導かれて、それまで気付いていなかった学生たち自身の心の奥深くに内在する真の優しさ、思いやりの気持ち、愛を引き出されてゆく。
 
著者自身も、ゴン亡き後、時間が経てば経つほど、自分はゴンから何て大きな愛をもらっていたのだろう、と痛感しながら、日々暮らしています。
ゴンは何て徳のある犬だったのでしょう……。
 
 
現在、世界各地で悲惨な戦争や紛争が起きています。困難で大変悲しい時代を私たちは生きている。国内でさえ、大地震、大災害で多くの人々が苦しんでいる。そしてそれに対して、自分に何ができるのだろう……何と無力な自分であることか……。
 
こういう時だからこそ、ゴンの本を読んで、せめてひとときでも、優しい気持ちになって、ほっと一息ついて頂きたい。心からそう願うのです。
ゴンのお話は、必ず、貴方を癒し、幸せにしてくれることでしょう。
 
自分が書いた本をこのように宣伝することに、ずいぶんためらいがありました。でも、一人でも多くの人に、この本を通してゴンに出会ってほしい。その気持ちが勝りました。ご理解ください。
 
 
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著者:左樹 早苗(さき さなえ)文芸社 1210円(税込み)
 


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