夜明け前の景色

憧れの君をバイクの後ろに乗せて
海岸沿いの国道を
北に向かってひた走る。

真夜中のランデブー 

君とこうして
二人で潮風を感じてるなんて
信じられない気分だ。

僕の背中に
君のぬくもりを感じながら
左手に見える
海に反射している月明かりが
ぎこちない僕の心を和ごましてくれる。

途中、自販機を見つけて
道路脇にバイクを停め
君がリクエストした
グレープジュースと
僕の缶コーヒーを買った。

防波堤に二人で座って
月明かりに照らされた
海を見ながら僕は
「夜の海もいいね」と話しかけた。
君は「うん」と頷きながら
「海風が気持ちいい」と言いながら
ずっと海を見つめていた。

僕は、憧れの君を目の前にして
何を話せば良いのかわからずに
静かに寄せてくる波を見つめていた。
君との距離を縮められずに
時は静かに流れていった。

僕は、沈黙を破るように
「もう少し先に行こうか」と
君を誘い、二人バイクに跨り
海岸通りの国道を
再び北へ走り出した。

50キロから60キロくらいの
速度で流しながら
時たま話しかけてくる
君とのやり取りを楽しみながら
距離間が少しずつ縮まる感じに
僕の心は高鳴っていった。



しばらく走っていると
バックミラーに
複数のヘッドライトの集団が
後ろから迫って来て
あっという間に僕らは囲まれてしまった。
バイクが前に2台
右側に3台、後に2台
横のバイクが
僕らを冷やかしながら
何かを叫んでいる。
後のバイクは、煽りながら
ギリギリまで迫ってくる。

僕は、これはいかん

まずいぞ めちゃくちゃヤバい

終わったなと思った……

彼らの格好からして
この辺の地元の奴らだと思った。
此処は市内から100キロくらい離れた
田舎の海岸線 
僕は絶望感に包まれながら
天国から地獄へと落とされた気分だった。

前2台の右側のバイクに乗っているヤツが
左側によって止まれと僕に合図を出した。
本気でヤバい 止まれば終わりだ 
逃げられない
僕は、最悪な光景を想像していた。

ボコられて、財布取をられ、君が
ゲスの極み達におもちゃの様に
回される、そんな屈辱なんて
僕には耐えられない

君を守らなければ、そう思った僕は
横にいるゲス野郎の近くまで
バイクを寄て、バイクに跨がる
ヤツの左太ももを
思いっきり横に蹴った。
横のバイクは、バランスを崩して
右側に大きくよれた。
そのすきに、空いた右側から対向車線に
パッシングして、シフトダウン
アクセルを開けて
素早くシフトチェンジ
アクセル全開で
前の2台をパスして前に出た。
長い直線をコーナー手前まで全開
シフトダウンしながらコーナーを注視
幸いコーナー付近に
ヘッドライトの気配がなかったので
右コーナーに侵入、対向車線を使って
曲がりきり今度は左コーナーを
抜けて前を見たら直線になっていて
300メール先に信号があって赤だ
信号手前で減速して、左は海なので
右側の道路からの車両のライトの光を
気にしながら車が来ないのを確認して
赤信号をちぎって、信号機を越えたあたりで
バックミラーを見たらかなり後だが
奴らの複数のヘッドライトが見える
次のコーナーでステップが
アスファルトにあたるのを感じた時
後には君が乗っていた事に気づいて
はっと我に返った。
逃げることに夢中になって
君の事も考えず危険な運転になっていた。
それからは、無理りにコーナーを
攻めずに夢中で逃げた。
しばらくミラーを確認しながら
走っていたが、もう後から
追ってくるようすはなかったが、念の為
そのまま北へバイクを走らせた。

どれくらい走ったのだろう
海の方を見たら、薄っすらと
空が明るくなっていた
流石に奴らはもう
追っては来ないだろうと思い
バイクを道路脇に停めて
ここで、日が昇るまで
休んでいく事にした。

二人で防波堤に腰掛けて
もうすぐ日が昇る地平線を横目に
僕は彼女に謝った。
「怖い思いをさせてゴメン」
申し訳ない気持で僕は頭を下げた。
彼女は、ニッコっと笑いながら
「スリルがあって面白かったよ」と
僕の事を気にかけて
そう言ったのだろう
本当は、怖かったはずなのに…
それから二人で修羅場になった
出来事を振り返りながら
笑って話しが出来るのことに感謝した。
しかし大事に至らなくて
本当に良かった。

それからしばらく二人とも
もうすぐ夜が明ける
地平線を見つめていた。

何か気配がして、君のところを見たら
ずっと僕を見つめている。
こ  これはもしかして……


僕は、そっと 彼女の唇に
僕の唇をかさねた。

このまま夜が
明けなければいいのにと思った。

永遠に…


君との距離が
グッと縮まった事が嬉しかった。


若き日の遠い思いで…。


宇多田ヒカル/ Distance 2001年












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