ぶらんこ乗りの夢

一人では、すれて朽ちゆく物語
 
 
 夏陰に、ぎいりぎいりとふらここは昔のことを思うのです。
 一人法師の影法師、ふわりと夢を喰いながら踊り続ける森の中。
 いつかだれかと手をとって、二人でふらここ揺れたなら
 いつかどこかへ行けるでしょうか
 ゆるりゆるうりと弧を描いて、くるりくるうりと左まわり。
 逆走していく時計の針を、追いかけていく影法師、
 いつかどこかで会えるでしょうか。
 いつでもどこでも会えないのなら、はふりはふりと夢を喰い
 糧にしたいと思うのです。
 いつかどこかで忘れるのなら、せめて今だけ覚えておいて。
 大切なことは一つだけ、せめてそれだけ覚えておいで。
 ゆるりゆるうりと孤を泣いて、くるりくるうりと右まわり。
 めぐりめぐって会えるでしょうか。
 こぼれる砂を掬えぬのなら、こわれる過去を救えぬのなら、
 せめても夢に巣くいたい。
 ゆるりゆるうりと子を抱いて、ぐるりぐるうりと眠りましょう。
 ふらここ揺らす影法師、夏陰の中に溶けてゆく。
 子守唄だけ残るのです。

――一人で、わすれて朽ち逝く物語


2010年10月作

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