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君と迎える、世界の中心で

毎回、君に愛してるよと伝えると
返ってくる言葉は決まってひとつ。

"そういうのは特別な日に言うのよ"

僕は生きているうちに
1回は君の声で
君の言葉で、聞いてみたい。
いつの間にかそれが生きる意味となっていて
それが生きている価値となっていた。


24日の今日、僕は君へプレゼントを渡す。
子供たちの楽しげなはしゃぎ声と
街の明かりに負けじと輝く婚約指輪。

見せたらなんて言うかな
どんな顔するかな。
君の顔を想像しながら歩いていると
横断歩道の向こう側に君を見つけた。
信号は点滅している。
僕は手を振った。

君が気づきこちらに歩き始めたその瞬間
甲高くブレーキ音を鳴らしたトラックが
目の前を勢いよく通り過ぎた。
何が起こったか分からなかった。

彼女が倒れている。

その9文字の情報量でも何が起こったか理解できた。
彼女が轢かれたのだ。

頭が真っ白になるってこのことなんだと思った。

君へ必死に呼びかける自分の声
周りの悲鳴、混乱する街中

様々な音が混ざり合う中
君が放った精一杯のか細い声は
何よりも大きく聞こえた。

"愛してるよ”

ああ。
こんな声だったか
こんな顔だったか
随分想像と違ったな。

ふと転がった指輪が目に入った。

握り返してくれない彼女の手の中に指輪を入れた。

なんでもない今日
いや、 特別な今日。

彼女は生きる手段を失い
僕は生きる意味を失った。

冷たく僕らを引き離すような
灰色のアスファルトの上には
彼女が今日まで生きた真っ赤な証が
ゆっくりと流れていた。

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