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子供会行事②

父と2人で参加した子供会。

理佐ちゃんと理佐ちゃんのお父さんと私と父で波打ち際でパシャパシャ水の冷たさに慣れた頃、もう少し深い所までゆっくり進むと大きく白波の立つ所まで来た。

海の動きが足に伝わって目の前で巻き寿司を巻くような動きで白い波ができる。凄い迫力に暫く父にしがみついてその様子に呆然と見惚れた。

そして思った程、海の水は冷たくなくてむしろ温水プールのような温かさがあった。


波が来るたび父に持ち上げて貰い何度も何度も波を乗り越えた。持ち上げて貰った一番高い瞬間は水平線が見えてキラキラ光る海が凄く綺麗だった。


理佐ちゃんもお父さんに私と同じ様に波が出来る度に体を持ち上げて貰って波を乗り越えキャッキャしていた。時折

「○○ちゃ〜ん」

と振り向いて私を呼んで手を降ってくれた。私も

「理佐ちゃ〜ん」

と呼んで手を降った。


足全体を空気を含んだ海水の渦が包み込むとシュワシュワと不思議な感触がしてとてもくすぐったくて楽しかった。

どれくらい遊んだのか父が

「お昼ご飯だからそろそろ上がるか」

と言った。振り返ると同じ地区の子達も砂浜を目指して戻っている所だった。多分、私は気づかなかっただけでそろそろお昼ご飯だと声がかけられたのだろう。

隣の理佐ちゃんもお父さんと戻る所だった。


海の家に戻る前に隣接されたシャワールームで理佐ちゃんとキャッキャキャッキャしながら冷たいシャワーを浴びてプルプル震えながら更衣室でワンピースに着替えた。

海の家に戻るとテーブルには焼きそばと焼き鳥とフランクフルトとファンタが用意されていた。あとお菓子が入っているであろう紙袋。

当時お肉が食べれなかった私はお昼ご飯の内容にだいぶがっかりしたが、理佐ちゃんがお肉大好き少女だったのがびっくりだった。

隣でモリモリ沢山食べているのを見て私も焼き鳥を食べてみた。

しかし、もも肉特有の歯ごたえと皮の食感と鼻を抜ける臭みがまだ無理でひと口食べて父に譲った。

私は母が作ってくれた梅干しのお握りと麦茶でお昼ご飯を済ませ、早速紙袋を開けお菓子のラインナップを確認した。大好きなチップスターとポッキー。あとガムとアメとせんべいなどオヤツが沢山入っていて凄く嬉しかった。

父は父で地区のお父さんお母さん達とビールを軽く飲み始めてご機嫌だった。


その後は理佐ちゃんとお菓子を食べつつ貝殻拾いをする事にした。

子供達だけでは海に近付いてはダメだと言われていたので海の家の前で貝殻拾いをした。


貝を拾いながら理佐ちゃんは大西先生の事を話してくれた。

理佐ちゃんは都会(同じ県だが県庁所在地出身)から引っ越して来た子で喘息を患い少しでも空気の良い所に、とお父さんの実家のある東区に引っ越して来たのだ。

体育はゆっくりとした体操以外は見学だった。

「大西先生ね、理佐の事、都会から来たスマシ屋とか喘息持ちのカタワとか弱虫って言うから大っきらい」

なんと理佐ちゃんも大西先生のイジメにあっていたのだ。


え、理佐ちゃんも?

「○○ちゃんも嫌な事いっぱい言われてたよね。だから理佐、おばあちゃんにその事言いつけたの。理佐の事カタワって言った事とか弱虫って言った事とか全部」


理佐ちゃんは身重のお母さんでは無くお父さんでも無くおばあちゃんに言ったらしい。

理佐ちゃんのおばあちゃんは地区でも一目置かれていた。おじいちゃんの体が悪くておばあちゃんが地区の色々をしているのもあったが、何よりめっぽう気が強かった。

「ミサちゃん(理佐ちゃんのおばあちゃん、仮名)は寅年生まれだから男勝りで気が強い」

と家の祖母が良く言っていたのだ。


「だから、おばあちゃんすぐ、久坂さん(区長さんのお宅。大西先生が居候している家)ちに怒鳴り込んで、東区に居られなくしてやるぞ。って大西先生に怒鳴ったんだって。いくら先生でも言って良いことと悪い事があるって」


私はその理佐ちゃんのおばあちゃんの迫力を想像しながら理佐ちゃんの話を聞いていた。心臓がドキドキして真っ黒にモヤモヤしていた心が急にスッキリと晴れ上がる良い気分になった。


理佐ちゃんのおばあちゃんは凄いね。

「家おばあちゃん寅年生まれだから気が強いんだって」


寅年…やはりそうだったのかと妙に納得した。


「大西先生じゃなくてイヨちゃんみたいな先生が良かったね」

うん、イヨちゃんみたいな先生だったら楽しかったよね。


当時大好きだった"イヨちゃん"は理佐ちゃんも大好きだったようだ。

大西先生嫌いとイヨちゃん大好きと言う共通点を見つけた私と理佐ちゃんは親同士もびっくりするくらい仲良しになり、その日からどこへ行くにも何をするにも一緒にいる親友になった。

高校で別々になるまでずっと一緒にいた大好きな友達だ。


帰りのバスは私と理佐ちゃんで座った。

父と理佐ちゃんのお父さんはニコニコして私達を見ていた。

バスでの帰り道、海が凄く綺麗だとか、白い鳥がいたとか姉弟の事とかずっとお喋りをして帰って来た。休み明けからは一緒に登校もする事を約束し、夏祭りも一緒に浴衣で出る事にした。


父は

「2人でくっ付けとけば仲良くなっと思ってたんだ」

と家に帰って来てニコニコ笑って言った。


実は前日の夜の寄り合いで子供会用のお菓子の袋詰の時に理佐ちゃんのお父さんと人見知り2人を一緒にしてみようと話をしたらしい。


両方の父親達の目論見は大当たりだったのだ。


東北の短い夏休み。でも小学校に入学して初めての夏休みは海に行ったりいとこと理佐ちゃんと遊んだりとても楽しい夏休みとなった。


そして夏休み開け。

行きたくないとぐしぐしと泣く私を連れて昨日理佐ちゃんと待ち合わせの場所に決めたお互いの家の中間点にある桃の木まで父と向かった。

ふと顔を上げると向こうから来る理佐ちゃんもお父さんと手を繋いで同じ様にぐしぐしと泣いていた。お父さんのもう一方の手にはおばあちゃんの飼い犬の柴犬マサルがいた。朝の散歩だ。


「おはようございます」
「おはようございます」

両方の父親達が和やかに朝の挨拶をして朝からコレですよ。うちもだぃ。などお互い苦笑いをしていた。

「ほら理佐。○○ちゃんと行きなさい」

理佐ちゃんのお父さんが優しく理佐ちゃんの背中を押した。


お互いに泣き顔で妙に気恥ずかしい気持ちになり昨日まであれ程一緒に遊んだのに何故かモジモジしながら歩き出す私達。


暫く無言でもう何を喋ったらいいかもわからなくなっていた。


そしてちょっと歩いた後、森に囲まれた通学路の途中で何気なく2人で振り返ると父親達が手を降っていた。

マサルもワンと1回鳴いた。


私も理佐ちゃんもそれを見てしまい顔を見合わせて思わず吹き出して笑ってしまった。

「お父さ〜ん」
お父さ〜ん

私と理佐ちゃんは父親達に手を振りかえした。


そこからは振り返らず学校まで行ったんだと思う。理佐ちゃんと昨日森の中の砂利道を探検した話をして登校が楽しかった。森の中の砂利道はまだまだ奥まで続いていたからだ。探検の続きは今日学校が終わってからする事にした。学校が終わるのがとても楽しみだった。


こうして私と理佐ちゃんは子供会行事を乗り越えて親友になりちょっぴり大人の階段を登ったのだ。



そして帰って来て探検の続きをした森の中の砂利道の先には大きな広い麦畑がありました。

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