偉大なるギタリスト、EVHとゲイリー・ムーア

EVH、これはギター界の革命児の1人であるエディ・ヴァン・ヘイレンのことである。
対してゲイリー・ムーア、彼はエディとは対照的にベーシックなテクニックを駆使して素晴らしいプレイを残したギタリストである。ちなみに英語での正しい発音はガリ・モーである。どちらもすでに亡くなっているが今でも彼らのギタープレイは多くの音楽ファンを惹きつけて止まないスーパーギタリストであった。

しかし彼らの知名度には大きな差があった。特にアメリカでの知名度はエディがゲイリーを大きく上回り、アメリカでゲイリーを知ってる音楽ファンは熱心なギターファンを除くとそれほどいないかも知れない。
デイヴリーロスやサミーヘイガーなど、圧倒的なフロントマンシップを持ったボーカリストを従えたエディのバンド、ヴァンヘイレンはほぼ全てのアルバムがビルボード上位にランクインし、ビルボード1位を取ることもあった。
この様にギターファンだけでなくそれ以外の音楽ファンにも広く受け入れられたヴァンヘイレンのギタリストであるエディの存在は全世界的に認知されていたと言って良いだろう。

一方でゲイリームーアの知名度は限定的であった。
彼のプロデビューは17歳前後、その後ブルースロックからジャズロックそして一時期あのシンリジーのメンバーになるなど活動するジャンルを変えながら活動してきた彼は母国イギリス(出身はイギリス領の北アイルランド)及びその周辺のヨーロッパでは知名度はあったものの、あくまでミュージシャンズ・ミュージシャンという立ち位置であったであろう。
その後自身の活動領域をハードロックに移した彼は世界最大の音楽マーケット、アメリカでの成功を睨み自身がリーダーとなるGフォースを結成しアメリカマーケットに挑んだが初アルバムリリース直後にバンド内でのトラブルからGフォースは解散、アメリカマーケットへの挑戦は失敗に終わる。

その後はソロアーチストとなりイアンペイス、ドンエイリー、ニールマーレイといった大物ミュージシャンをサポートに従え、邦題「大いなる野望」リリース、ヨーロッパ及び日本で商業的な成功を納めその後数年間はハードロック領域で活動を続けるもやはりアメリカでの成功を掴むことはなかった(その後ブルースに回帰し、アメリカでも一定の成功を納めることになるのだが)。

さて、EVHことエディヴァンヘイレンとゲイリームーアはライバル関係にあった。正確にはゲイリーが一方的にエディをライバル視している関係だったが。
2人ともプレイスタイルが異なるためどちらがギタリストとして優れていたかを論じることは難しい。
ギタリストとしての立ち位置も全く違う。

モンスターバンド、ヴァンヘイレンのギタリストとして作曲面でも主導権を握っていたエディだが、あくまでもバンドのギタリスト(及びキーボード)としての立ち位置を崩さなかった彼に対し、ゲイリーは作曲はもちろん作詞ボーカルも担当し全体のアレンジも含め全体をコントロールするソロアーティストであった。
ボーカルの交代はあったものの他のメンバーはほぼ同じだったヴァンヘイレンに対しゲイリーは共同製作者であるニールカーター(キーボード、サイドギター、サブでボーカル担当)以外はゲイリーが気に入らないとすぐにサポートメンバーは交代させられた。あの伝説のドラマー、コージーパウエルでさえライブのリハーサル中に解雇になっている。ゲイリーは良くも悪くも正真正銘のソロアーティストだった。

しかし両者の決定的な違いはギタープレイに対する考え方であった。
バンド、ヴァンヘイレンのギタリストとしてエディヴァンヘイレンらしいプレイを追求するエディはある意味他のギタリストのプレイには無頓着で自身のプレイに対する評価もそれほど気にする気配はなかった。実際にエディヴァンヘイレンは多くのファンや他のギタリスト達からNo.1ギタリストの評価を得ていたということもあっただろう。
一方でゲイリーは他のギタリストへのライバル心が強いギタリストであった。商業的な成功でも世界的なギタリストとしての評価もエディに軍配が上がっていたのは事実であった。
ゲイリーはハードロックのみならずブルースもジャズも弾ける器用でインテリジェントなギタリストであったが一方でタッピングを始めとする特殊なテクニックを駆使するエディのプレイはある意味邪道に思えたのかも知れない。もちろんエディが世界一の評価を受けていて商業的にも圧倒的な差をつけられていることへの嫉妬もあったであろう。
ゲイリーは音楽メディアのインタビューでエディのことを聞かれても、タッピングなんて知らない、やり方も知らないとエディのことを話すのを拒絶することも度々あった。
ゲイリーがエディのことをそれほど意識しなくなったのは彼がハードロックを離れてブルースにその活躍の領域を移し、アメリカで一定の商業的な成功を納めてからであろう。彼はアルバムレコーディングでブルースの大御所であるアルバートキングと共演も果たしそしてモントルージャズフェスティバルの常連出演者にもなりライブではあのBBキングとの競演も果たしている。
ゲイリーはブルースギタリストとしての成功を納めることで、言葉は不適切かも知れないが彼の虚栄心を満たすことができた。それと同時にエディヴァンヘイレンへのライバル心もいつの間にか消えてしまったであろう。

自分はエディのプレイもゲイリーのプレイも大好きだ。ゲイリーには特殊なテクニックを駆使した花火のようなエディのプレイは出来ないだろうがエディもパリの散歩道に代表されるようなエモーショナルなプレイは彼にはそぐわない。
2人とも素晴らしいギタリスト、アーチストである。

残念ながら2人とも既にこの世にいない。ゲイリーは58歳で、エディは65歳で亡くなっている。2人とも亡くなるには早過ぎる年齢であった。
しかしこれからも彼らのプレイや作品は色褪せることなく人々の心に響き続けるだろう。
R.I.P.

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