みかんの花

外の匂いが好き

冬の冷たく乾いた匂いが鼻に届く。それを肺いっぱい押し込んで閉じ込めた。
その冷たさがまた一年が過ぎたことに少しの寂しさを覚える。

職業柄マスクとは友達である。
マスクと離れるのは出勤の30分程度と帰宅して家にいる時。湿気と化学繊維、いい香りとは言い難い。呼吸は浅い。

去年のゴールデンウイーク、地元に帰ると甘い香りが町中に漂っていた。
母に何の香り?と聞くと"みかんの花"だと教えてくれた。

「これがあなたの故郷の匂いだからね。覚えておきなさい。」

ちょっとだけ泣きそうになった。18年間ここで育ってきたはずなのに気づかなかったのだ。  

この何もない田舎町に嫌気がさして出てきたはずなのに、東京のどこに行っても味わえない。

はやく5月にならないかな。あの香りが恋しくてたまらない。

どれだけ肺にも記憶にもいっぱい閉じ込めて持ち帰れるだろうか。

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