高めの本をコミケで頒布し、国会図書館の納本制度で代償金を受け取ったら漫画家の牧田理恵 氏から「ぼろ儲け」と非難された

はじめにお断りしておきますが、この記事は Twitter での個人間トラブルを発端とした話なので、特に前半部分は第三者が読んで愉快なものではないです。
一方で後半は同人誌を納本して代償金を受け取ることに対しての考え方などを記載しているので、納本に際して不安を持っている方、趣味で作った本に対して国庫から金銭を受け取ることに罪悪感を抱いている方などには参考になる面もあるかもしれません。
以上をご承知の上でお読みいただければ幸いです。

何があったのか

【1つめのツイート】国会図書館に同人誌を納めることが出来るらしいんですが、言い値の半額で買い取ってくれるらしいのでちょっと税金の無駄遣いでは…同人誌3冊納めて言い値が5千円、2500円で買い取りというぼろ儲けの記事を見てしまい。商業出版物以外は寄贈に限った方がいいと思う。 【2つめのツイート】私も在庫送りつけられますやんと思ってしまう🤔

当該ツイート(とそれに繋がるツイート)で、牧田氏は以下の主張をされています。

  • ① 国会図書館では同人誌を言い値の半額で買い取ってくれる

  • ② これは税金の無駄遣い

  • ③ 同人誌3冊納めて2,500円で買い取りはぼろ儲け

  • ④ 商業出版物以外は寄贈に限った方がいい

  • ⑤ 代償金制度は在庫処分に活用できてしまう

このうち ② は牧田氏の主観、 ④ も同じく氏の個人的な希望に過ぎないので特に言及しません。
本記事では ① ③ ⑤ について取り扱います。
③ は私個人に対する批判と受け取っていますが、こちらとしては法律に則った行動をしていることはもちろん、現行制度を悪用したつもりすらないため、とくに「ぼろ儲け」については根拠のない中傷であると捉えており、本記事にて抗議する次第です。これは本来当事者同士で解決すべきことだと思いますが、現状先方から返答をいただけない(無視されている)状況なので、本意ではありませんが公開の場で反論する次第です。
① ⑤ は現行制度に対する問題提起ですが、その認識は違うということをお伝えします。

さて、私は牧田氏のことを詳しくは存じ上げませんが、 Twitter アカウントのプロフィールを見るに商業誌への掲載経験のあるプロの漫画家であり、また過去のツイートをいくつか拝見するとコミケ参加(*1)、同人誌発行(*2)の両方の経験があるようです。

ですので、コミケ等で頒布される同人誌について、作り方や一般的な価格も含めた基本的なことは理解されているものと思います。
そのような方が納本制度を根本から誤解しているように思えるツイートをされたことに驚いている次第です。

③ 同人誌3冊納めて2,500円で買い取りというぼろ儲け

牧田氏のツイートでは「頒布価格」ではなく「言い値」と表現され、また国庫から代償金を受け取ったことを「ぼろ儲け」だと非難しています。
氏は私の行為について「納本制度を本の在庫処分に悪用して利益を得た」と解釈されているのでしょう。そして、その前提として3冊5,000円は高すぎるという認識をされているのだと受け取りました。
以下それを否定しますが、ここはあくまで私が自分の正当性を主張するだけのものであり、この記事で本当に重要なのは ① ⑤ についてなので次の章まで読み飛ばしていただいても構いません。

さて、ブログ記事にて報告した本は以下の3冊です。

  • オンデマンド印刷、フルカラー、無線綴じ、84ページ:2,000円

  • オンデマンド印刷、フルカラー、無線綴じ、クリアPP加工、100ページ:2,200円

  • オンデマンド印刷、フルカラー、無線綴じ、クリアPP加工、16ページ:800円

頒布価格の合計は5,000円、代償金は原則として小売価格の5割なので、その半分の2,500円を受け取りました。
これが「ぼろ儲け」になるかどうか。

私の場合、頒布価格は本の印刷代、コミケのサークル参加費、当日の交通費といった実費と売れ行きを考慮して決定しています。
本によって完売することもあれば、一方で予想の半分も売れないものもある状況下で、平均して赤字にはならない程度に設定しています。
価格に取材費や人件費は入れていませんが、本の製作のために時には海外遠征までしているので、本音を言えばもう少しいい思いをしたいところですが、商業誌と同じ考え方を取り入れると1冊3,000円どころかたぶんそれ以上になってしまいそうなので自制しています。

その結果、ページ数の少ない本は1,000円を切る一方で、100ページ本は2,000円を超えているわけですが、これが高いかどうかは感性によるところも大きいので、そう感じられたならあなたにとってはそうなのでしょうとしか言い様がありません。
コミケに出店しているサークルは頒布規模も考え方もそれぞれなので、赤字覚悟で格安の価格設定をしているサークルもありますし、何千部も刷るような人気サークルであれば商業本に近い価格設定ができるのかもしれません(想像)。
そういう所と比べられると、あるいは単純に数百円のコピー本やせいぜい1,000円の「薄い本」しか買ったことのない方にとっては「1冊2,000円超え」の価格だけ見て高いと感じられてしまうのも無理はないでしょう。
その辺は受け取り方次第ではあると思うので「高い」と言われたら、というか実際面と向かって言われたこともありますが、その感性まで否定するつもりはありません。

しかし「ぼろ儲け」と公然に非難するのであれば、その根拠を示して欲しいです。

① 国会図書館では同人誌を言い値の半額で買い取ってくれる

これはある面では事実です。
もちろんいくつかの規定を満たしたときに限ります。
詳しくは国立国会図書館法を読んでいただきたいのですが、より分かりやすい文書として納本制度の概要があります。

例えば「簡易なもの(申込書、1枚もののチラシ、手帳、カレンダー等)は対象外」とされているので、コミケ頒布物で言えばいわゆる「ペーパー」は代償金どころかそもそも納本できません。
また、代償金を受け取るには刊行部数の基準もあります。詳細はQ&Aに書かれています。

「言い値の半額で買い取ってくれる」という主張が正しいかどうかは一概には言えないところで、「言い値」の具体的な定義によります。
実際は1,000円のところ、2,000円で売ったものだと嘘の申告をするのは違法です。なぜなら交付額は「小売価格の5割」と定められているので、小売価格を申告しなければならないからです。
では、最初から代償金目当てに高額な金額を設定するのはどうでしょう。
興味ある方は「亞書」で検索いただければと思いますが、実際過去にそういう騒動があったようです。
ですのでこの制度の悪用がされうることは国会図書館側も当然把握しており、現在は何らかの対策がなされているものと期待できます。
1冊1京円の本を出して夢の5,000兆円を手に入れようなどといったことは不可能だと思います。

一方で適正価格1,000円のところあえて2,000円の価格設定を行い、実際にそれで販売実績があれば法的には問題ありません。
そういう面も踏まえれば「言い値の半額で買い取ってくれる」が事実となるケースもあるのかもしれませんが、こちらの申告値が無条件に受け入れられるわけではないのです。

⑤ 代償金制度は在庫処分に活用できてしまう

代償金は「小売価格の5割」なので、在庫が余ったとしても金銭的な面だけを考えれば国会図書館への納本などせず、その分は通販に回した方がよほど得られる金額は多くなります。
一方で在庫が大幅に余り、通販でも売りきれない場合はどうでしょうか。
この場合、破棄するくらいなら納本で代償金を請求すれば半額は回収できるという考え方もできます。
そもそも納本は「国民共有の文化的資産として、広く利用に供し、永く後世に伝えるため」に法律で定められた義務なので、金銭的な損得で考えること自体が根本的におかしいことなのですが、現実問題としてそう捉えてしまう人も存在するのでしょう。

一方で代償金が支払われるのはあくまで1冊分です。
単に捨てるのと比べれば小遣い程度にはなるでしょうが、「ぼろ儲け」と言われるとどうでしょう。

比較的高額な私の本ですら、3冊で受け取れたのは2,500円です。
必要書類を書き、価格証明の資料を用意して(コミケで頒布される本は一般的に本そのものに販売価格が書かれていないため別途証明が必要)、郵送ないし国会図書館へ持参する、その手間を考えれば近所でアルバイトでもしていた方がマシです。

確かにこの制度を在庫処分に活用できてしまう面は否定しませんが、よほど高額な本を何冊もまとめて納本するのでもない限り、それでぼろ儲けしてガッポガッポとなるのは難しいでしょう。


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